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太陽の小路

作者: 伊湖夢巣

その小路は小高い丘にまっすぐのびていた。

 男はその道を昔の事に思いをはせながら、ゆっくりと丘に向かっていた。

あれは3年前彼女とこうしてこの路を歩いていた時、彼女が

「太陽が正面にある!!」

「まるで太陽に向かっているようね」と、うれしそうに言っていた。

 それ以来二人はこの小路を「太陽の小路」と呼ぶようになった。


 そんな太陽の小路も一度だけ

今まで以上に特別な物になったことがある

 些細なことで彼女と喧嘩してしまった時

太陽の小路に虹がかかった・・・

虹の橋が二人を仲直りさせた・・・

そして今、目の前に虹の橋が架かっている


 その虹の橋を見ながら二人はゆっくり歩きだそうとしている


 そう、あれは夕立が通り過ぎた後、彼女と待ち合わせをした時のことである。

 丘に向かい歩いていた

 その小道に来る直前まで、二人は軽い口げんかをしていた


 とても些細な事が原因だった

 あまりにも些細な事だったのであまり覚えていない・・・

 なぜなら 青年と、その彼女は空を見て言葉を失った

 あまりの美しさに喧嘩をしているのが馬鹿らしくなっていた


そして、そこには虹が架かっていた・・・

「君との喧嘩があったから、この虹が見れたのかな?」

 僕は照れながら、

小雨もやみ、夕日で輝いている小道を指差し

「いつかきっと二人でこの輝く道に虹の架かった空を二人で歩いていきたいね」

 彼女も照れながら・・・

「もちろん白いドレスを着てだよねと」

二人は夕日に負けない赤い顔で空を見上げていた


 二人の手はしっかり握られ

 約束だよと

キスを交わした

その途端、青年は「はっ!」と目が覚めた。

 薄暗い、ジメっとしたコンクリートの壁・天井・床に囲まれた場所。

 そこはまさしく『箱』。

 刑務所と言う名の箱であった。


 いつも夢に見るのは、あの丘での事ばかりだった。

 「なんで、こうなっちまったんだろう」と、青年はつぶやいた。

 「本当なら俺は今頃・・・」と、悔やんだが今さら遅かった。


 後ひと月の間に自分は何が出来る

 この中にいて何が出来るんだ・・・

もう一度あの場所へ行くことはできるのか・・・

 記憶の無くなっている彼女とともに

 運命の歯車が少しずつ ずれてきていた・・・


 大事な約束を夢のままにして終わらせるわけにはいかない

自分には必要な人がいる

必要としてくれる人がいる

 こんなところに閉じ込められているわけにはいかないんだ


 その時、空間全体が揺れ始め目の前の壁が大きく割れた・・・

僕は光り輝く壁の向こうへと走り始めた


 僕は彼女と一緒になる不安や

記憶の無い彼女に対しての不安

自分受け入れてくれるのか・・・様々な負の力が

自分自身で心を箱の中に閉じ込めていたのかもしれない


 好きだという一つの想いを信じ 僕は今、彼女の元へと走り出した

 たった一つの言葉を伝えるために・・・

 少女は丘のうえに立っていた

 そこから見える海を見つめ、ぼんやり考え込んでいた

 私はどうすればいいのか分からなかった


 小鳥が二人の距離を縮めるかのように二人の間に飛んできた。

 彼女は私に気づき、目と目があう。

 二人は小鳥にひきよせられるかのように近づき

思わず私は彼女を抱きしめていた。


 彼女は私のことを覚えてはいないのかもしれない

だけど今、自分が出来る事は僕のおもいで君を包むことだけだと思った・・・

 彼女の目から涙が・・・

彼女は言った


 記憶の無い自分に対してこの暖かい想いをぶつけてくれる人

不安でしょうがない自分を優しく包んでくれる人

そのまっすぐな気持ちを私は信じます・・・


 私はいった

君は忘れてしまっているかもしれないけど

今僕たの前にある、太陽の小路を一緒に歩いてはくれませんか・・・

今はそれだけで十分です

 二人の思い出の詰まった路を今二人は歩き出そうとしている


 その二人の後ろから新しい太陽が昇り始めた

 今日と言う日のための太陽だ

 二人はちょっとだけ振り向きその太陽を見て、そしてお互いの顔を見つめ合い

微笑みあい手を取りこの二人で名づけた小路「太陽の小路」を下っていった

 二人に永遠に続く明日に向かって歩くために・・・


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― 新着の感想 ―
[一言] 短編で読みやすく、雰囲気があって、想像させられる文章が気分転換になって、とても良かったです。 子供の頃、いつも同じ場所から友達と見ていた、大きな夕陽を思い出してしまいました。。 この作品…
[一言] ノスタルジックで、詩的で、雰囲気が出ているのがいいですねw ラストは主人公の願いですか? かなうことのない明日を希望を持って夢見ているところが、切なくてよかったです。
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