16 日常
カルフェ村からミエイに戻って、すでに一週間が経った。
家の中で倒れた後、俺は半日ほど眠っていたらしい。目を覚ましたときにはベッドの中にいて、外は朝になっていた。ふと隣を見ると、ハイラが俺の手を握りながら、ベッドの脇でうつ伏せになって眠っていた。
一日ほどで体の調子が戻り、今はオズワルドの指揮の下、家の上の瓦礫を取り去る手伝いをさせられている。
家の上の瓦礫をそのままにしておくと、そのうち天井が落ちてくるらしい、壁や天井にヒビが入っていたのは、それが理由だったようだ。
ベイルを呼び出し、家の外に大きさの違う『砂の壁』を並べて簡単な階段を作り、家の屋根に登って手作業で瓦礫を家の外に落としていく。
しかし、これが辛い。
「やばい。死にそう……」
もともと体力のない俺は真上から照りつける太陽と、今までやったこともない過酷な重労働によってすでに限界が近い。
視界の隅で疲れ知らずのローレルが一人で柱を担ぎ、屋根から放り投げて落としていた。
「ほら、お兄さん頑張って」
元気な笑顔で応援してくれるのはありがたいが、普段から体を動かす機会がない大学生を舐めてもらっては困る。
こんな重労働ができるほど体力があるわけないのだ。
「おい。さっさとしろ」
まだ傷の癒えないオズワルドは基本的に命令をするだけだ。ロリスの魔法『微かな癒し』によって傷口は塞がったが、まだ内部の傷を治すには至っていない。
頼むから、早く治してほしい。
俺は苦肉の策としてロリスを召喚して手伝わせることにした。
「ロリス。ちょっと手伝ってくれないか」
『主様。私、重い物は持てません』
「……ちょっとだけなら」
『無理です』
笑顔で拒否される。
もう何も言うまい。
単純な重労働を一時間以上もさせられ、やっとの思いで大きな瓦礫のほとんどを家の上から下ろすことができた。
家の中に戻った俺は疲れて倒れ込む。
偶然廊下にいたユノが床に倒れ込んだ俺に気づき、軽い足取りで駆け寄ってきた。
「……レオ」
「ああ、ユノちゃん」
子供というのは不思議だ。お人形のような可愛さを持ったユノは、見ているだけでも自然に癒されてしまう。
まさに天使。
「……疲れた? ユノも手伝う?」
「ありがとう。でも大丈夫だよ。もう終わったから」
ユノの頭を撫でていると、オズワルドが扉の隙間から顔を出し、俺の姿を確認する。
「おい小僧、瓦礫の撤去が終わったら村の門を直しに行くぞ。あんな砂で固めたような補修では、いつ崩れるかわからんからな」
……悪魔のような台詞が聞こえる。
まだ俺に働けというのか。
オズワルドは建築のことになると顔が一段と険しくなり、態度も荒くなる。というのはローレルの言葉だ。その通りだな、と俺は心の中で同意しながら、自分の頬を叩いて気合いを入れ直した。
「仕方ない。行くか……」
「あ、レオさん。ちょっと待ってください」
重い腰を上げると同時に、リビングからハイラが走ってきた。
その手にはコップが握られている。ハイラはコップを差し出し、微笑んだ。
「これ、飲んでください」
中身はエールだった。
「ああ、助かります」
仕事終わりのビールみたいだな、と思いながら俺はコップの中のエールを一気に飲み干した。
うん。少しだけ回復した気がする。
「……あの、レオさん、この服どう思います?」
ハイラはその場でくるりと回ってから、ニコリと微笑む。
言われてみると、今日はいつも来ている淡い色のだぼっとした服ではなく、真っ白なワンピースに似た夏らしい格好だ。
「……ああ、そうですね。涼しそうでいいんじゃないですか」
ハイラから微笑みが消えた。
「それだけですか?」
「えっ、いや……はい。他に何か?」
何を求められているんだろうか。
ハイラは口を尖らせて言う。
「可愛いね、とか、似合ってるね、とかあるじゃないですか」
そういうことか、と納得する。
「でも、ハイラさんは何を着ていても綺麗ですよ」
「……へっ、そ、そうですか?」
なぜかハイラは赤く染まった頬に手を当てて、恥ずかしそうに床を見つめ、ぶつぶつと何かを呟いている。
「……レオ、おじさんが呼んでる」
ユノの言葉でオズワルドのことを思い出す。
やべっ、行かないと。
まだ頬を赤らめて恥ずかしそうにしているハイラにコップを手渡す。
「ハイラさん。エール、ごちそうさまでした」
早口でお礼だけを告げて、外に飛び出す。
すでにオズワルドとローレルが村の入り口で俺を待っていた。
日に日に強まってくる日差しの中、俺は駆け出す。
もうすぐ、ミエイ村に夏が来る。
これで第一幕が終了です。とりあえず主要なキャラが出揃いました。
次の第二幕から本格的に人を集めての村の発展が始まる予定です。
ですが、第二幕の前に、序幕と第一幕を読み返してみると結構雑な感じの出来だったことに気付きました。ストーリーは変えませんが、少し修正します。




