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第6章 親友を守りたい(ルビア視点)


 クリスもクリスだわ。帰国する前に何故知らせてくれなかったの? 久し振りに再会した時に私はクリスにこう問うたわ。それは彼女が帰国してすでに二月も経っていた時だった。

 すると彼女はこう言った。


「最初はルビア様の護衛騎士として採用するとの王命だったので帰国したのですよ。

 そもそも王命に逆らうことなどはできなかったし、女性騎士としての登用、しかもルビア様の護衛だと言われれば拒否するわけがないでしょう。

 大人になったら騎士になって貴女を守ると、子供の頃にそう約束したのですから」

 

 いくら名門スイショーグ辺境伯令嬢とはいえ、我が国では女性は騎士にはなれない。王妃殿下や嫁がれたお二人の元王女様方と共に、私も微力ながらそれを変えようとずっと努力してきた。

 けれども、男尊女卑の意識が強いこの国ではかなり困難な道のりだった。もちろんそれは女性騎士問題に限ったことだけではなかった。

 母国が未だにそんな状況だということを知っていた彼女は、隣国への正式な移住も視野に入れていたという。

 騎士の資格を取得しただけでなく、なんと隣国の騎士団の入団もほぼ確定していたらしい。

 しかしそこへ、母国から騎士としての採用通知が届いたのだ。

 当然彼女は私との約束を守れるかもしれないと喜んで、その事実をすぐさま手紙で私に知らせようと思ったらしい。

 ところが、その王命の書簡とは別にブルーノ王太子殿下からの手紙も一緒に届いていて、そこにはこう記されてあったのだという。

 

「私は過去において、ずいぶん君に対して申し訳ないことしてきた。その詫びの意味もこめて、君をルビアの護衛騎士として迎え入れたい。それが君の長年の希望だと聞いているので。

 そしてこのことをルビアへの誕生日のサプライズプレゼントにしたいとも思っている。

 それ故に、当日までこのことはルビアには黙っていて欲しい」

 

 と。だからクリスは私に内緒で帰国したのだ。そして彼女は四年ぶりに登城して驚いたという。

 なんとそこには国王陛下と王妃殿下、そしてブルーノ殿下だけでなく、何故かグルリッジ公爵夫妻や、彼女の両親でもあるスイショーグ辺境伯夫妻までが彼女を待ち受けていたというのだから。

 

 一体これは何事かと喫驚したクリスに、国王陛下はグルリッジ公爵家の嫡男エルリック令息の現状を包み隠さずに説明し、彼を救って欲しいと懇願されたというのだ。

 彼女は当然エルリック様の近況など知らなかった。私だけでなく、彼女の兄達も彼のことで今さらクリスの心を煩わせたくはなかったので教えていなかったからだ。

 もちろん心優しいクリスは、そのことに大層驚いて心を痛めたみたい。

 でも、何故彼を救う役目が自分なのかがさっぱりわからず、理解に苦しんだと言った。当たり前よね。

 

「何故そのような大役を私などに依頼されるのですか?」

 

 クリスのもっともな問に、国王陛下に代わってブルーノ王太子がこう説明したという。

 


「今エルリックは酷い女性不信、女性恐怖症に陥っている。

 二月ほど様子を見てきたのだが、こういうことは長引けば長引くほど拗れて、立ち直るのに時間がかかるものだ。

 だからそろそろ強制的に外へ引っ張り出そうと思うのだが、男が力ずくでそれをしようと思っても、見かけによらずエルリックは身体を鍛えているので無理がある。

 それなら女性に頼んだ方が引っ張り出し易いのではないかと考えた。

 しかし彼はご令嬢だけでなくご婦人方全般に不信感を持っている。そこでどうしたものか……と考えた時にクリスタルのことが頭に浮かんだのだ」

 

