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第13章 女嫌いなった諸悪の根源2(グルリッジ公爵夫人視点)


第13章 女嫌いになった諸悪の根源2(グルリッジ公爵夫人視点)

(グルリッジ公爵夫人のティアーナ様が語った話の続き)


 マリーヌ嬢のことがあって、エルリック様は酷い女性不信になり、女性が近寄って来ると避けるようになったという。

 その理由を皆理解していたので、出来る限り彼との接触を避けてくれていたらしい。

 いずれ時間が解決してくれるだろう。それまでそっとしておこうと、家族や王太子、そして周りの者達とそう思っていたという。


 ところが今から半年前、マリーヌ嬢が修道院へ送られる途中で事故死したことで状況は変わったという。

 エルリック様は毎晩のように酷く魘されるようになったのだという。

 眠りに入ると、夢の中に首の骨の折れたマリーヌ嬢が現れて、真横になった顔にうっとりした笑みを浮かべて、両手を伸ばして追いかけてくるのだそうだ。


 エルリックは毎朝体中汗まみれで、呼吸も荒くしながら目を覚ましていたのだという。

 連日連夜そんな夢を見せられて、エルリック様は精神的に追い詰められてしまい、やがて夜には眠れなくなってしまったそうだ。

 そのせいで昼夜が逆転してしまったそうだ。

 

「そんな息子の姿を見るのは可哀想で仕方がなかったわ。

 幼い頃のように息子を思い切り抱き締めて、背中を擦ってやりたかった」


 とティアーナ様は涙を零しながら話をされていた。


「けれどね、私が少し触れただけでもエルリックは体を震わせるので、そうすることもできなかったの。

 そこで私の代わりに下の二人の息子達が、兄をぎゅっと抱きしめてくれたわ。そしてベッドで一緒に寝てくれたの。弟達が居れば忌まわしい夢は見ないというので。

 そのおかげでどうにか昼夜逆転は改善されたのだけれど、エルリックは学園に通うどころか部屋から一歩も出られなくなったし、下の子達にも大きな負担をかけてしまった。

 私はただそれを見つめることしかできなくて、虚無感に苛まれたわ」

 

 エルリック様は完全な被害者だ。何一つ落ち度なんてない。それは最初にこの話を聞いた時に確信していたが、詳細を聞かされてその思いを強くした。

 それでも相手が死んでしまったことに何かしら罪悪感を抱いてしまったのだろう。たとえ相手がとんでもなく迷惑で非常識な人間だったとしても、死に値する罪を犯したわけではなかったのに、と思ったのかもしれない。

 それに加えて、女性とはか弱くて守ってあげるべき存在だという思想が刷り込まれていた影響も大きかったのだと思う。


 しかしまあ、それは誤った思い込みなのだと、四年振りに再会した時にすぐさま訂正できたことは何よりだった。

 私を目にしたら、女性が弱くて守ってあげるべき存在だなんて戯言(ざれごと)は消し飛ぶわよね。ブルーノ殿下の目論見通りになったことは少々癪に障ったが。


 あまりにもあっさりとエルリック様を部屋から引っ張り出すことに成功したために、彼の弟であるカイルド様とケニード様からは、伝説の魔導騎士だと勘違いされてしまった。残念ながら私は一介の新米騎士に過ぎないのだが。


 まあそれはともかく、私が呼ばれる以前の公爵家は、とにかく暗中模索で何か良い対策がないかと必死に探し求めていたという。

 そして様々な分野の専門家に相談をし、往診をしてもらおうとしたらしいが、エルリック様によってそれらを全て拒否されていたそうだ。

 幼なじみで将来の主になる予定の王太子殿下の訪問さえも、彼は会うのを拒んだというのだから。


「殿下は私達同様にひどく心を痛めて、とても心配してくださったの。

 そして、エルリックが引きこもってから一か月ほど経った時、殿下からこんな提案があったわ。

 辺境伯令嬢のクリスタル嬢に助けを求めてみてはどうかって」


 ティアーナ様のこの言葉に、やっぱり王太子が言い出したのだなと、私は忌々しく思った。

 王太子はグルリッジ公爵夫妻にこう言ったそうだ。


「私の従妹のクリスタル嬢は今隣国の騎士学校へ留学しているのですが、なんでもかなり優秀らしく、すでに騎士の資格をとっているらしいのです。

 エルリックは優秀な騎士に憧れていたから、クリスタル嬢の言うことなら聞くのではないかな。彼女は年少の頃から剣豪で、エルリックも()()()()()に憧れていたみたいだから。


 彼女なら性別を感じさせない。しかも騎士として訓練をしているから並の人間より逞しいし、彼を外へ引きずり出せるのではないかな。

 このまま長引くと、それだけ外へ出にくくなる。荒療治だがやってみる価値があるのではないかと思う。

 

 そして彼女にも学園に編入してらえればいい。そうすればエルリックが復学した際には側に付いていてもらえて、ご令嬢方からも守ってもらえるのではないかな」

 

「王太子殿下のその話に、私達家族は一筋の光を見つけたような気がしたわ。

 そして可能性があるのなら、それがたとえ僅かなものだったとしてもお願いしてみたいと思ったの。

 冷静になった今ではクリス様には本当に申し訳なかったと思っているわ。でも、結局貴女のおかげでエルリックは立ち直れたわけだし、正直なところ今は複雑な気持ちなの。

 そして貴女にはもちろんだけれど、ブルーノ殿下に対してもとても感謝していたのよ。 ()()()、王宮のサロンで疑問を抱くまではね」


 ティアーナ様は苦笑いを浮かばながらそう言った。


 王太子から提案を受けた公爵夫妻は、その後何度も王宮を訪ね、そこで辺境伯夫妻(私の両親)も交えて、何度も話し合いを重ねたそうだ。

 しかし当初導かれた結論は、真っ正直に私に願い出ても帰国してはもらえなさそうだ、ということだったようだ。

 まあ当たっていたわね。



 私の両親である辺境伯夫妻は、親である自分達が命じれば娘はすぐに帰って来ると軽く考えていたようだが、王妃殿下がそんなに簡単ではないだろうとおっしゃったのだという。

 そして公爵家が調べてみると、王妃殿下のおっしゃっていたことの方が正しいということがわかったのだという。

 

「貴女は辺境伯夫妻が思うよりずっと優秀な女性だったのだとすぐにわかったわ。飛び級をして人より一年早く、つまりあと一月ほどであちらの学校を卒業することになっていたのだから。

 つまり貴女には、わざわざ我が国に戻って学園に編入する必要などなかった。しかも既に隣国の騎士の資格を取得していて、隣国の騎士団に入団が確実視されていたというのだからなおさらだったわ。

 

 しかも貴女は留学を両親に反対されて、家出同然で隣国へ渡っていたから、奨学金を得て自力で暮らしているということもわかったの。 

 隣国に留まれば正式な騎士になれるのに、今さら何の援助もしてくれなかった親の言うことを聞いて帰国するなんてこと、あるはずが無いわよね」


 ティアーナ様が笑った。

 全くもってその通りだったのですよ。

 



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