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第28章 ルビア嬢の爆弾発言(クリスタル視点)


 公子様にボディーガードを依頼するなんて本来ありえない話だ。

 しかし、実際はボディーガードをするというよりエスコート役だ。考えようによっては、寄り添う相手が単に半年間だけ、王太子からルビア様に変わるだけだ。

 公子様が側にいるだけで抑止力になるのだから。

 さすがに公子様の前でルビア様を虐めたり嫌味を言う輩はいないだろう。彼に嫌われてもかまわないという者なんて、男女問わずそうそういないだろうし。

 

 そしてその後、ブロード兄上が護衛になれば安心だ。

 確かに現在は剣術だけは私に勝てていないが、それは今だけで、間もなく簡単に私を打ち負かすようになるだろう。

 私は俊敏さと足の速さで今のところ勝っているが、そもそも体術なら私よりはるかに兄は強いのだ。

 つまり総合的に見れば兄の方が圧倒的に強いといえるだろう。

 因みに熱愛している婚約者がいるということも本当だった。

 その婚約者とは私の幼なじみの伯爵令嬢で、当時ブロード兄上は彼女の家に婿入りする予定になっていた。そして現在その兄は新婚で幸せの絶頂である。

 つまり、兄は他の女性に目を向けることはないので安全な人物だったのだ。

 

 さすがにこの案ならあの王太子でも納得するだろうと思った。それなのに、彼はそれさえも受け入れられないと言ったそうだ。

 どこが不満なのだろうと頭を捻っていたら、ルビア様が再び怒りの表情を浮かべながら、怒鳴るようにこう言ったのだ。 

 

「「エルリックは僕の大切な側近で、彼が側にいないと僕は困ることになる。だから彼を君の側には付けさせられない」

 そうブルーノ殿下はおっしゃったのよ」

 

 私は驚愕した。何それ。

 

「つまり婚約者のことよりも、結局自分のことの方が大切だということ?」

 

 思わずこう呟いてしまった。すると、彼女はこくこくと勢いよく首肯した。

 しかも、王太子は憤怒の表情を浮かべた母親と婚約者を見て、ようやくこれは不味いと思ったのか、取って付けるようこう言ったそうだ。

 

「心配することはないよ。今後は僕がルビア嬢を守れるように、剣の鍛錬をして強くなればいいだけだから」

 

 そもそもずっと王太子が側にいてやれないから、その間どうルビア様を守るのかを問題にしているのに、彼は頭が悪いのか?

 そのとき私はそう思ったのだが、王妃殿下とルビア様の怒りの原因はそこではなかったようだ。

 

「鍛錬するということはたしかに大切なことね。それでは今日からでも毎日、ガイル(辺境伯嫡男)に鍛えてもらいましょう」

 

「えっ? ガイル卿? いや、今までどおり辺境伯でいいのだけれど」

 

「馬鹿ね。辺境伯殿のような温い指導ではいつまで経っても強くなれないでしょう。

 貴方は大切な婚約者を守るために早く強くなりたいのでしょう?

 それならもっと厳しく指導してくれる人間でないとだめよ。

 ガイルなら昨年の剣技大会で優勝した猛者だし、ビシバシ貴方を鍛えてくれることでしょう。

 今年第一騎士団に入団したばかりで申し訳ないけれど、この際近衛に転属してもらいましょう。彼には迷惑をかけてしまうけれどね」

 

 王妃殿下のこの言葉に王太子は震え上がったそうだ。

 長兄のガイルは従兄弟の中でも一番年上だということもあって、昔から王宮にやってくる度に王太子や弟達の面倒を任されていたと聞いていた。

 子供のころに国王陛下から遊んでやってくれと頼まれたので、長兄は領地の遊びをそのまま王宮の中で実践したそうだ。

 水浴びしようと言って王太子を弟達と一緒に王宮の池に落としたり、木登りをさせたり、鬼ごっこと称して木の枝を振り回しながら、広い王宮の庭園中追いかけていたという。 


 つまり王太子からすれば、ガイル兄上は自分にトラウマになるほど恐ろしい目に遭わせた人物だ、という認識だったようだ。

 二番目のドイル兄上に言わせれば、ガイル兄上のした遊びは辺境の地ではごく一般的なことで、虐めでもなんでもなかったらしい。

 しかし、王太子殿下からすると単なる虐めのように感じたらしく、兄は正しく悪魔のような存在だったらしい。そして今でもそんな長兄を苦手にしているようだった。


 まあ、今の方がより怖いだろう。 

 とにかく鍛え抜かれた兄のその体は鋼のようだ。ところがその(かんばせ)が女性と見紛うばかりに美しいので、かなりアンバランスなのだ。それが、妙に禍々しさを醸し出しているのだ。

 私のような精悍な顔付きだった方が、むしろ女性にもてていたのではないか、と密かに同情している。

 まあ、本人は気にしていないのだから余計なお世話ではあるけれど。

 

 とにかく、王太子はガイル兄上からの指導を拒否したらしい。そのことにルビア嬢はついに切れたらしいのだ。

 

「ご自身で私を守れるくらい強くなってみせるとおっしゃったくせに、ガイル卿の厳しい指導は受けられないのですね?

 そんな根性で強くなれるわけがないじゃないですか! 

 私を守ってみせるだなんて、しょせん口先だけだったということですね。

 ご自分では私を守れないくせに、クリスと無理矢理に引き離そうとするなんて、一体何を考えているのですか?

 言って置きますが、もしクリスがボディーガードでなくなっても、私はクリスの側にいますよ。

 だってクリスは私のたった一人の(・・・・・・)大切な友人なのですから」

 

 その後ルビア嬢は、王太子から婚約者と友人のどちらが大切なのかと訊ねられて、友人のクリスだと言い放ったらしい。

 婚約者というものは親が充てがってくれたものだが、友人はそうではない。中でも本当に心を許せる友人を得ることは奇跡に近い。

 だから政略結婚の相手よりも親友の方が大切に決まっていると。

 二人の婚約は決して政略的なものなどではなくて、王太子がルビア様に一目惚れをして、三年間両親に懇願し続けて、ようやく結ばれた婚約だったらしいのだが。

 素直にそれを教えていたら、少しはルビア様の受け取り方も違っていたのにと、後でそれを知った時に思ったものだった。

 

 それはとにかく、ルビア様が王太子殿下に投げつけたというその言葉を聞かされた時、私の頬はぴくぴくと痙攣した。

 たしかにルビア様にそこまで信用され、親友と認知されたのはこの上ない喜びだった。

 しかし、これで完全にあの男に敵認定どころか、はっきり敵だと見なされてしまったと思った。

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