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第18章 王太子を糾弾する者達(クリスタル視点)


「至急議会を開き、王室典範の改正を提言する!

 女性王族を守るためにも女性騎士は必要不可欠だからな」

 

 国王が起死回生とばかりにこう言った。

 

「クリスタル嬢、すまなかったな。君を形だけの騎士にするつもりなど私にはなかった。

 息子のブルーノが自分に任せて欲しいというのでやらせてみたのだが、まさか配置計画も所属も決めていなかったとは思いも寄らなかったのだ。 

 あまりにも自信満々だったので確認を怠ってしまった。しかし、それは私の誤りであった。

 

 遅きに失したが、君を我が国の王宮騎士として採用したい。しかし、当然法律を改正することはそう簡単なことではなく、一定の時間がかかることはわかるだろう?

 だから今回は特例として、まずその任を受けて欲しい。いずれ正式な採用にするから」

 

 失態を全て息子のせいにするとは、本当に姑息だと私は感心してしまった。まあ、事実を言っているだけかも知れないが。

 王太子が怒りと恥辱でプルプルと震えているよ。

 こんな人達の下に就くのは嫌だなぁと正直思った。そこで私は即答した。

 

「申し訳ありませんがお断りします。私は実を取る人間なので、この流れでおざなりに仕事と身分を与えられるのは本望ではありませんので」

 

「「なっ!」」

 

 断られるとは思っていなかったのか、姑息な卑怯者親子は驚きの声を上げた。

 するとすかさず王妃がこう言った。

 

「ねぇ、クリス、実をとるというのなら、王宮や国の騎士でなくても私設の騎士でもいいのかしら?

 もちろんその責任に見合う報酬は払うわよ」

 

「我が辺境伯家の娘に用心棒の真似をしろというのですか! いくら王妃殿下とはいえ失礼このこの上ない」

 

「貴女はどこまで姉を馬鹿にするつもりなの! 今迄王家に尽くしてきたのに、こんな仕打ちをするなんて許さないわ」

 

 両親が珍しく王家に反抗的な態度をとっていることに驚いた。まあ、プライドの高い二人にしてみれば、我慢ならないのだろうな。

 公爵家との縁組の話が、王妃の私設護衛騎士の話になるとは信じられない事なのだろう。せっかく国王が形式上であろうと、正式な家臣として召し上げてくれると言っているのに。

 おそらく両親からすれば、私が名目上国の騎士になり、お飾りの公爵家の嫡男の婚約者になることを望んでいるのだろう。

 あれだけ私を無能だとか不要だから好きにしろと言っていたくせに、本当に勝手だわ。

 



 王太子は、話がどんどん自分の思惑から外れて進んで行くのをただ呆然と見ていたが、急に立ち上がりこう叫んだのだ。

 

「クリスタルはルビアの護衛騎士として僕が雇う。これで決まりだ」

 

 と。


「王太子殿下、貴方の騎士として召し上げて頂くというお話はお受けできません。謹んでお断りします。殿下のことはとても信じられませんので」

 

「なんだと! 不敬だぞ!」

 

「大体私がそれをお受けしたら、ルビア様から軽蔑されることは確実ですよ。ルビア様は私だけでなく、女性騎士の存在を国が正式に認定されることを望んでいらっしゃるのですから。

 王宮が私的にとか、特例だとか言って採用するなんて、そんな誤魔化しで納得されるわけがありません。それは王妃殿下も同じ思いだと思います。それでも構わないのですか?」

 

「うっ!」

 

 王太子もここで脱落した。

 

「王妃様、一つお訊ねいたしますが、私がもし妃殿下の私的護衛騎士になったら、やはり妃殿下の護衛をするのでしょうか?」

 

「いいえ。私の大事な娘となる予定のルビア嬢の護衛をお願いしたいと思っているわ。

 たとえ王族やその婚約者でも、学園内に護衛やメイドを付ける訳にはいかないでしょ。

 

 だから貴女が学園に編入して陰から守ってもらえると助かるわ。

 ほら、エルリック卿が学園をお休みしているでしょ。だから、近頃ブルーノに近付こうとしている者が出ているのよ。その者達にルビア嬢が狙われる恐れがあるから」

 

 なるほど。と私は思った。しかし、私はこう答えた。

 

「王妃様。申し訳ありませんが、やはり私はそのお話もお断りさせて頂きます」

 

「「「えっ?」」」

 

 みんなが驚きの声を上げた。ルビアの護衛だけなら私が喜んで受けると思ったのだろう。

 しかし、学園内だけの護衛ですって? つまり従者? 馬鹿にしないで欲しいわ。私はメイドや従者になりたくて隣国へ留学した訳じゃない。

 もちろんその仕事を馬鹿にするつもりはないが。私がやりたいこととは目的が違う。

 

「何故断るのだ!

 君はルビアの護衛になると約束したんじゃないのか!」

 

 王太子が目を剥いて叫んだ。そこでこう私は答えた。

 

「はい。そのつもりで騎士学校へ留学しました。しかし、先程思い出したのです。

 以前王太子殿下に言われた言葉を」

 

「僕の言葉? 何のことだ」

 

「ルビアは僕が守るから、お前は余計なことはするなと。昔、私が彼女のボディーガードをしていて、彼女を助けた時に、貴方はそう言いましたよね。

 あの時私は、余計な真似をして申し訳なかったと反省しました。そのことをたった今思い出したのです。

 

 貴方はルビア様の婚約者なのですから、彼女や私との約束通りに貴方自身が守って差し上げて下さい。

 学園内だけのことなのですから簡単でしょう?

 そもそも今まで人任せ(エルリック様)にしていたのも問題ですし、その方がいらっしゃらなくなったからといって、今度は私を呼びつけるなんて無責任です」

 

 暗に、今まではエルリック公子にルビア様を守らせていたという意味を含めて言ってやった。

 

 グルリッジ公爵夫妻は私の言葉にハッとして顔を見合わせていた。

 彼らは息子を自分達のせいで引き籠もりにしてしまったと、後悔して辛い思いをしてきたのだろう。

 しかし、これで自分達だけが原因ではなかったのだと気が付けたかもしれない。

 

 王妃様も青ざめていた。息子の振る舞いに疑問を抱きつつも、そこまで悪辣な真似をしているとは思いもしなかったに違いない。

 ただし、国王と私の両親は意味がわからないという顔をして、ポカンとしていた。


 サロンが静寂に包まれた。暫くの間全員が沈黙したまま、身動き一つしなかった。

 しかしそれを最初に破ったのは王妃殿下だった。

 

「ブルーノ、かつて貴方は婚約者のことは自分が守るから、手出し無用と私にも言い放ったわよね。

 それなのに実際は、幼なじみのエルリック殿を上手く誘導して彼女を守らせ、彼が利用できなくなったら、今度は従妹のクリスタルを手駒にしようとしているわけなのね。

 なんて浅ましい人間なのでしょう。厚顔無恥も甚だしい。本当に父親にそっくりですね」

 

「「えっ?」」

 

 国王陛下と王太子殿下が同時に声を上げた。しかし王妃殿下はあえて夫の方は見ずに、息子に顔を向けままこう続けた。

 

「王族として口にした約束を反故にすることは許しません。

 クリスに頼らず自分の手でルビア嬢を守りなさい。それができないのなら婚約を解消しなさい」

 

 王妃殿下の声はどこまでも威厳に満ち、甘えを許さない響きを含んでいた。


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