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過去回想* 第23章 初めてのガーデンパーティー1(クリスタル視点)

 

 叔母である王妃様が私費で私のドレスを新調してくれることになった。

 私は従姉妹達のお下がりでいいと思ったのだが、王妃様がそんなみっともないことができるわけがなかった。というより


「サイズ直しをした方がよっぽど手間暇かかるでしょ」


 と王女殿下方にジト目で言われた。

 四歳と二歳年上の従姉妹よりもすでに背が高く、しかも骨格がしっかりし過ぎて、華奢な体格の彼女達のドレスが着られるわけはなかったのだ。

 しかしドレスは、王宮の庭園で開かれるガーデンパーティーには間に合わなかったので、私は不参加の予定だった。

 ところが、従兄でもある王太子が私の側にやって来てこう言った。

 

「僕の服を貸してやる。だからパーティーに参加しろよ。

 せっかく王都に来たんだから、都会の雰囲気を早く体験してみたいだろう?

 お前、辺境地じゃモテモテだって、お前の兄達から聞いているぞ。

 それが王都の貴族令嬢にも通じるか試してみようぜ」

 

 彼は以前から田舎者の私を馬鹿にしていたから、あの時もみんなの前で笑い者にしたかったのだと、今ならわかるわ。

 もしくは、男装の私がモテるのかモテないのか、それをパーティーの余興の一つにしようと思っていたのだろう。

 あの子供向けのガーデンパーティーの主催者は、一応王太子だという建前だったから、場を盛り上げたいと思っていたに違いない。

 

 田舎だって、もちろん虐めや嫌がらせなんて日常茶飯事だった。子供同士で平気で殴り合ったり、わかりやすい嘘ばかりついていた。

 しかし、それらはどれも単純で、陰でコソコソと罠にはめたりするような陰湿なものではなかった。

 それ故に、私は王太子のような将来人の上に立つ人間が、作為的に人を貶めようとするなんて思いもしなかった。

 まあ、ブルーノ殿下に限らず貴族なんて多かれ少かれ、みんなそんなものらしい、とわかったのは、この国を出てからだった。

 

 

 とにかく、十三歳だった私はブルーノ王太子から地味目のフォーマルウェアを借りて、ガーデニングパーティーに忍び込んだのだ。

 上着の袖とパンツの裾が些か短かったが、まあ、仕方がない。

 私はなるべく目立たないように気を付けながら、広い王宮の庭を一通り見て回った。

 中庭の広さだけいうのなら、辺境伯城と比べると遥かに狭い。

 

 まあ、あちらは辺境騎士団が野外訓練できるようにと広く作られてあるだけで、平常時はただだだっ広いだけの無駄なスペースだったが。

 それに侵入者がすぐ特定できるように樹木も生えていないし、植えられているものといえば、畑で栽培されている非常食用の野菜くらいで情緒もくそもない。

 

 それに比べて、やはり王宮の中庭はまるで楽園のようだった。

 豪華な噴水には虹ができていたし、美しい水草の生えた人工の池では小鳥が水を飲んでいた。

 艶やかな薔薇に覆われたガゼボではまだ幼い婚約者同士だろうか、頬を染めて見つめ合っていた。

 多種多様な花々がバランスよく咲き乱れる花壇の前でもご令息やご令嬢達が、たくさん集まって語り合っていた。

 日陰を作る樹木の下に置かれた白いベンチに腰を下ろしながら、目を閉じて小鳥達の囀りに聞き入っているご令嬢達もいた。

 そして、テーブルの側で、料理やデザートを頬張っている者達も。

 

 子供が対象なのに、かなり大がかりなパーティーだな、と思っていたら、どうやら外国からの来賓をもてなすためのものだったらしい。

 一番の人だかりができている場所にそっと近寄ってみると、そこにはブルーノ王太子と、彼の側近と思われる見たことのないくらい麗しい令息が並んで立っていた。

 そして彼らと対面する形で、来賓と思われるやはり気品のある美しいご令嬢とご令息、そしてそのお付の者達の姿が見えた。

 その物々しい護衛を見る限り、どこぞの国の王族だろうと思った。

 

 しかし、その様子を見た瞬間、何か違和感を覚えた。

 それがなんのなのかわからずに、少しモヤモヤしながらその場を離れて、何か食べてからこの場を抜け出そうと思って歩き出したときだった。

 

 人工池を背にするご令嬢方を数人のご令嬢達がまるで囲うように立ちはだかっているのが目に入った。

 何か揉め事かなと思ってそっと近付いてみた。すると、私と同年輩と思えるご令嬢五人が、美しい赤毛の愛らしいご令嬢一人を、激しく責め立てていた。

 

「貴女、王太子殿下の婚約者だなんて嘘なんじゃないの?

 今日、殿下にエスコートされていなかったじゃないの」

 

「今だって、貴女は来賓のお客様と挨拶もさせてもらっていないし」 

 

「そうよ。貴女みたいな赤毛の令嬢なんて、王家に相応しくないわ」

 

「少しくらい可愛いからって、いい気になってはだめよ。侯爵令嬢と言ったって、領地も持たない上に地味な役職に就いている宮廷貴族の娘のくせに」

 

 赤毛のご令嬢は複数のご令嬢から罵詈雑言を吐かれていたが、背筋をピンと伸ばし、動揺することもなく彼女達を黙って見つめていた。

 何の反論もしない彼女に、ご令嬢達は余計に腹を立てたようで、ヒステリックに喚き出した。

 これは危ないぞ。と私が急ぎ足で駆け寄った瞬間に、一人のご令嬢が

 

「貴女、生意気よ」

 

 という言葉と共に、赤毛のご令嬢の胸を両手で思い切り押した。

 

「きゃー!」

 

 押された彼女の体は大きく後ろへよろめいた。彼女の背後は人工池だ。

 私はとっさに飛び出して、背中から落ち掛けたそのご令嬢をすんでのところで受け止めた。

 

 彼女の悲鳴で周囲の子供達や護衛の者が一斉にこちらに顔を向けた。

 赤毛のご令嬢を虐めていた五人のご令嬢達は真っ青になって、こそこそとその場から逃げ出した。

 遠くの方で、ブルーノ王太子が呆然とこちらを見ているのがわかった。

 そして、こちらの方に向かおうとして、従者に止められていたので、ああ、この子はやっぱり王太子の婚約者なのだな、と私は確信したのだった。

 それと同時に、さっきの違和感の正体がようやくわかったのだ。

 それは、来賓と挨拶する席に王太子の隣に婚約者がいなかったことだったのだ。

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