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第2章 過去の誤りに怯える王太子(ブルーノ王太子視点)  


 このストーンキャスト王国の王太子である私ブルーノは、愛しい婚約者であるルビアと、学院の食堂の隅で、楽しいランチタイムを過ごしていた。

 そこへ、幼なじみであるグルリッジ公爵家の嫡男エルリックが、その美し過ぎる顔を曇らせ、切羽詰まった表情で現れた。

 そして相談したいことがあると、悲愴感を漂わせて何度も頼むので、私は思わず頷いてしまった。

 

「それで、いったいどうしたんだい?」

 

 王族専用の特別室へヨレヨレヨタヨタのエルリックを連れ込んで、早速こう尋ねた。すると彼は、泣きそうな顔をしてこう言った。

 

「またご令嬢が、クリスタル嬢を裏庭に呼び出したんだ……」

 

「またか? 今月で既に七人目じゃないのか? 今度はどこのご令嬢なんだ?」

 

「子爵家のアネモネ嬢だ。何故僕とは何の関係もないご令嬢ばかり、僕との婚約解消をクリスタル嬢に要請するんだ!」

 

「これまでの六人とは違ってアネモネ嬢は関係があるだろう? 

 半年前に君が抜けるまで、一緒に生徒会活動していたじゃないか」

 

「はぁ? それがなんだというのだ。同じ生徒会で仕事をした者なら、人の婚約に物申してもいいというのか!

 それなら僕が君とルビア嬢の婚約に異議を申し立てても文句を言わないのだな!」

 

 エルリックが怒り含んだ目で私を睨み付けながら叫んだ。

 普通ならいくら公爵家の嫡男だろうと、王太子である私にこの態度は不敬である。

 しかし彼と私は生まれた時からのマブダチで、私的空間でさえあれば遠慮も礼儀もいらない関係なのだ。

 しかも、半年前に彼を窮地に陥れた遠因が自分にもあることを自覚しているので、罰することはできない。

 

 とはいえ、私とルビアの婚約に異議だと! それだけは許せん。

 しかし、エルリックが本気になればそれも可能であることに、ふと私は気が付いてしまった。

 

 平民のみならず貴族も、結婚予定のカップルは結婚式を挙げる一週間前に、神殿前の掲示板にその名前が貼り出される。

 そしてその結婚に異議のある者はそれを神殿に申し出ることができるのだ。

 当然神官及び裁判官全員の同意がなければ、その異議は却下されるので、結婚が取り止めになる事例はあまりないのだが。

 

 大体異議など申し立てたら、両家だけでなくその一族から恨まれることになるので、滅多なことではする者はいない。

 そう。破れかぶれになっている奴とか、もう無くすものがない奴、またはかなり身分の高い奴くらいしかいない。

 ああ、エルリックはこの二つに該当するのだったな。破れかぶれになる恐れがあり、かなり身分の高い奴なのだ。なにせ筆頭公爵家の嫡男だ。

 

 順風満帆だった彼の人生にケチをつけたのは、半年前のある傍迷惑な伯爵令嬢の事故死だった。

 彼には何の落ち度もなかったのだが、彼はそのことで酷く傷付いた。

 そして、そんなことになったそのそもそもの原因というか、遠因になったのが、私のせいだということに、エルリックはもしかしたら気付いているのかもしれない。

 そのことに今さらながらに考えが至って、背中に冷たい汗が流れ落ちた。


 彼は元々優秀だった。ただこれまではあまりにも育ちが良かったために純粋過ぎて、人の悪意に疎く、私の歪んだ思いや小狡さに気付いていなかった。

 いや、もしかすると彼は全て気付いていながら、私のことを鷹揚に受け入れてくれていたのかもしれない。

 しかし、精神的に追い詰められた後、彼を救い出したクリスタルを始めとする彼女の兄達によって揉まれているうちに、天使だった彼も善悪を兼ね備えた人間へと変化したのだろう。

 それは人として当然であり、望ましい形だとは思う。特に彼は将来の筆頭公爵であり私の側近候補だ。王家を支える中心人物になってくれないと、私も国も困るのだから。


 しかし、過去の私の卑怯な企みのせいで、私を見限っているとしたらどうすればいいのだろう。今さら謝罪して許されるものなのだろうか。

 三か月前にクリスタルと対峙した時の記憶が甦ってきて、その恐怖で足が震えた。

 彼女は心底軽蔑すように私を()()()()、王太子を敬う気配など微塵もなかった。両親に叱責されても、縁を切ってもらって構わない。隣国へ行くだけだと、平然と言ってのけた。

 もしクリスタルが隣国へ行ってしまったら、エルリックだけではなく、ルビアまでこの国を出て行ってしまう、そんな気がして仕方がなかった。


 ああ、母上の言われた通り、もっと早く目を逸らさずに過去の過ちに立ち向かえば良かったと、憤怒している親友を見つめながら後悔した私だった。


 

19時に第3章を投稿します。

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― 新着の感想 ―
叱咤は表現としてなんか違和感あるなあ
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