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第27章  俊足なルビア様(クリスタル視点)

  

「クリス〜! 聞いてぇ〜」

 

 ある日の午後、ルビア様が王宮の裏庭に怒り心頭でやって来た。

 使用人の子供達に剣の指導をしていた私はぎょっとした。

 

 すでに淑女として完成していると皆に言われているルビア様が、目を吊り上げ、真っ赤な顔をして憤懣やる方ないといった表情で走ってきたのだ。

 こんな使用人の仕事場にやって来るなんて、護衛やお付の者は何をしているんだと一瞬思ったが、そういやルビア様は異常……いや驚異的に足が速いことを思い出した。

 

 王宮でも社交場でも、普段王太子殿下が側にいると私とは話ができない。そのためにルビア様は僅かな隙を見つけては、俊敏な動きで私の所へやって来るのだ。

 とにかく彼女はフットワークが軽い。


 彼女が言うには、王太子の婚約者に選ばれてからというもの、とにかく忙しくて時間が足りないので、必然的に急ぎ足が日常になり、その結果足が速くなったのだそうだ。


 二年前に婚約したばかりの頃などは、毎日毎日山のような勉強や宿題、そして奉仕活動などに追われて、いつ家へ帰れるかわからない状態だったそうだ。

 そのために、家族との時間を少しでも多く取りたくて、時間短縮のために早歩きを始めたのだそうだ。

 王宮の中はとにかく広い。そのために、普通のご令嬢のように優雅な速度で歩いていたら、時間がかかって仕方がないからと。

 そしてそんな生活を続けているうちに以前より足が速くなり、体も俊敏になったそうだ。

 

 それにしても、王城の護衛騎士はもっと鍛えた方がいいんじゃないのかな。

 平和が続いていることは良い事だが、平和ボケしていたらいざというときまずいだろう。

 あの当時から私はそう思っていた。私が留学した後、兄上達が騎士団や学生達を厳しく鍛え直したと聞いているから、今は少しはましになっているかもしれない。

 帰国してから、この国の騎士とはまだ対戦していないから実際はわからないけれど。

 

 怒りで鼻息荒くしているルビア様に呆れながらも、どうしたのかと訊ねた。

 すると、ついに王太子と喧嘩をして、捨て台詞を吐いてお茶会を飛び出してきたのだという。

 喧嘩の理由を聞いて、正直ルビア様よくこれまで我慢してこれたよな、と思った。

 王太子は異常に嫉妬深くて、彼女の行動をかなり制限し、束縛してきたからだ。

 

 立場上ずっと婚約者の側にいるなんてことは不可能だ。それなのに、自分がいない時に、彼女が誰かと共にいることを彼は極端に嫌うのだ。

 だから、ルビア様が個人的に話す相手は王太子の許可を得た人間に限定され、これまでそこに彼女の意思は存在しなかった。

 まあ女性に対してはそううるさくはなかったらしいが、身分や家柄は厳しくチェックされていたらしい。

 そんな状況下で彼女に近付いて来るご令嬢は、王家に媚を売りたい高位貴族の家の者がほとんどで、彼女を親身になって気に掛けるような友人知人にはなり得なかった。


 それ故に、当然多くの人々が集まる場所で王太子が側を離れたら、彼女は護衛とその場にただ一人取り残されてしまう。

 そうなると最初に会ったときのように、ご令嬢達に囲まれてしまっても、彼女は誰にも助けてもらえないのだ。親しい友人などいなかったのだから。

 

 王妃殿下は以前からこの国でも女性騎士を認めるべきだと主張していたらしい。

 ところが、保守派の貴族達の反対で認められずにいるのだ。それはあれから四年経った現在でも変わっていない。

 そもそも国王が消極的なので、一向に進まないらしい。

 ルビア様がご令嬢に押されて池に落ちかけたことを、王妃殿下はとても遺憾に思っていたようだ。

 殿下自身も同じような思いをなさっていたかららしい。そして一向に改善されないことに、彼女は相当苛立ちを覚えているようだ。

 だから今回はたまたま私がいたので、苦肉の策としてルビア様のボディーガードに付けたのだろう。

 王太子が何か対策を打ち出すまで。


 ところが事件が起きてから二か月も経つのに彼は何の策を取らないどころか、ボディーガードの私と仲良くするな、口をきくな、それができないのならさっさと追い出せ!と喚いたらしい。

 王妃様とルビア様と三人でお茶会をしている席で。

 国王ばかりかその息子までも同じような過ちを犯していることに、王妃殿下は立腹された。そして

 

「そんなにクリスをクビにしたいのなら、クリスより強い騎士でもボディーガードでも見つけてきなさい。そして彼女と対戦させて勝ったら、クリスではなく、その者にルビア嬢を守ってもらいましょう」

 

 と言ったそうだ。まあ、当然の話だ。ところが、王太子はそれを拒んだのだそうだ。

 なぜなら、私の代わりになる者は当然男性になるだろう。しかし、ルビア様のすぐ側に男性は置きたくないからと。

 

「それでは、貴方は一体どうしたいのかしら?

 愛しい大切な婚約者が虐められたり、危険な目に遭ってもかまわないとでも言うのかしら?」

 

 王妃殿下は、こめかみを押さえながら、必死に冷静さを装ってそう訊ねたが、いつまで経っても息子は何も言葉を発しなかった。

 自分よりも青い顔をしてじっと我慢しているルビア様が可哀想で堪らなくなり、王妃殿下は仕方なく自らこんな代替案を提示したそうだ。

 

「来年、辺境伯家のブロード(辺境伯三男)が学園に入学する予定になっているから、あの子にルビア嬢のボディーガードになってもらいましょう。

 彼には熱愛している婚約者がいて、他所のご令嬢には見向きもしないらしいから安心よ。

 それまでは、グルリッジ公爵令息にその役をお願いしたらどうかしら?

 彼もかなりの腕前らしいから」


 と。

 そこまで話を聞いて、確かにそれは良い案だと私は思った。

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