5 壊れた村
街道に沿ってしばらく進むと、人間が作ったと思われる人工物が見えてきた。
「村だ!」
俺は子供のように声を上げて駆け出す。
だが、その喜びはすぐに打ち砕かれることになった。
村の入り口であろう両開きの巨大な木製の門は、片側が破壊されて瓦礫と化している。
村の周囲をぐるりと囲むように並んでいる丸太は敵を中に入れないためのものだと推測されるが、砲撃を受けたかのように穴がいたるところに見受けられる。
これは……村じゃないな。
瓦礫を避けて村の中に入ってみる。
おそらく家が数件あったと思われるところに瓦礫の山が残されていた。
周りに人の気配はない。まるでゲームの中の世界に紛れ込んでしまったような感覚。戦場跡と言っても過言ではないかもしれない。
ははは……せっかく来たのに廃墟しかないじゃないか!
「おい、精霊! 出てこい!」
召喚を唱えると、腕輪から光の玉が飛び出す。
『へい、なんですかい?』
ふざけた声と共にベイルが姿を現す。目の前をふわふわ浮いている。
「なんですかい?――じゃないだろ、廃墟じゃないか」
『ええ。見事に廃墟ですな』
ベイルは村の中を見回すように空中でくるくると回り、淡々と言い放った。
いや、うん。それはそうなんだけどね。
「……なんで村がこんなことになってるんだ?」
『それはミナーヴァの仕業ですな』
「ミナーヴァ?」
聞き覚えのない言葉だ。
『神ですよ』
「えっと……神っていうのは、神様ってことか?」
『ええ。空から舞い降りてくる神様のことですぜ』
どうやら俺が思っている神とは少し違うらしい。
元の世界では空から神が降りてくることなどありえない。
まあいい。俺にはどうせ理解できないだろう。深くは聞かないことにする。
「で、その……ミナーヴァはどうして村を?」
『理由は私にもわかりませんな』
全てを知ってるわけではありませんから、とベイルは軽快に笑う。
神と名乗るくらいだから、人間には理解できない考えがあるのだろう。もしかしたらイライラしてたのかな、などと思いながら周囲を見回していると、俺はあることに気づく。
「その神様が村をこんな滅茶苦茶にしたのはわかったが、人間はどこだ?」
家の瓦礫はそこらに転がっているものの、人間がいないうえに、死体もない。どこへ消えたのか。
『おそらくそれもミナーヴァに殺されたんでしょう。ミナーヴァは特殊な魔法を使って人消し去ると聞いたことがあります』
「そんな魔法があるのか……」
神ならそれくらいの魔法が使えても不思議じゃなさそうだな。
『光の魔法だと聞きましたね。詳しいことはよく知りませんよ。精霊の噂で聞いただけですから』
「精霊の噂ね……それを言うなら風の噂だろ」
『いやいや、精霊の間では精霊の噂って言うんですぜ』
知らないですか、と勝ち誇った口調で言ってきた。
ちょっとイラつく……。
ベイルとの無駄話を切り上げ、村を見回していると、村の奥にある大きな建物が目に留まる。
村の奥に建つレンガ造りの家は辛うじて家の様相を保っていたが、二階部分は根こそぎ破壊されていて、半壊状態。人が住めるのかさえ怪しいところだが、他にめぼしい建物は全壊して残っていない。
訪ねてみる価値はあるか。
「よし。ベイル、ちょっと黙ってろ」
俺は宙に浮いているベイルをポケットに押し込み、奥の家に足を向けた。