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第68章 (クリスタル視点)


「ルビア様がどんな結論を出そうと、もちろん協力しますよ。親友ですから」


 私がそう言うと、パルル様やシャンディア様もこくこくと頷かれた。


「二人が戻ってくる前に、それこそ法律改正をして、女性騎士だけでなく、女性の職業の場がもっと広がるようにしておくわ。もちろん官吏試験の受験資格にも性別をなくしてみせるわ。

 これまではなかなか進まなかったけれど、今は加速が付いてきているから、以前よりは時間がかからないと思うの。

 お父様やブルーノも本気を出すようになったしね」


 シャンディア様が心強いことをおっしゃってくれたので嬉しくなった。


「私達は同志というより家族ね」 


 パルル様のその言葉に、ルビア様だけでなく、私や王妃殿下まで思わずほろっときてしまった。

 しかし、その余韻に浸る間もなく、どちらかと言うと現実主義者のシャンディア様が思い出したくないことを言い出した。

 もちろん、今日の集まりの最大の事案であり、避けては通れない話だったのだけれど。


「そう言えば、来週にはブルーノとルビア様の婚姻が神殿前に公示されるわよね。

 そうしたら、その結婚に異議ありと私達がみんなで申し立てをするつもりだったけれど、それは取り止めにしましょうよ」


「あら、怖気付いたの? 神殿の悪事を暴いてやると、散々息巻いていたのはシャンディー(シャンディア)だったじゃないの」


「誤解しないで、お姉様。別に怖気付いたわけではないわ。

 でも、やっぱりブルーノが不憫になったのよ。ほら、私達はみんな、ルディンも含めて今こんなに幸せな気分だっていうのに。

 もちろん、あの子のこれまでの行いを考えれば婚約解消は仕方ないと思うわよ。

 でもこの一年人が変わったみたいに頑張ってきたでしょう。それなのにいきなり騙し討ちみたいに切り捨てるのはどうか、と思うのよ。

 薬が効いて、あの子の情緒も正常になっているし、今後のことはやはりきちんと話し合いをすべきなのじゃないのかしら」


 正直なことを言うと、私もそう思っていた。おそらくエルリック様も。

 でも口を挟むべきではないと判断していたから、シャンディア様に切り出してもらえて内心ホッとした。

 すると、ルビア様も頷いた。そして、騙しているようでずっと気が重かったと告白した。


「そうね。わかったわ。そうしましょう。

 でも、それなら神殿の大掃除はどうするの?」


 パルル様の問いにみんな困った顔をした。誰構わず結婚の異議を申し立てるわけにはいかない。それこそ両家の恨みを買ってしまう。

 目的を告げて協力を求めるにしても、かなり信頼できる人間でないといけない。

 しかし、いくら忠誠心が強い者でも、自分の結婚にわざとケチを付けたい者なんていやしない。

 男性側は仕事とか、社会正義のためだとか、そんな大義名分で納得できるかもしれないが、女性側からすればとんでもない話だ。

 一度ケチがついた婚姻など縁起が悪いと、そのまま破談になるかもしれない。

 まあ、私の兄達なら平気そうだけれど、生憎そんな結婚話はまだないので現実的には不可能だ。


 すると、それまで黙って話を聞いておられた王妃殿下が、突然閃いたとばかりに笑顔になって、とんでもないことを言い出した。


「なんで気付かなかったのかしら。ここに婚約している者がいるじゃないの。

 考えてみれば、まだ婚姻の日取りを決めていなかったわよね。なぜ? 卒業したらいつ結婚しても構わないのに」


 えっ? それは私とエルリック様のことですか?


「王妃殿下、私はオイルスト帝国で騎士になるのですよ? エルリック様の妻の役目ははたせませんから、今は結婚はできません」


「役目? 羽虫退治ができればそれで十分じゃないの? 平民と違って身の回りの世話をするわけじゃないのだし、留学中だから家政をする必要もないんだから」


 あ〜。そういえば。


「あちらの国では学生結婚する人も結構いると聞いているから、問題ないんじゃない。我が国の先駆者になったらいいんじゃないの? 

 どうせ初の女性騎士になったことで、もう色々と言われているのでしょ? 

 ついでに女性の方が働いて、学生の夫を支える夫婦形態があるってことを社会に広めてやればいいじゃない。

 ほら、女性が年上だと、年下の婚約者を持ちにくくなるでしょ。婚期が遅れるって。

 どうせ年をとれば、年の差なんて大した問題じゃないと皆気付くのに。

 それに、実質妻の方が仕事をして夫を支えている家庭なんてざらにあると聞いているわ。この国でもその実態を、社会に大っぴらにしてもいいのじゃないのかしらね。

 男の矜持なんてくだらないわ。それが大事だというのなら妻と別れればいいのよ。困るのは大方夫の方でしょうよ」


「お母様、これまでの鬱憤がかなり溜まっていたみたいね、お姉様」


「そりゃあそうよ。これまで王家を支えてきたのは事実上お母様だったのに、今じゃお父様ばかりがその功績を褒め称えられているのよ。

 いくら賢妃と名高い母様だって苦々しく思っても仕方ないわよ」


「本当よね。

 でも、それはともかく、クリスが結婚をするっていうのはいい案ね。なぜ思いつかなかったのかしら」


「それでは、私がお隣のブローク伯爵家にお世話になり、エルリック様がシルベルスタ侯爵家でクリスと住めば良いのでしょうか?」


 えっ? 何を言い出すのですか、ルビア様。夫婦でお世話になるてなんて絶対に無理でしょう。別に家を借りるしかないわ。


「結婚しても同居はだめよ。クリスの負担が大きくなるから。エルリック様はそんなことは望んでいないでしょう。

 それにもし子供ができたら、仕事を辞めなくてはいけなくなってしまうし。

 少なくもエルリック様が留学している間は騎士として仕事をしたいのでしょ?」


 パルル様に訊ねられて私は大きく頷いた。

 そうよ、夢を追えと言ってくれたのはエルリック様だもの。私が家庭生活のために仕事が中途半端になったら、きっと辛い思いをされるわ。

 でもエルリック様との赤ちゃん、やはり天使みたいなんだろうな。可愛いだろうな。欲しいな。

 一瞬そう想像しただけで、心臓を剣で差し込まれるような衝撃を受けたが、今はまだだめよと頭を振った。

 三年か、四年、騎士としてしっかりと働いて、そこで多くの経験を積み、知識を得て、人脈を作らなくていけない。

 そして祖国へ戻ってきたら二人でそれを生かす仕事をしようと語り合ったのだから。


「あっ、でもね、結婚式を挙げたら避妊した上でちゃんと初夜はしなさいよ。

 それが貴族の義務だし、白い結婚だと周りから思われたら、羽虫退治なんてできないのだから」


 パルル様のあけすけなアドバイスにカーっと顔に熱が集まった。

 母親や姉のいない私にこれまで闇教育をしてくれたのは、主に年上の従姉であるシャンディア様だった。さらに年上のパルル様はむしろ聞き役だった。

 ところが、やはり結婚してお子様ができたせいなのか、少しも照れずに真面目な顔でこんなことをおっしゃった。

 私はまだキスの経験くらいしかないというのに。あまりの恥ずかしさで、思わず両手で顔を覆ったのだった。



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