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第20章 第一王女の縁談(クリスタル視点)

 

 ストーンキャスト王国国王のトップシークレット。

 それを耳にしたのは、なんと留学先の隣国オイルスト帝国のカフェテラスだった。

 幸いだったのはそこがメインストリートから外れた、狭い通りに面する安っぽい店だったことだ。

 その辺りの客層は、自国の言葉しかわからない者がほとんどだ。覚える必要がないからだ。

 その男は真っ昼間だというのに安酒を飲んで管を巻いていた。ストーンキャスト語でストーンキャスト王家の悪口を喚いていたのだ。

 客も店主もひどく迷惑そうにしていたが、見回りをしていた私達に気付くと、助けを求めてきた。

 私達はまだ騎士科の学生だったが、騎士団の見回りの訓練を受けているときは、騎士団と似たよう制服姿なので、一般人には見分けがつきにくかったのだ。

 私達は五人でグループを作っていたのだが、その中でその男の言葉を正確に理解できたのは、私以外ではオイルスト帝国の第三皇子殿下だけだった。

 彼のおかげで、その情報元は処分されたので、その情報が外に漏れることはない。

 その男は国王の怒りを買って全てを奪われ、放浪の末に隣国へたどり着いたようだった。

 そもそも身を滅ぼしたのは自業自得で、命があっただけでも運が良かったと考えるべきだったのに、愚かなことをしたものだ。

 まさかあんな場所でストーンキャスト王国に関心のある(・・・・・)人物がいるとは思いもよらなかったのだろうが。


 そして、誰かに頼まれたわけでもないのに勝手にその男の後不始末をした男に、私は理不尽にもその見返りを求められた。私がストーンキャスト王国の王妃の姪だという理由で。

 そのことに私は閉口したわ。

 だって、私は親にさえその存在を無視された、ただの辺境伯令嬢なのだ。しかも卒業したら平民になる可能性が高いのだから、そんな義務を背負う必要なんてないもの。


 それ故に、たとえ母国の国王のトップシークレットが暴露され、王宮だけでなく、王城を揺るがすような事態になっても私の知ったことではない。だから皇子にもそう言ってやったわ。

 するとそんな貴族らしくない私の発言に、いつもはざっくばらんで鷹揚な性格の皇子でも、さすがに驚愕した目で私を見ていたわね。

 ただし、食わせ者の皇子はすぐに冷静さを取り戻して、普段は封印している皇族の一員としての面を出してきたわ。

 

「君はストーンキャスト王国の王家がどうなってもかまわないのかもしれないが、王妃殿下が悲しまれることは望んでいないのだろう?

 肉親の中で君を愛し思いやってくれたのは、兄上と叔母である王妃殿下だけだったのではないか?

 その王妃殿下を悲しませて、大騒動に巻き込んでも君は心が痛まないの?

 大切な人が困窮しようと動じないなんて、さすがは最優秀賞を二年連続で取っただけはあるよね」

 

 マリウス皇子の皮肉たっぷりの言葉に、さすがに苦笑いをしてしまった。

 騎士を目指している以上、もちろん私は泰然自若とした人間を目標にしていたけれど、当時まだ十六歳だった私が、実際にそんな態度を取れるわけはなかったのだから。

 いくら親しい友人だとはいえ、私はそこまで私的な事情は彼に話してはいなかった。

 ということは彼が調べさせたか、あるいは皇子の周りの人間から調査報告を受けたのだろう。さすが王族。

 

「私にできる範囲のことなら応じますよ。ですが、私はただの貧乏学生で後ろ盾も何もありませんから、貴方の望みを叶えられるとは思えませんけれどね」

 

 大したことはできないと暗に告げたつもりだったが、彼はにっこりと笑ってこう言った。

 

「難しいことじゃないよ。来月君の従姉が親善大使として我が国に来るだろう?

 その時に君を通訳として付けるからさ、僕をさり気なくなくヨイショして欲しいのだよ。

 たしかに成績では君に負けているけれど、それは君が特別なだけで、従来なら私は余裕でトップを取れたのだよ。

 そのあたりも説明してもらいたい。有能で役に立つ人間だとね」

 

「殿下が優秀なのは存じていますよ。殿下が人並みに勉強していたら、それこそ余裕でトップをとれたでしょう。そもそも飛び級をして今頃卒業していますよね?

 私とは違って好きなことばかりしてまともに勉強もしないというのに、毎回二番なのですから。

 それはともかく、殿下は我が国の第一王女を狙っているのですか? 彼女はあなたの三つ年上ですけれど。

 第二王女との方がいいのではないですか? 一つしか違わないですよ」

 

「いや、パルル第一王女じゃないと意味がないのだよ。彼女は後継者のいない公爵家の養女になって婿を取るのだろう?」

 

「よくご存じですね。なるほど公爵位をお望みですか。

 でも殿下ほど頭のいい方なら、どこかの国の王配にだってなれそうですが?」

 

「いや、王配って大した権力はないのにやたら仕事が多そうで馬鹿らしいじゃないか。

 それよりも自身が当主になった方がその責任と釣り合うだけの力を持てるから、そっちの方が断然いいよ。

 君の国ってさ、未だに女性には継承権がないのだろう?」

 

「目の付け所が違いますね。他国の弱みに目を付けるなんてさすがです」

 

 広い馬場の隅でこんなやり取りをした結果、私はこのマリウス第三皇子の太鼓持ちになって、従姉であるパルル第一王女との縁を結ぶ手伝いをする羽目になったのだった。




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