第41章 誕生日パーティー(クリスタル視点)
第31章
「クリス、本当に色々とありがとう。貴女のおかげでずいぶんと助かったわ」
「こちらこそ、王妃殿下のおかげで色々と貴重な体験をさせてもらいました。大切な友人も得られましたし。
それに、初めて令嬢として扱って頂いて、一生の良い思い出になりました。とても感謝しています」
「一生の良い思い出なんて言い方をしないで。これからも貴女が令嬢であることは変わらないでしょう? いくら今後騎士になったとしても」
「両親は私が騎士になることを許してはくれないでしょう。
いずれ私は除籍されて平民になると思いますので、殿下にお目見えするのも、今回が最後になると思います。
でも、王妃殿下のことは一生忘れません」
私がこう告げると、王妃殿下は一瞬悲しい顔をした。しかし、すぐにいつもの笑顔を作り、なんとこうおっしゃった。
「必ずまた会えるわ。だって貴女は騎士になって、ルビア嬢を守ってくれるのでしょう?
貴女がこの国で騎士になれるように、私もルビア嬢と共に法を変えてみせるわ。娘達も協力してくれると言ってくれているしね」
それを聞いて私はこう答えた。
「それでは、王妃殿下に招聘される日のために、私はこれから城をお暇して隣国で精進して参ります」
「うふっ、まさに騎士の台詞ね。
でも、貴女はやはり本来は辺境伯令嬢なのよ。もし、あの愚かな人達がそれを認めずに除籍すると宣ったら、コックヨーク伯爵家の養女におなりなさい。
実は数年前から伯爵である兄の耳にも、貴女への姉達の卑劣な扱いが耳に入っていたのよ。
貴女の三人の兄達が妹を助けてくれと懇願しに行ったからよ。
兄も貴女のことを知って心を痛めて、養女に迎えたいと思っているらしいわ。
貴女って、剣だけではなくて勉強も得意でしょ。学者になる素質があるから楽しみだって。
でも、いくら母親の実家とはいえ、伯爵家から辺境伯家に娘を養女に欲しいとは言い出せないでしょう?
だから、もしクリスがあの人達に除籍され、貴女自身が望めば、養女として受け入れよう、と兄は甥っ子達に話したそうよ。
あの子達が、貴女にわざと男の格好させてドレスを着せなかったのも、あの人達が貴女をさらに疎ましく思い、早く除籍させたくなるように仕向けたかったかららしいわ。
本当に妹思いの良い子達よね。やり方が雑過ぎる気がするけれど」
私が兄達のお古ばかり着ているのは、両親がお金を出すのを渋っているからだと思っていたが違っていたらしい。
なるほど。両親は私が好き好んで男装をしていると思っていたのか。
まあ、ドレスを着ていてもどのみち冷遇されていたとは思うけれど。
私に充てられていた予算は将来のために兄達が蓄えてくれているらしい。
そう言えば、私のデビュタントのときには、周りをあっと驚かせるようなドレスと装飾品を用意してやると兄達は話していたわね。
デビュタントのドレスは派手にしてはいけないのに、興味がないから知らないのね。是非ともそんな悪目立ちするドレスはご遠慮したい。
でも、その気持ちは嬉しいわ。涙が出そう。
「それでね、来週、末っ子の第二王子の誕生会を王宮のホールで開くから、貴女も参加してちょうだい。もちろんドレス姿でね。
身内だけのパーティーだから気兼ねはいらないし。
ああ、貴女のご両親へは元々招待状を送っていないから心配しないでね。
王都にいる貴女の上のお兄様二人は声をかけるつもりだけれど」
「ありがたいお話なのですが、私、王宮を去る準備がすでに整っていますので……」
「先ほど私に感謝していると言ったでしょ。それなら私のお願いをもう一つだけ聞いてちょうだいな。
私はクリスの普段着だけではなくて、お洒落なドレス姿を見たいのよ。
ねっ、お願い!」
王妃殿下にそうお願いされては拒否するわけにもいかず、私は一週間後の誕生会まで王宮に滞在することになった。
そしてそれまで王妃殿下や二人の王女殿下、そしてルビア様と楽しい女子トークを楽しんだ。
女の子達の中で自分も女の子として扱われるのは初めての経験で、それは夢のような貴重な時間だった。
そして第二王子の誕生日パーティーの日がやって来た。
そのパーティーの主役であるルディン殿下の顔を見るのは、その日が初めてだった。
上の姉や兄達とは大分年が離れていて、その日にようやく三歳になったという。
鮮やかな金髪に済んだ青い瞳は国王陛下と同じ色だった。顔立ちは両親のどちらにも似ていない気がしたが、とにかく愛らしく可愛い王子様だった。
かなり内気なのか少しおどおどしていて、母親である王妃殿下の側から離れなかった。
「生まれたときから体が弱くてね、人前に出るのが苦手なの」
と、姉の王女に教えられた。なるほど、それは気の毒に、と思った。
王女達は優しい笑顔でしきりに末弟に話しかけていたが、王太子は「おめでとう」の一言を告げた後は弟を無視していた。今日の主役だというのに。
しかし、彼よりも国王陛下の態度の方が不可解だった。その「おめでとう」の一言さえ、息子に言わなかったからだ。そう。完全に無視をしていた。
「あんな子のために誕生日パーティーを催すなんて、私に対する嫌がらせなのか」
陛下がぼそっと呟くのを偶然聞いてしまい、私はぎょっとしてそのまま硬直してしまった。
それが、幼い頃に母親から投げつけられた言葉とよく似ていたからだ。
「なぜあんな疫病神みたいな黒髪の子の誕生日を祝わなければいけないのかしら?
我がスイショーグ家にとってはおめでたい日どころか、厄日じゃないの。
お父様のせいで私まで肩身が狭い思いをしなくちゃいけないのよ。腹立たしいわ」
私の誕生日の祝いにわざわざ遠方の地にまで来てくれていた祖父を見ながら、母が忌々しそうにそう言っていたのを私はたまたま聞いてしまったのだ。あの時と同じ嫌な気持ちになってしまった。
辺境地ではまだまだ黒髪には偏見がある。魔法使いの怪しげな血が混じっているとかどうとかで。
母親は実母に似たので茶色の髪に青い瞳だったが、コックヨーク伯爵家の人間は代々黒髪黒目が多いのだ。
私も隔世遺伝で、母方の祖父と同じ濃くて暗い色彩を継いでしまったのだ。
顔立ちは父親似だったが。
第二王子は父親である陛下と同じ王家の色合いなのだから、父親に疎まれている理由は私とは違うのだろう。
しかし、実の親から愛されていない、生まれてきたことを喜ばれていない立場は自分と同じだ、とその時思ったのだった。




