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*過去回想* 第22章 男装の麗人と呼ばれた少女時代(クリスタル視点)

 この章から過去の話となります。

もしかしたら王太子の印象がさらに悪化し、気分を害する方がいるのではないかと少々心配です。なぜやり返さないのかと苛立つ方も。

 でも、子供って案外残酷だし、大人がそれに気づかないないことも多いものです。大らかに読んでもらえたらと思います。

 

 四か月前のサロンでのやり取りをようやく語り終えて、私は大きく息を吐いた。

 しかし、ホッとする間もなく、姉より一足先に侯爵家へ嫁がれて臣籍降嫁されているシャンディア様かららこう訊ねられた。


「クリスの話を聞いている途中からずっと聞きたかったのだけれど、何故あの馬鹿な弟はそれほどまでにクリスにライバル心を抱いていたの? 

 たしかに子供の頃から貴女に劣等感を抱いていたことには気付いていたけれど、そこまで酷いとは思っていなかったので正直驚いているわ。

 貴女達三人の間で一体何があったの?」


「三人というより、そこにはエルリック公子様も入っているようだから、四人の間とした方が正解じゃないのかしら」


 パルル様がそこにこう口を挟んだ。すると王妃殿下まで「私も理由を詳しく知りたいわ」と言い出したので、私とルビア様は顔を見合わせた。

 これまでは不敬になるからと、王族の方々の前ではあからさまにブルーノ殿下を批判するようなことはしてこなかった。それは私達二人が互いを思いやってきたからでもあった。

 しかし、ルビア様があの日の真実を知りたいと望んだことで、私は今日それをあけすけに語ってしまった。今さら秘密にしても仕方がないと私達は悟った。

 だから私達は、この国を離れる原因となった四年前の話をすることにした。

 そしてついでと言ってはなんだが、この際ルビア様も知らない九年前まで遡って、ブルーノ殿下との因縁について語ろうと決心した私だった。



    ✽✽✽ 過去の話 ✽✽✽




 私がルビア様やエルリック様と初めて会ったのは十三歳の時だった。もっと正確に言えばそれよりさらに遡って、八歳の頃に出会っていたようなのだが、三人が三人とも全くその認識を持っていなかった。


 

 滅多に領地から出られない私を、母方の叔母である王妃殿下が不憫に思い、王立学園在学中の次兄ドイルに、帰省から戻る時に末の妹である私を連れてくるようように、そう命じてくれたのだ。

 そして王太子主催の王宮のガーデンパーティーで彼らと初めて会ったのだった。

 

 しかし、そのパーティーに私は当初参加する予定ではなかった。

 私のドレスがまだ仕上がらなかったので、パーティーには、まだ参加してはいけないと王妃殿下からそう言われたからだ。

 私はパーティードレスを一枚も持っていなかったのだ。というより、普段着のドレスさえろくに持っていなかった。

 私自身が欲しいと言わなかったせいだが、そもそも両親が私に全く興味がなかったので、一度も仕立ててくれなかった。

 そんな状況だった私に、ドレスを欲しがるという気持ちが湧くわけがなかった。


 ただ、着てみたいという願望がなかったわけでもなかった。

 何にでも関心を持ち、好奇心旺盛だった私は、機会さえあれば王都のパーティーや社交場にも出てみたいと以前から思っていた。

 でもそれは、別に綺羅びやかな場所が好きだとか、華やかなドレスを着たいという思いからではなかった。

 ただ、経験しておいて無駄なことはないと尊敬するガイル兄様から言われていたからだ。

 

 いくら親から放置されていたとはいえ、領地を任されていた叔父夫婦や家令によって、私は一応貴族の子弟としての教育は受けていた。

 それ故に、とりあえず人前に出ても困らないのではないかと思っていたのだ。

 実際に近隣のパーティーなどには参加していたからだ。

 しかし、辺境の地と王都、さらに王宮の社交場とでは雲泥の差があることに、私は全く気付いていなかった。

 その甘い考えが私の黒歴史を作ったのだった。

 

