表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

25/72

第25章 王妃殿下からの提案 (クリスタル視点) 


 結局その後私は、その社交シーズンを男装のまま過ごすことになった。もちろんスイショーグ辺境伯令嬢である身分を隠して。

 ガーデンパーティーで目立ってしまったせいで、顔が広く認知されてしまったからだ。

 王妃殿下の姪である辺境伯家の令嬢が、男装してパーティーに参加していたなんて、醜聞になりかねないということらしい。

 しかも、招待状も無しにパーティーに参加したことがわかったからなおさらだ。


 しかしそれは王妃殿下の本意ではなかったらしい。この件が私の両親の耳に入ると面倒なことになると考えたからだと思う。

 元々王妃殿下は、信頼のおける人物だけに私の存在を伝え、紹介して、いざというときにはフォローしてもらえるようにと考えて下さっていたそうだ。

 今回国に戻ってきて、王妃殿下と親交のある方々にそのことを教えてもらった。


 当時両親は私が生まれたことを公表していなかった。それを叔母である殿下は苦々しく思っていたが、いくら王妃で実の妹とはいえ、他家のことに口を挟むのは憚られたのだろう。

 さすがにデビュタントとして社交界デビューさせなかったら、貴族としての義務違反として罰しようと考えてはいたそうだが、それまで待てないと判断されたようだ。


 そこで私の将来について案じてくれて、水面下で手を打とうとしてくれていたそうだ。

 それなのに、私が好奇心に負けて愚かな行為をしてしまったせいで、せっかくの殿下の思いをふいにしてしまったというわけだ。

 当時も王妃殿下には感謝していたが、今回さらにその気持ちが強くなった。



 しかしそうは言っても、四年前王妃殿下に下された罰則?には正直驚いたわ。 


「今仕立てているドレスは少し大きめに作り直して、来シーズンに着ればいいわ。一年もたてばほとぼりが冷めるでしょうから。

 ただ普段着のドレスは数着作っておきましょう。ドレスに着慣れておかないと、いきなり身に着けても所作が不自然になってまうから。

 

 それで今シーズンだけれど、せっかく王都に出て来たのだから、社交に慣れた方がいいでしょう。

 この際男装して令息として参加してしたらどうかしら。 

 そしてついででいいから、ルビア嬢のボディーガードをしてくれないかしら?

 今回虐めをしていた者達のことは厳しくしつけ直してもらうつもりだけれど、これから先もどんな不届き者が現れるかわからないから」

 

 それを聞いた王太子は、こんなやつを側に置かなくても、ルビアのことは自分が守ると憤慨した。

 しかし


「絶えず多くの人と接しなければならない王太子では、ずっと婚約者の側にいて守って上げるわけにはいかないでしょ」


 と母親に諭された。しかも


「大人の護衛だけでは、ご令嬢達の中には入れないから、いざというときすぐに助けに入れないでしょう。今回のように。

 実際に陰で彼女が虐めに遭っていたことに、王太子や護衛もこれまで気が付いていなかったのだから」


 現実を指摘されて余計にムキになった王太子はこう怒鳴った。

 

「しかし、こいつがいたってルビアを守れないでしょう?」

 

 すると、予想に反して王妃殿下はにっこりと微笑んでこう言ったのだ。

 

「あら、クリスは貴方とは比べものにならないくらいに強いはずよ。だから貴方よりは役に立つはずだわ」

 

「なっ! 何を根拠にそんなことを言っているですか!」

 

 いきり立つ息子に向かって王妃殿下は、さすがに少し怒りを抑えた声でこう告げた。

 

「だって貴方はブロード(辺境伯三男)と立ち会いをして、これまで一度も勝ったことがないじゃないの。

 そのブロードが、クリスに勝てないのよ。この意味はわかるわよね?

 彼女はまだ十三歳だけれど、そんじょそこらの騎士より強いのよ」

 

 王太子は喫驚して、まるで化け物を見るような目で私を見た。その目には信じられないという気持ちと、女のくせに、という腹立たしさが入り混じっているように見えた。

 でもこちらだって驚いたわ。ブロード兄上に一度も勝ったことがないなんて。

 でも、自分の父親が王太子に剣術を指導していたことを思い出して、思わず納得してしまった。


 辺境伯とは名ばかりで、普段おざなりの訓練しかしていないような人間に教わっていたら、そりゃあ強くはなれないだろうなと。

 王妃殿下は両親のことは誰よりもよく知っているはずだ。だから、指南役を父に決めたのは、同級生で昔から親交のある国王陛下の方なのだろうことは容易に想像できた。

 陛下は噂通りに、何でもなあなあ(・・・・)なお方なのだろうなぁ、と私は思った。

 

「そんなにクリスの腕が信じられないというなら、貴方が直に剣を交えて確かめたらどう? 貴方に負けるような腕だったら、私も諦めるから」

 

 王妃殿下の言葉に王太子は頭を横に振った。

 えっ? 試してみないの?敵うわけがないと、調べもしないで判断したの?

 口だけの情けない男なんだな、と私は呆れてしまった。

 まあ、そもそも女である私に嫉妬する時点で馬鹿げているけれど。


 こうして私は、辺境伯の隣の領地の子爵家の令息クリス=コークスと名乗って、パーティーや催し物に参加するようになった。

 コークス子爵とは、今は使われていない辺境伯家が所有している爵位の一つだった。

 もちろんルビア嬢へは王妃殿下が真実を知らせる便りを出して下さった。

 私は彼女にスイショーグ辺境伯家のクリスだと名乗ってしまっていたからだ。

 


 この度の件は王家の落ち度で申し訳なかった。しかし、子供同士の中に大人の騎士を配置するのは難しい。

 ということで、とりあえずこのシーズンに限りだが、クリス=コークス子爵令息をボディーガードとして側に置かせて欲しい。と頼んだそうだ。

 まず彼は(・・・)ご息女の恩人であると記した上で、子爵令息ではあるが辺境伯家の身内であり、その身分、人柄、剣の腕前は保証する。

 当然、手当は当然王家持ちであると。

 

 この申し出をもちろん侯爵家はすんなりと受け入れたのだ。


 ただし、彼女の両親には新しいボディーガードの名前は、仮の名の方を伝えたようだ。

 この点だけでも、王妃殿下がルビア嬢はともかく、侯爵夫妻のことをあまり信用していないのだということが察せられた。

 

 その結果、私はルビア嬢のボディーガードをすることになった。

 そして一か月も過ぎると、私とルビア嬢はかなり親しい仲になった。

 彼女に言わせると、私達は親友になったらしい。

 だから彼女は私をクリスと呼び捨てにするようになった。そして私にもルビアと呼べと命じたのだが、それは勘弁してもらった。

 一度そう呼んだところを誰かに王太子に密告されて、物凄い形相で睨まれたからだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