 と。

 クリスは幼い頃からお兄様達のお下がりばかりを着せられて、男の子のように振る舞っていた。

そのせいで年頃になった頃には、彼女はご令嬢達から熱い視線を送られるほど貴公子然としていた。つまり女の子であって女の子じゃなかったのだ。

 ご令嬢を優雅かつ力強くリードしながら踊る彼女の姿に、男女関わりなく多くの人々が感嘆しながら眺めていたわ。

 

 たしかにそんな彼女は、女装しているわけでもないのに長いことご令嬢に間違えられていたエルリック様と、どこか似ているのかもしれない。


「二人とも中性的だから反発し合わないと思うのだ。君しか適任者は見当たらないのだ。だから頼むよ」


 と、ブルーノ王太子は邪気なく笑ったそうだ。

 

 その話を聞いた時に私は、王太子の首を締めてやりたいと思うほど腹が立ち、一週間以上彼とは口をきかなかった。

 そのせいで、わが侯爵家には山のような花束と高級な菓子、そして豪華なアクセサリー類が毎日届いたわ。

 だから花束は使用人へ分け、お菓子はクリスの元へ届け、見たくもないアクセサリー類は売り飛ばして、全額孤児院へ寄付してやったわよ。

 その後、自分の贈った物とよく似たアクセサリーを身に着けているご令嬢を見て、王太子殿下は真っ青になっていたわ。

 まさか、自分の贈ったものはどうしたのかとは、私には聞けなかったでしょうしね。

 


 クリスと王家、そして彼女の生家である辺境伯家、さらに公爵家の間でどんな話し合いがされたのか、結局それ以上詳しいことはわからなかった。

 クリスとは学園内でしか一緒にいられなかったので、休み時間にそんな話をするわけにはいかなかったからだ。

 そして王妃殿下もとにかく多忙を極めていらしたので、お妃教育以外のことで時間を割いて欲しいとはとてもお願いできなかった。

 しかもなんとあのブルーノ殿下まで、このところ国王陛下とよく行動を共にしていて、これまでになく忙しそうだったので、話をする時間がほとんどなかった。

 そもそもクリスの話題になると、殿下はスッとはぐらかして取り付く島もなかったし。あの様子だとかなり後ろめたいことをクリスにしたに違いないわ。


 これまではほとんど何も知らないまま様子を見てきたけれど、それもそろそろ限界だわ。

 だってこのままクリスを放っておいたら、近いうちに離ればなれになってしまう気がするんですもの。

 いくら最強令嬢のクリスだって、期限限定のことだと割切っていなければ、こんなにがむしゃらに頑張れるわけがないわ。


 ねえ、クリス。貴女は自分では気付いていないかもしれないけれど、さっきエルリック様の話をしているとき、四年前に彼を好きだと打ち明けてくれた時と同じ笑顔をしていたのよ。

 

 おそらくブルーノ殿下のせいで二人はすれ違ってしまったのだと思うわ。でも何の因果か今度はその殿下の企みで婚約者同士になったのよ。

 貴女はそれを偽装婚約だと思っているみたいだけれど、エルリック様は本気だと思うわ。グルリッジ公爵夫妻や王妃殿下、そして私も。

 クリスは両親に愛されずにずっと放置され続けてきた。だからこそ貴女には幸せな結婚をして、温かな家庭を築いて欲しいのよ。人の痛みがわかる優しいエルリック様とならそれも可能なはずだわ。

 無理強いなんてするつもりはないけれど、貴女が幸せになれるその手助けはしたいのよ。

 私はいつも貴女に守ってもらってばかりいるけれど、一方的に守られているだけでは真の友達だとは言えないでしょう? 

 だから今度こそ行動を起こすことに決めたの。明日、何もかも話してもらうわよ。


 私はそう決意しながら、午後の授業を受けるためにクリスと共に教室へと戻ったのだった。



(補足)


 ブルーノ王子本人が厳選して婚約者に贈ったプレゼントは、王室御用達ではない貴族のよく利用する貴金属店に持ち込まれ、別の貴族令嬢に即売却されました。

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