 

 

 私も一応貴族の端くれだったので、領地において家庭教師から一般教養を始めとする学問や礼儀作法、それに社交スキルなどを、兄や従兄弟達と共に学んでいた。

 もちろんダンスや辺境伯の子供として必須な剣や体術などの武術や、馬術なども皆と一緒に訓練を受けていた。

 

 自分で言うのも憚られるが、学問でも運動でも同年代の誰にも負けることはなかった。

 剣を取れば三人の兄のうち、年の離れた上の二人には敵わなかったが、すぐ上の兄や従兄弟、そして同年代の辺境騎士団の子息達には負けたことがなかった。

 それは体術や馬の早駆けにおいてもだ。

 しかし、私が身内の男連中の妬みを買ってしまった原因はそんなことではなかった。

 私が女の子の人気者だったことが原因だった。

 

 屋敷の中では少しだけ年上の侍女やメイドが私を見るたびに頬を染めていたし、一歩屋敷から出て町へ出かければ、すぐに少女達に取り囲まれ、追いかけられた。

 そして年に二度の祭りでは、次から次へと女の子からダンスを誘われた。

 そのことで兄や従兄弟達に嫉妬されていたみたいだった。

 

 

 なぜ私が女性に人気があったのか。私自身に自覚はなかったが、私と一番仲の良いメイドのラナイに言わせるとこうだ。

 

「頭の後ろで縛っている黒くて艶のあるストレートヘアーが靡くのが素敵!」

 

(私は馬か!)

 

「薄茶色の大きな目には長いまつ毛が影を落としているところが、憂いを帯びていて見つめられると胸がキュンとするんです!」

 

(色気だだ漏れのナルシストのキザ男か!)

 

「鼻筋が通り、唇もきりりと引き締まっていて格好がいいです」

 

 そう。まだ子供のうちから、私は精悍な顔立ちをしていたのだ。女だというのに。

 しかも同年代よりも体格が良かった。十二、三歳くらいまでは、二つ年上の三番目の兄ブロードよりも私の方が背が高かったくらいだ。

 並んでいると、私が兄で兄が弟に見えたと思う。

 だからこの兄は外で私が近寄るとひどく嫌がっていた。だから私が兄達からも嫌われていると周りからも思われていたのだろう。

 実はとても仲が良かったのだが。

 

 そんな少年っぽい容貌をしていた上に、私はいつも上の二人の兄のお下がりの服を着ていた。それ故に男の子に間違えられても仕方のないことだった。

 

(ちなみに、三番目の兄の服は小さくて当然着られなかった)

 

 

 自分の領地だけでなく、近隣の祭りや子供向けのパーティーに参加すると、とにかく私は女の子にもてた。

 しかも、女だと真実を告げてもその人気は落ちなかった。

 それでいつもダンスを申し込まれては、男性パートを踊らされる羽目になったのだ。

 その少女達の親も、私なら安心だと喜んでそれを止めることをしなかった。

 通常の子供よりも場数を踏んだおかげで、私のダンスの腕前はかなり上達したと思う。

 ただしそれはつまり男性パートのことだった。

 

 もちろん女性パートもできなくはなかったが、私と踊ってくれたのは叔父達だけだった。

 男と踊ってもつまらないという理由で、兄や従兄達から敬遠されていたからだ。

 そのために経験値が上がらず、男性パートと比べると女性パートの踊りは、大分ぎこちない動きになっていたと思う。

 

 そして従兄である王太子のいたずらに乗って王宮のガーデンパーティーに参加したとき、すっかりそのダンスのことを失念してしまっていた。

 そのせいで私は王太子に嫉妬され、嫌がらせをされ、大恥をかかされた。その上に、その後大失恋をする羽目になったというわけだ。

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