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第37章 事件の後(クリスタル視点)

 

 私がボディーガードを辞めたのは、私がいなくてもとりあえずルビア様を護衛できる体制が整ったことが一番の理由だった。

 王太子の婚約者とはいえまだ王族ではないルビア様に、なんと王家の影が付いてくれることになったのだ。

 これまでの慣例にないと国王陛下は反対したそうだが、王妃殿下の一言で決定したらしい。

 

「慣例にないことはできないというのなら、新しいことなど何一つできないことになりますよ。

 例えば敵国が新しい武器を研究開発しているという情報を得たとします。

 我が国が勝つにはその新しい武器に対抗できる武器を作り、しかもこれまでとは違う戦法で戦わなければ勝算がないとします。

 そんなときでも陛下は、これまでにない戦法はできないといって、破れるのがわかっていても従来通りの戦いをして、この国を滅ぼすとおっしゃるのですか?」

 

 陛下はぐうの音も出なかったらしい。しかもそれに追い討ちをかけるように、妃殿下はこう言ったそうだ。

 

「婚約中私が危険な目に遭ったときも、陛下は私に影を付けてくださいませんでした。

 それも慣例になかったからですか? それともご自分の影がいなくなると、ご自身の身が危険になると恐れたからですか?

 どうやら息子の方がまだましだったようですね。自ら自分の影をルビア嬢に付けて欲しいと願い出てきたのですからね」

 

 陛下は面白いほど動揺しながら、

 

「私の影よ! ルビア嬢を守れ!」

 

 と声にしたそうだ。

 さすがに親として、妻や息子の影を使うわけにはいかないと判断したのだろう。

 妻の信頼度は危険水域を超えそうだと、本能的に察知したのだろう。


「陛下は察知能力は優れているはずなのに、なぜか毎回私の怒りのポイントに触れるのよね。

 わざとなの?ってくらいに」


 王妃殿下が怒りを通り越して、呆れたようにこう呟いていたわ。

 

 まあそれはとにかく、王家の影がルビア嬢を見守ってくれるのなら、これ程安心なことはない。

 だからボディーガードを辞めさせてもらったのだ。

 あんなド素人にナイフで傷付けられているようじゃ、とてもルビア様を守れない。

 まだまだ修行が必要だから、なるべく早く隣国の学園の騎士科に入って訓練しなければ。

 自分の夢を実現させるため、私は早めに行動に移そうと思った。それがルビア様との約束を守ることにもつながるし。

 

 皮肉なことにあの事件が起こったせいで、私は隣国オイルスト帝国へ留学するための費用を捻出することができたのだ。

 なにせ王家とルビアの生家であるストーズン侯爵家からの謝礼金、そして例のマクガイヤー公爵家からたいそうな賠償金を支払われたからだ。

 

 私に関心のないあの両親が留学に反対するとは思わないけれど、留学費用は絶対に期待できない。

 だから、領地で仕事でも見つけて最初の年度に掛かる費用分くらいは準備しておこうと思っていたのだけれど、それをしなくてもすぐに留学できることになったのだ。

 まあ、兄達が私に割り当てられていた予算を貯めていてくれたらしいけれど。

 

 因みにその王宮で起こった大事件に私が絡んでいることを、両親は知らなかった。

 私は変装して男の振りをしていたし、私の顔なんてまともに見たことがないので、パーティー会場ですれ違っても彼らは全く気付かなかったのだ。

 だから謝礼金も賠償金も王家経由で受け取った。王妃殿下の配慮に感謝したわ。



 ところが留学先から戻って来て、私は初めて気が付いたのだ。兄達や王妃、そしてあの男までが、私が留学した理由を失恋のショックだと思っていたことに。

 つまり、騎士になりたいからといった私の言葉は、単なる建前だと思われていたらしい。

 

 失恋したのは本当のことだったし、かなりショックを受けたことも事実だ。

 しかし、そもそも実るはずのない恋だと覚悟の上での告白だった。

 私は騎士になるという大きな目的を持って留学しようと決めていた。

 そのため、この国の学園でエルリック様と共に学ぶことはない。たとえ振られても互いに気不味い思いをしなくても済むと思ったからこそ、思い切って思いを伝えたのだ。

 それが受け入れられなかったから、他国へ逃げたというわけではなかった。

 

 私はルビア様を守れる強い騎士になるために、騎士科のある学校へ留学しよう、と行動しただけだった。

 それなのに、私は逃げ出したと思われていたのだ。私の人生最大の屈辱だ。

 

 それにしても、結局あの男は私の恋心を知りながらそれを弄んでいたということなんだな。

 しかも、今回はそれを利用して、自分の都合の良いように私を使おうとしていたのね。

 いくらなんでも私を馬鹿にし過ぎではないだろうか。

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