6 麗しの美女
チャイムらしきものは見当たらないので、家の扉を手でノックする。
少し待ってみたが、扉の向こうから何も反応はない。
人の気配がないから、誰もいないのかな。
扉を開こうとしてみるが、押しても引いても開かない。
「すいません! 誰かいませんか!」
声を掛けながら、もう一度ノックする。
それから待つこと数秒、扉からカチャリという乾いた音がして、ゆっくりと扉が開かれた。
驚いたことに、扉の向こうから顔を出したのはブロンドの美しい女性だった。
目鼻立ちがしっかりしていて、外国人であろうことは一目でわかる。少なくともアジア人ではない。かなりの美人ではある。年齢は二十代後半くらいか。
少し開けた扉から顔を出した金髪の美女は、こちらをいぶかしむように見つめてくる。
人はいた……が、なにやら怪しまれているな。
俺はできるだけ笑顔で口を開く。
「あ、こんにちは。突然すみません、実はちょっと伺いたいことがありまして……いいですか?」
美女はさらに表情を険しくさせる。
言ってから気付いた。日本語が通じない可能性があるということに。しかも、森の中で逃げ回ったせいで俺の服は泥だらけ。
怪しい男に見えても仕方ないか。
「……あの、どちら様ですか?」
美女が日本語で問いかけてきた。
よかった。日本語が通じるのか。
それと同時に、彼女の直接心に響いてくるような、透き通った綺麗な声にも驚いた。美人なだけではなく声も美しいとは。
俺は必至で考えを巡らせながら、これ以上怪しまれないように適切な答えを導き出す。
「すみません。あの、近くを通りかかったんですが、ここはどこなんでしょうか?」
「……ここですか?」
「はい。実は道に迷ってしまいまして」
もっともらしいことを口にしていると、女性は不思議そうに首を傾げ、思いついたように言う。
「もしかして、旅人の方ですか?」
なにやら勘違いをしてくれたらしい。
「えっ、あ、はい。そうなんです。旅の途中でグスグスに襲われて、森の中を逃げているうちに道に迷ったんです」
言葉に詰まりながらも、旅人という言葉にここぞと乗っかって、俺は身の上を説明した。
嘘を吐くのは辛いが、違う世界から来ましたなんて馬鹿なことを言うわけにもいかないから、仕方がない。
嘘の身の上話を聞いた美女は、険しい表情を少し緩めてくれる。
「グスグスが出たんですか。それは大変でしたね……あ、中へどうぞ」
美女が扉を開け、家の中に招き入れてくれる。
「すみません。助かります……」
俺は軽く頭を下げながら家の中に足を踏み入れた。