表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

祠カラス

掲載日:2026/07/01

これは、とある人から聞いた物語。


その語り部と内容に関する、記録の一篇。


あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。

 ほい、こーちゃん、こんなところかな。ここいらに伝わる神隠し系の話たちさ。

 神隠しという名の行方不明。これは現代になっても、完全に防げないしろものだ。たとえ人力の罠やはたらきがあったにせよ、当人が感知していないタイミングで存在をかっさらう。恐ろしいものだよね。

 一瞬前までは、確かにそこへいた人が、次の瞬間にはいなくなっている。もはやどこに安心を求めればいいのか……不安にさいなまれるのも、おかしくない話だろう。時代が進み、技術が進めば、それは安全にも危険にも磨きをかけることになる。

 洗練されて、無駄なくことが運んでいく。恐ろしくもスマートな手法に対し、難解で唐突というのもまた怖いもの。それを忘れないためにも、いくつもの変遷を経ながら、こうして話は伝わり、残っているのだろうねえ。

 ん? ああ、それはごく最近に知り合いから教えてもらった話だよ。鳥をめぐる神隠しの話。


 ――え? データが全部飛んでる?


 そりゃあマズったな。変なところで保存しちゃったかな?

 仕方ない。話そのものは、おおよそ覚えている。口頭になるけれども、興味があったらメモしておくかい?


 むかしむかし。

 とある村の男の子が、日が暮れてから戻ってきた。

 なにか大変な仕事を任されているのみだったら、家族はまだ心配しなかったかもしれない。しかし、このときは今朝からずっと彼の姿が見えなかったものだから、再会した家族の喜びもひとしおだった。

 いったい、今までどこで何をしていたのか。当たり前の疑問だが、それに応えた男の子の言葉はなんとも要領を得ないものだった。


「飛んでいる鳥を見上げていたら、気づくと三つ先の山の中にいた」と。


 彼の話によると、家族と朝の仕事を終えた直後の自由な時間。

 ほかの村の子供たちと遊ぶべく、いつも集合場所にしている広場へ向かっていたところ、ふとカラスらしき鳴き声を聞いた。

 見上げると、想像以上の低空を一羽のカラスが横切っていくところだった。通り過ぎる瞬間に風を感じたほどで、つい肩をすぼませてしまったほど。

 その際、カラスは何枚も羽をまき散らしていった。

 カラスに近いところの羽は、身体と同じ黒色をたたえている。それが、はらはらと落ちてくるにしたがって、周囲の色を映し出すようになっていった。

 葉の色、土の色、空の色……本来なら、羽に隠されて見ることがかなわない、視界の先。それをあたかも、身を透き通らせているかのように思わせ、溶け込みながらひらひらと舞ってくる。

 そのうちの一枚へ触れたとき、ふと周囲の景色が一変した。


 こみ入った木々たちに囲まれた空間に、男の子は立っていたんだ。しかも、数歩先はこちらへ背を向けた熊が目の前の斜面を降りていくところだったという。わずかでも、物音を立てていたら危なかっただろう。

 むき出しの土たちがあたりに広がるが、男の子の足もとには石畳の感触がしていた。先ほど熊が降りていった斜面へ続くかたちで、四角く切り出された石の板たちが、点々と地面に埋まっている。

 後ろにも同じように何枚か石が埋まっており、その先には巨木の根元。その値上がりになかば包まれるようにして、小さな祠が建っている。

 以前に、村の神事でここへ赴いた経験が幸いし、男の子は自分がいるのが村より三つ先の山の中だと判断がついたゆえ、辛くも帰ってくることができたというんだ。


 日をあらためて、村民たちは例の祠を訪れてみる。

 ここは先祖代々、土地神様をまつっているところであり、この地へ厄が降りかかるときに守ってくださるものとされ、奉じることを怠らぬように……といましめられてもいた。

 そのため、村の者は定期的にここを訪れて掃き清めたり、とれた作物を捧げたりすることを続けていたのだとか。

 それがなぜ、このような奇怪なことを引き寄せたかは謎。当初は、祀った神様の怒りに触れたものとされ、以前より更に力を入れて奉じることが行われたとか。

 けれども、この男の子の事件が起きてから数年後。


 あの男の子と同じように、落ちた羽が周囲の景色に溶け込んでいく、例のカラスが群れを成して姿を現した。その直後、村一帯を地震が襲った……とされている。

 村のあったところは、大規模な地割れや断層により、見る影もないほど荒れてしまったのだそうだ。


 ――村そのものはどうなったかって?


 それがな、家屋から村民に至るまで目立った被害はなかったんだ。

 なぜなら村全体が、例のほこらを取り巻く形で、三つ先の山のあたりへ瞬時に移動していたのだからな。その祠があった山も、この一瞬にしてなくなってしまい、またたく間に人々のよく知る村の土地どおりになってしまった……との話さ。


 なにぶん、古い言い伝えだ。どこまで本当なのか分からん。

 しかし、伝わる通りであれば祠そのものが、自分の周囲の山をでっちあげてでも、村民たちへ受けた恩を返した。その使者として例のカラスを遣わしたのかもしれないな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