第60章 楽しい時間(クリスタル視点)
またやってしまいました。60章と61章の順番を間違えて投稿してしまいました。
二度目です。しかも丸1日経って気付きました。
暑さのせいでしょうか。
誤字脱字はさらに酷くなっているし。
(いつも報告ありがとうございます)
「いつものシンプルで動きやすい服もいいですが、今日のドレスも本当によく似合っています。本当に綺麗です」
エルリック様にそう言われて、恥ずかしくなって下を向いてしまった。
「照れていては駄目ですよ、クリス様。「私は美しい。エルリック様に愛されているのだから当然でしょ」というくらいのお気持ちで堂々となさっていないと、つまらない羽虫に侮られてしますよ」
メリッサさんの言葉に私は飛び上がるほどの衝撃を受けた。そんな図々しい態度がとれるわけがないわ。
エルリック様と私では不釣り合いだって誰の目にも明らかなんだもの。
私が心の中でそう思った瞬間、メリッサさんの目がキラッと光った……ような気がした。
「クリス様は、我がグルリッジ公爵家の嫡男エルリック様がご自身に相応しいとお思いになって選ばれた方なのですよ。
それなのにもしご自分が相応しくないとお考えなのならば、それは若旦那様が人を見る目がないと侮蔑しているようなものでございますよ」
「あっ!」
その言葉に思わず私は息を呑んだ。彼女の言うことはもっともだと思った。卑屈になってはだめだと、散々反省したはずなのにまたやってしまった。
私は大きく息を吸い込むと、ゆっくりと息を吐き出した。それから、無理やりだったが口角を上げた。そして
「羽虫を退治しに行ってきます」
私はガイル兄様とメリッサさんを見習って、少し相手を威嚇するくらいに毅然とした態度でそう告げてから、エルリック様にエスコートされながら屋敷を出て行ったのだった。
私達が連れ立って学園の廊下を歩いていると、周辺がざわついた。
「あの方は誰かしら?」
どうやら誰も私の正体に気付いていない様子だった。服と髪型、そして化粧が変わっただけでそんなに分からないものかしら? 男装から女装になったというわけでもないのに。
でもそういえば、留学中に街中を警邏するために待ち合わせをする度に「お前、誰?」と同じ班のメンバーに言われたことを思い出した。
帝国では身の安全を図るために、男装をして生活をしていた。しかし学園の騎士科に女性もそこそこいたので、性別を隠したりはしていなかった。
それ故にイベントにはとりあえず清楚なドレスを着て参加していたが、別段驚かれたこともなかった。
それなのに街中を巡回するカリキュラムのために、騎士風の装いをしていくと、あまりにも様になっているというか板に付いているので、学生に見えなかったらしい。
「カッコ良すぎるわ〜」
「まるで近衛みたいだなぁ〜」
意外にも称賛を浴びた。まあ、同級生達と違って経験値が高いからなあ。実際王宮で護衛もどきのことをしていたからなぁ、と思ったものだ。
ただし、囮捜査の手伝いで高位貴族令嬢の振りをした時に、仲間から全然気付いてもらえなかったので不思議に思ったものだった。
私って化粧をしないとそんなに個性のない顔をしているのかと。
その日の夜その話をしたら、それは気持ちが態度や表情に表れていたからじゃないかなと、エルリック様に言われた。
「ダンスの授業で、クリスタル嬢はいつも眉間にしわを寄せているのですが、そのことに気付いていますか?
せっかく上手なのに、その魅力が半減されているのですよ。もったいないと思いませんか?」
「すみません。ダンスが下手なんて、貴族令嬢として失格ですよね」
授業中、周りからヒソヒソと噂されていることは知っている。あんなダンスしか踊れなくてグルリッジ公子様のパートナーが務まるとのかと。
どうせ仮の婚約者で社交界に出るわけじゃない。そう開き直ろうと思っていたのに、そう簡単にはいかなかったのだ。
「貴女の男性パートは見惚れてしまうほど素晴らしい腕前です。おそらくそれと比較して下手だと思い込んでいるのでしょう。
貴女のダンスは決して下手などではありませんよ。トップレベルですよ。
それなのに貴女の自信なげな顔や雰囲気のせいで、精彩に欠けてしまっているのだと思いますよ。
まあそれでも水準以上なのですから、問題がないといえばないのですが、私はただ貴女にはもっと楽しんでダンスをして欲しいのです。
以前ガーデンパーティーでルビア嬢と共に踊っていた時のように」
気持ちが態度や表情に表われる。
淑女としても騎士としてもそれは恥ずべきことだと思った。
しかしエルリック様は言った。そんな風に思ってはいけないと。
この世界に完璧な人はいないし、僕は婚約者である貴女にそんな事は望んでいない。無責任な周りのいい加減な言葉など気に留めないで欲しいと。
そう言われたけれど、ルビア様と踊った時みたいに心から楽しくダンスを踊りたいのならば、やっぱり私はもっと上手にならなくては無理だと思うのだ。
だって愛するエルリック様と同じくらいのレベルにならないと、二人揃って楽しいとは感じられないような気がするから。
だから勇気を振り絞ってこうお願いした。
「お忙しいのに大変申し訳ないのですが、私のダンスの練習にお付き合い願いませんか?」
するとエルリック様はこれまで見せたことがないほどの満面の笑みを浮かべた。とても幸せそうな、嬉しそうな笑みを。そして
「ええ。喜んで。貴女と踊るのが私の長い間の夢でしたから。
半月後の学園の創立記念パーティーでは、私達の息の合ったダンスを披露して、周りの者達の度肝を抜かしてやろうではないですか。
愚かな発言が今後一切できなくなるように、完膚なきまでに叩きのめしてやりましょう」
その笑顔と裏腹に挑戦的にこう言い放ったのだった。
そしてそれから二週間、私は毎日クタクタになるほどエルリック様とダンスを踊り続けた。自信のない原因は経験値の無さだけなのだ。自信をつけるなら踊るしか仕方がないのだから。
レッスンを続けていくうちに、やがてコツというものを覚え、心から楽しくなってきたのだ。
だから踊り始めると、エルリック様と離れがたい気持ちになって、ついつい時間を忘れてしまったのだった。




