第61章 反省しないご令嬢達(エルリック視点)
またやってしまいました。60章と61章の順番を間違えて投稿してしまいま
暑さのせいでしょうか。
誤字脱字はさらに酷くなっているし。
(いつも報告ありがとうございます)
入れ替えのやり方がわからないので、次の60章を読んでから、この章を読んでもらえたらと思います。
申し訳ありません。
学園の創立記念パーティーの日がやってきた。僕はお揃いの色味の衣装を身に着けて、クリスタル嬢と共に学園へ向けて出発した。
「羽虫退治、頑張ってきて下さい!」
という使用人達の声援に送られながら。
今日、ようやくあの鬱陶しいご令嬢達に自分達の立場を思い知らせてやるつもりだ。そして二度と僕達に余計な戯言を吐くことができないようにしてやる。
そうすれば、まだ行動に移していない者達も、思い違いや無謀なことは絶対にしてはいけないと肝に銘じることだろう。
学園に着くと、僕とクリスタル嬢は別行動になった。なぜなら僕は、生徒会の役員に復帰させられていたからだ。
ブルーノ王太子殿下が公務とカウンセリグで超多忙になって、生徒会活動を続けることが事実上不可能になったせいだ。
それまで、準役員として手伝いをしてくれていたルビア嬢も、密かに留学の準備を始めたためにその時間がなくなったし。
僕はかつての仲間達に懇願されてしまい、学園の創立祭までという理由で役員に復帰していたのだ。
クリスタル嬢からはしきりに申し訳ないと言われたが、彼女とのダンスの練習という楽しみがあったからこそ、僕は生徒会の役員の仕事もこなせたのだと思う。
その仕事を出来るだけ早く終えて帰宅したかった僕は、ちょっかいを出してくるご令嬢に気を留める余裕など全く持てなかったので、面倒な思いをしなくて済んだのだし。
ただし今日はパーティーの主催者側だったので、その最後の準備をしなくてはならなかったのだ。
学園の大ホールの壇上で準備を進めながらも、僕はホールに集まっている生徒達の様子を伺っていた。
生徒会役員でもありながら断罪の対象者であるアネモネ嬢には、ホールのテーブルセッティング係りに指名しておいたので、近くにはいない。
彼女はクリスタル嬢を一度呼び出した後は、何も行動を起こしていない。寝不足気味の僕の婚約者に凄まれたのが相当怖ろしかったのか、その後僕達を避けるようになっていた。
生徒会室でも僕の目を見ようとしないし、必死に気配を消そうとしているのがわかる。
ただし反省しているわけではなさそうだ。謝罪するわけでもないのだから。
今日はいつもよりもさらに挙動不審で、周りをしきりに警戒している様子が伺えた。
「近ごろ誰かに見張られているような気がして怖いんです」
アネモネ嬢は憧れの先輩であるルビア嬢に相談したらしい。
しかし、これまでだったら心配して色々と相談に乗ってくれていた先輩から素っ気なく
「学園内は警備員が巡回しているし、行き帰りは護衛が付くのでしょう? その者達が何も言わないというのなら、貴女の気のせいじゃないの?」
こうあしらわれてしまったために落ち込んでいるらしい。
いやあ、素っ気ない態度だけならまだましだろう。ルビア嬢にとって君は敵。友人を蔑ろにして脅して婚約を解消させようとした犯罪者なのだからね。
そして二日前、彼女はクリスタル嬢から手紙を受け取ったことで困惑しているのだろう。もしかしたら、約束していたことなんてすっかり忘れていたのかもしれないし。
三週間ほど前、クリスタル嬢はアネモネ嬢に言ったそうだ。
「私に婚約解消を要求してきたのは貴女で五人目です。
私の予想ではもっと増えるはずですから、この件についてのご説明はまとめてやらせてもらおうと思います。
総勢二十人になったら招待状をお送りしますが、目安としては二週間ほどでしょうか」
と。
予定より少し日にちがかかったが、要求して来る者が二十人に達したので、その者達全員に一昨日手紙を送ったのだ。
「学園の創立記念パーティーの場において、貴女方の要求について回答させて頂きます」
と。
アネモネ嬢は五人目だったわけだから、三週間弱で十五人ものご令嬢がさらにクリスタル嬢を呼び出したことになる。
しかし、一人で彼女を呼び出した強者はアネモネ嬢までで、残りは複数人で現れたらしい。
一人じゃ怖くてできないというのなら、そんな真似はしなければいいものを。みんなでやれば怖くない精神なのか? 小悪党の破落戸と同じだな。
そして案の定、全員がクリスタル嬢から一睨 みされると、蜘蛛の子を散らすように逃げて行ったらしい。
寝不足は解消されたが、私とのダンス練習のし過ぎで疲れていたために、目つきが悪くなっていたらしい。
彼女は敵対する強者相手でないと人を睨んだりしない。だから学園のご令嬢のことを睨んだりするわけがないというのに。
それでも甘やかされて平和ボケしているご令嬢からすると、睨まれていると錯覚するほど険しい表情だったのだろう。
しかし、怯えながらも彼女達はアネモネ嬢と同じく、自分達が卑劣で愚かな行為をしていたという自覚はないらしく、謝罪に来る者は皆無だった。
だから彼女達もクリスタル嬢から処罰対象者に選ばれて、手紙を送られることになったのだ。
それにしても、ルビア嬢の護衛を辞めてから、クリスタル嬢の雰囲気はすっかり変わっていた。
以前はシンプル過ぎるワンピースという地味な装いをして、髪をポニーテール、日焼け止め以外には化粧すらしていなかった。
しかし今は、デザインはシンプルながらも最高級の生地を使った仕立ての良い上品なミモレ丈ドレス。緩めに編まれたアンニュイな感じの髪。そして薄く施されただけなのに、まるで別人かと思えるほど美しく麗しい面差しになっていた。いや、素顔だって最高だが。
ほとんどの令息達が彼女と顔を合わせると、一瞬見惚れて赤く顔を染めていた。それが嬉しいと思う反面、僕はイライラしたり焦ったりした。
これが焼きもちという感情なのだろう。そして、奪われたらどうしようという焦りや恐怖も感じたのだった。
でもまあそれはともかく、僕は不思議でならなかった。あんな高貴なご令嬢であるクリスタル嬢に対して
「貴女はグルリッジ公爵令息には相応しくないから婚約を解消しろ」
と言いに来られる彼女達の神経がさっぱりわからない。
言葉が通じない相手にいくら説明しても納得してはもらえないだろう。それなら、力で排除しなくてはならない。
そう僕とクリスタル嬢の兄上達とで結論付けたのだ。
卒業までのあと半年だけの辛抱じゃないかと、後々言ってくる者も出てくることだろう。
しかしああいう厚顔無恥な連中は、学園を卒業した後だって傍迷惑なことを平気でやり続けるだろう。というのが、四人で出した結論だった。
そのことを伝えると、クリスタル嬢は困った顔をしていたが、最後はこう言って了承してくれた。
「正直、この私でも結構心が抉られましたから、普通のご令嬢がこんなことをされたら耐えられませんよね。
やはりこのまま放置するのはまずいですよね。悪いことしているという認識がないと、これからも平気で人を脅すような真似をし続けるでしょうから」
クリスタル嬢は今、ルビア嬢の側で雑談をしている。しかし、彼女が僕との婚約につい説明を始めるタイミングは、相手次第なので、周辺の動向を伺っていることだろう。




