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第53章 王家の秘密(エルリック視点)


「そんな大事件が起こっていたなんて全く気付かなかったわ」


 パルル様がそう呟くとシャンディア様も頷いた。


「一時期寝込んでいらした王太后様の体調がようやく回復されたと聞いて、陛下がお一人でお見舞いに伺った際に狙われたのよ。

 事件そのものは離宮だったから隠蔽できたのだけれど、当然王太后様には誤魔化しきれなくて……」


「それでは、お祖母様の様態が急変したのは、そのせいだったの?」


「ええ」


 元王女達は怒りで顔を真っ赤にしていた。

 当時伯爵家の起こした事件がそれほど話題にならなかったのは、王太后様の急死に国中が喪に服していたからだろう。


「それにしても、王妃殿下はよく妊娠している振りを続けられたものですね。舞台女優も顔負けですよ」


 ガイル卿の言葉に全員が頷いた。


「そりゃあ三人も産んでいたのだから簡単よ。妊婦だから体調が悪いと言って引きこもっても怪しまれないし。

 まあ、度々体調不良になったのも事実だったし」


 それはそうだろう。夫の子を身籠った女の代わりに、妊婦の振りをしなくてはならなくてはならなかったのだ。精神的にかなり辛かっただろう。

 陛下は伯爵令嬢ごと亡き者にしたがったらしいが、この国で子殺しは大罪だ。いくら国王でも。

 王妃殿下は夫にそんな罪を背負わせたくはなかったのだ。側近を切り捨てたことは当然であり、それに対してはなんとも思っていなかったらしいが。

 それに、たとえただの罪人が父無し子を産んだことにしようとしても、もし生まれてきた赤子が陛下に似ていたら、疑惑を持たれるかもしれない。

 それならいっそ自分が産んだことにすればいい、そう王妃殿下は考えられたそうだ。

 そしてその判断は正しかった。赤子は陛下と同じ髪と瞳の色を受け継いでよく似ていたからだ。


「でも、どうして妊娠前だけでなくて、ルディンが生まれてからも、産後の状態が悪いと言ってずっも引きこもられていたのですか?

 私だけでなくお姉様もブルーノもずいぶんと寂しい思いをしたのですよ?」


「ごめんなさいね。でも、生まれて間もない頃からルディンの命が狙われたから、目を離せなかったのよ。赤子の命を奪うなんて簡単なことだから

 その対策を整えるのに手間取ったのよ。誰を信じていいのかわからなくて」


「ルディン殿下の誕生を快く思わない者が多いということは、殿下の出世の秘密を知る者が多いということですよね?」


 ルビア嬢の問いに妃殿下は頷いた。そりゃあそうだろうな。王宮には大勢の人の目があるのだ。どこかで誰かが何かを見ていたとしても不思議じゃないだろう。


「おそらく乳母探しでこのことが漏れたと思うのよ。

 母乳は実の母親に任せるつもりで、赤子を世話をする乳母には、これまでお世話になってきたベテランの乳母に依頼していたの。信用のおける者だったし。

 それなのに、まさか出産で母親が亡くなるなんて想定外だったのよ」


 王妃殿下はため息を吐いた。当時の混乱極めた状況を思い出されたのかもしれない。

 それにしても、陛下の子であることは確かであるにも関わらずルディン殿下を狙うということは、単に国王派というわけではないのだろう。


 一番に疑われてもおかしくないのは、ブルーノ殿下の後ろ盾になっている、王妃殿下のご実家のコックヨーク伯爵家なのだろう。

 しかし、伯爵家は学者一家でそもそも国政にも権力争いにも興味がない。

 たとえ愛する娘を辛い目に遭わされたからといってもそんなことはしないだろう。


 それにこの国で開発された薬の類のほとんどが、コックヨーク伯爵家一門によるものなのだ。それ故にその特許料だけでも莫大でお金にも不自由していない。

 彼らの望みは、邪魔をされず、自由気ままに学問の追究をさせてもらえればそれでいい、そんな浮世離れした人々だと聞いている。

 そもそも、ブルーノ殿下を脅かす存在のルディン殿下を、本気で暗殺しようとしていたのならば、とうの昔に実行できていただろう。

 赤子に薬一滴垂らすだけで、誰にも分からずに始末できるに違いないのだから。


 となると、陛下の心底の忠臣か、王妃殿下に心酔している者達だろうか。

 はたまた、謀反を起こした伯爵家に恨みがあって、その血を引く赤子を許せない者か……

 人の心に巣食う恨みや憎しみは計り知れないし、他人にわかりようもないから難儀だ。

 対策を取ろうにも限度がある。だから、王妃殿下はルディン殿下を早めに王宮から出したいとずっと思っていらしたのだろう。

 ところが、王子にしか皇位継承権がない現状のままでは、スペアの第二王子を養子に出すなんてことは間違ってもできない。

 だからこそ王妃殿下は焦っていらしたのだ。しかも王太子に問題があると広く認知されたら、なおさら養子には出せなくなるのだから。


「でも、ルディンをどこへ養子に出すおつもりなんですか? 命を守るためならなるべく遠いところがいいですよね? 

 辺境地か、はたまた他国か」


 パルル様がこう質問すると、妃殿下は弱々しく微笑みながらこうお答えになった。


「養子先はもう決まっているのよ」


「どこですか?」


「コックヨーク伯爵家よ。あそこは薬の製造技術を秘匿するために、完全な防御システムを構築しているから、私が知りうる限り最も安全な場所なのよ」


 サロンの中が静寂に包まれた。

 そして大分間が空いてから、ガイル卿が口を開いた。


「お祖父様やランス伯父上(コックヨーク伯爵)は、ルディン殿下を養子にすることを承諾しているのですか? 

 本来疎ましく思って当然だと思うのですが」


 彼の疑問はもっともだ。大罪人の血を引く、不義の子だ。いくら陛下の裏切りによる子でなかったとしても。

 しかも命を狙われている、物騒な厄介者だ。そんな言い方はしたくはないけれど。

 しかし、その後続いた王妃殿下の言葉に、全員がポカンとした。


「実はね、ただの養子ではなくてね、婿養子になる予定なのよ」


「「「えっ?」」」


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