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第16章 サロンで決意したこと(クリスタル視点)


「ルビアのことは僕が守る」


 自分でそう宣言したのだから、自分の力でルビア様を守って見せなさいよ、王太子殿下。

 エルリック様のことを立ち直らせたいのなら、彼が大切なら自分の力でどうにかしなさいよ、王太子殿下。

 貴方のせいなのでしょ? 公子様がそうなったのは。

 まだ隣国にいたころ、兄から届いた手紙に、王太子の側近候補のエルリック様が学園を長期休学していると書いてあった。

 それを読んだとき、女性問題に巻き込まれたに違いないとすぐに思ったわ。女性の関心が公子様に向くようにと、王太子殿下が仕向けていると、以前ルビア様から教えられたからだ。

 そして、案の定その通りだったわ。あの場にいた人達は誰一人、王太子殿下の仕業だとは気付いていないみたいだったけれど。

 

 やはり教官の言っていたとおりだったわ。

 いくら隠密に行っていた行為だとしても、そこに悪意が存在し、倫理に外れた行いをすれば、巡り巡ってやがて報復されるのだ。

 エルリック様が表舞台から引っ込んでしまえば、王太子殿下にもろにスポットライトが当たるようになる。いや、もう既に女性の関心は殿下に向かっていているのだろう。

 そうなると、いずれ彼の婚約者であるルビア様にも人々の関心が向く。そして彼女を排除しようとする者達が現れるに違いない。

 しかし今度こそ、男性の護衛だけでは完全にルビア様を守り切れないと、さすがの王太子でも不安になったのだろう。

 

 だからって私を騎士として雇用するですって? よくもそんな見え透いた嘘をつけるものだわ。

 もう少し頭が切れる男かと思っていたけれど、そうでもないらしい。

 法律を改正する動きなど全くないのに、女である私を国が騎士として採用できるわけがないじゃないの。

 単に王家が私的に私をボディーガードとして雇うつもりなのだろう。そう四年前のように(・・・・・・・)

 

 ふざけるのも大概にしてよ。私は卒業したらこの隣国で正式に騎士団に入団できるのよ。

 案の定王妃様にその嘘を簡単に見破られてしまったじゃないの。


 それにしても、なぜ好き好んで私がボディーガードになると思っていたのかしら。

 もしルビア様を守れるのなら、たとえどんな身分だろうが、喜んで私がこの話に飛び付くと本気で思っていたのなら、頭がかなりお花畑ね。

 単純にルビア様を守るだけなら、私がこの国へ戻るよりも、彼女を隣国に呼び寄せた方がよっぽど安全だわ。実際、彼女が望めば私はそうするつもりだし。

 

 でも、グルリッジ公爵の話を聞いているうちに激しい怒りの感情は治まってきた。そして冷静になってよく考えてみた。

 やられっぱなしで泣き寝入りするのも癪に障る。倫理的に差し支えない程度の、プチ復讐をしに帰国するのもいいかも……と、帰国前に考えていたことを思い出した。

 私はどうしてもこの国で騎士になりたいというわけではない。今回もしここに留まったとしても、それは一年限りのことだ。しかもそれは、王太子と両親にぎゃふんと言わせるのが目的の一時帰国に過ぎない。

 どうせ飛び級をしているのだから、一年遅れて入団しても友人達に遅れを取るわけではないし。

  

 つまり、私をまた騙して利用するつもりなのだろう、とわかっていた上で今回帰国したのだ。

 とは言え、予想を上回る王太子の悪辣さに正直私は驚愕してしまった。

 もちろん弱みを見せた方が負けだと理解していたから、そんな動揺は一切見せずに、平然と彼とやり合ったつもりだけれど。

 

 それにしても、ルビア様のことだけでなくエルリック様のことまで持ち出すとは、なんて卑怯なのだ。

 そもそも彼にとってこの二人は、最愛の人と無二の友なのだろう。つまり言い換えれば、彼の最大のウィークポイントになるということだ。私よりもむしろ。

 それなのに私を脅すような真似をするなんて馬鹿じゃないの。

 攻略相手のことを調べもしないなんて、私を舐めているのかしらね。しかもあの両親まで味方に付けるなんて。

 私のことになんて興味がないから、私のことを知ろうともしなかったのだろうが、私は両親とは絶縁状態なのよ。生まれ落ちた時からずっと。それなのに、私がそんな親の命令に従うわけがないじゃないの。

 そもそも私は先月十七歳の誕生日を迎えて、すでに成人になっているわけだし。


 私は心の中でニヤリと笑った。

 一年だけ、王家のボディーガードになってやろうじゃない。公子様のことも何とかしてみせるわ。

 でも、ついでに王宮もこの国も変えてあげるわ。王妃様が本気モードになりそうだし、新たな大物の協力者も見つかったことだし。


 ただし、手当は騎士の正式の給金の三倍は頂くわ。優秀な傭兵を雇用するならそれくらいが妥当だもの。

 もちろん、それを国民の血税で頂くのはさすがに気が引けるから、王太子の私財から払ってもらうけれどね。


 だから、私は断る振りをしながらも、自分の立場が有利になるように話を進めたのだった。


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