黒い戦士
私は暗闇の中、遠くに見える光を見つめていた。茫然自失として、しかしその瞳だけはギラギラと輝かせて、荒く肩で息をする。
私は追いつめられていた。
共に逃げていた親友の最期。私は独りになった。
襲いくる毒ガス、身体にからみつく罠、我々を一瞬にして潰す強力な何か――。
敵の姿が見えないという恐怖。立ち向かうことも出来ず、私の同胞はみな殺された。
震えが止まらない。何も判らぬまま死に逝く同胞の姿が今も網膜に焼き付いている。圧倒的な無力感と、恐怖。それだけが私を支配していた。
ここを出れば一刻を待たずして私は漆黒の世界に身を落とすことになるだろう。永久に抜け出すことの出来ない闇の世界。先に逝ってしまった同胞の断末魔のうめき声が鼓膜にこだまする。
それでも、私は行くしかない。たとえ何も出来ずとも、殺された家族や同胞の為に。この場で飢え死ぬのを待つことは、戦士の魂が許さない。
ゆっくりと走り出す。徐々に速度を上げて、全速力で光の中へ飛びだす――。
その時の光のまばゆさを私は忘れない。真夏の太陽よりも熱く、今まで見たどの夕陽よりも赤く輝く、その光。
死を強烈に意識した時、生命は激しく燃え上がるのかもしれない。
なぜかスローモーションで流れる景色を見つめながら、私はふとそんなことを考えた。
迫り来る影を認識しながら私は、私の生きた道を何度も反芻していた。
悔いは、ない。
――――バシッ!
「ママ〜。また一匹いたよ。冷蔵庫の下から出てきた」
「あら、イヤぁねぇ。バルサン焚いたほうがいいかしらね」
これから奴らに会ったら、ほんの少しだけ彼らの中のドラマにも思いを馳せてあげましょうね。