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第63章 反省しないご令嬢達 2 (クリスタル視点)

「ロングス伯爵令嬢、いい加減になさいませ」


 突然声が上がった。振り向くと、一番最初に婚約解消を要求してきたご令嬢が目を釣り上げていた。いかにも堪忍袋の緒が切れた、といような憤懣やる方ないという雰囲気で。


「いい加減にしろとはどういう意味ですか?」


「ストーズン侯爵令嬢の護衛騎士様を奪ってダンスをするなんてどういうおつもりですの?」


「私がお譲りしたのよ。私はこの国で一番強いお方と踊るのですから安心でしょう?」


 ルビア様が穏やかにそう告げると、そのご令嬢はそういうことじゃないというように首を横に振った。


「みっともないと申しておりますの。見目の良い男性ばかりを選んで次々と踊るなんて」


「パートナー以外の男性と何曲も踊る方がおかしくはありませんか?」


 私は正論で返した。すると、一瞬怯んだが、彼女は強気にこう言った。


「問題はそういうことではないのです。見栄えの良い男性ばかりに声をかけて、やたらと親しげに振る舞うのはみっともないと言っているのです。

 顔を近付けたり、耳元で囁き合ったり、まるで恋人同士のようでしたわ。婚約者に浮気をしていると疑われても文句は言えないのではないですか?」


「そうよ。さっきは頭を撫でられて、嫌がるどころか喜んでいらしたのよ。はしたないわ」


「本当よ。ここは貞淑な女性が好まれる国なのですよ。こちらに嫁がれるおつもりなら、態度を改めた方がよろしくてよ」


「でももう遅いのではないですか? やはり不釣り合いな婚約など解消して、お国に戻られた方がいいと思いますわ」


 堰を切ったように、次々とご令嬢が口を開き始めた。

 ホールの中のざわつきが大きくなった。彼女達に賛同する者、その反対に顔を強張らせて批判的な目を向ける者が入り交じっていた。

 私は黙って彼女達の意見を聞いていたが、一応出揃ったようなので、やっと自分の発言の番が回ってきたと判断した。

 そこで、今発言したご令嬢方に向かって、一人一人順番にその名前を呼びかけた。


「手紙でお知らせした通り、この場で私とエルリック様の婚約についてご説明させていただきます」


 公衆の面前で自分の名前を呼ばれた彼女達は、さっと青ざめた。

 あれだけ言いたいことを言っていたのに、何を今さら慌てているのだろうか。自分の言動には責任を持って欲しいものだわ。


「私は王家とグルリッジ公爵家の依頼でエルリック様と婚約いたしました。

 皆様のおっしゃる通り、エルリック様の意思で結ばれた婚約ではありませんが、それは私にも言えることです。

 それなのに一方的に私ばかりが悪いように言われることには納得致しかねます。

 そもそも婚約解消するようにあなた方に命じられても、この婚約は王命によるものですから、私の一存ではどうにもなりません。

 それをわかっていて、嫌がらせでおっしゃっているのですか?

 それとも、そんな当たり前のことすら分からずに無知だからそんな発言をされたのですか?

 一体どちらなのか、お答え下さい」


 王命だとは知らなかったのか、彼女達だけでなく、下位の貴族の皆様は目を見開いたまま返事をしなかった。


「なぜお答えくださらないのでしょうね?

 そういえば、アネモネ嬢と式典が始まる前に発言されたアイリス嬢は、王命による私達の婚姻に対して神殿に異議申し立てをするとおっしゃいましたよね? 

 ええ、ぜひとも申し立てをして下さいね。それは国民の権利ですもの」


 ヒュッ!と二人が息を呑み込む音が聞こえた。顔が真っ青になり、今にも倒れそうだ。そんな彼女達の側にいたご令嬢方は、お仲間だと思っていたのに、スッと離れて行った。

 しかし逃げてもだめよ。兄様達にすでにロックオンされているから。


「ねえ、さっきから、彼女を貶めるようなことばかり言ってるけど、それって俺達のことも馬鹿にしているってことだよね?

 婚約者持ちのご令嬢にまるで鼻を伸ばしているように聞こえたが」


 近衛騎士団の副団長であるガイル兄上が、自分は関係ないともばかりに逃げ出そうとしたご令嬢達の前に立って、逃げ道を塞いでこう訊ねた。


「滅相もないです。スイショーグ辺境伯家の皆様は、紳士的に対応されていただけで、彼女に問題があると申したのです」


「その通りです。たかが他国の伯爵令嬢に過ぎない彼女が、スイショーグ辺境伯家のご令息全員を手玉に取っているのが、浅ましいと思っただけで」


「彼女がこの国のマナーというかしきたりを理解していないようなので、注意をして差し上げようとしただけで、ご令息方を侮辱するつもりなどありませんでした」


 あーあ。ますます兄様達の怒りを買っているわね。大丈夫かしらこの人達。ルビア様もそう思ったらしく、これ以上迂闊に不適切発言をさせないように口を開いた。


「あなた方は何か思い違いをしているのではないですか?

 オイルスト帝国は国土も国力も我が国の十倍も大きい大陸一の大国ですよ。

 その大国の伯爵家が、我が国の伯爵家と同等なわけがないではないですか。

 辺境伯家、または侯爵家と同等で、我が国の公爵家との縁談も不釣り合いなんてことはありませんよ。それを踏まえて反対されているのですか?

 そもそも、何故なんの関係もないあなた方が批判するのですか?」


「私達はエル……グルリッジ公爵令息様をお慕いしているのです。ですから、あの方には幸せになって頂きたい、ただそれだけなのです」


 そのご令嬢の言葉に他のご令嬢が大きく頷いてた。すると、ドイル兄様が抑揚のない声でこう言った。


「自分達はオイルスト帝国の人間とは違って貞淑だと言いながら、婚約者以外の男をお慕いしているとは、ずいぶん図々しいご令嬢方だな。

 君たちの方が俺達のクリス(・・・)よりずっと破廉恥なんじゃないかな」


「ち、違います。私達は不貞などしておりません。グルリッジ公爵令息様のことは、ファンとして慕っているだけです」


「ファンというのは応援する相手の幸せを願うものではないのか?」


「その通りです。ですから、あの方にはこの国で一番素晴らしい女性でないと相応しくないと思うのです。

 身分が高くて花のように美しくしい女性。そして教養があって上品な、そんな方でないと」


「この国で一番素晴らしい女性はそもそも無理なんじゃないのか。ルビア嬢は王太子殿下の婚約者だし。

 もしかして、お二人の結婚に異議申し立てをして、エルリック公子とくっつけようと考えているのか?」


 ブロード兄様の言葉に、ご令嬢方は失神するのではないかというほどの衝撃を受けていた。


「そんなことをしたら、あの嫉妬深い王太子殿下に速攻始末されるんじゃないか」


 数人のご令嬢方がふらふらと床にしゃがみ込んだ。しかし、周りにいた婚約者や親類の男性達はそれを軽蔑した眼差しで見つめるだけで、手を貸そうともしなかった。


 そこへカツカツという靴音を立てながら、一人の男性がやって来てこう言った。


「ブロード義兄上(・・・)、誰が一番素晴らしい女性かなんて主観的なことですから人様々ですよ。

 僕にとって一番素晴らしい女性とは、美しい上に優しくて頭が良くて、そして強い女性なので、ルビア嬢ではありません」


 と。


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