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穏やかなセカンドライフのつもりだったのに・・・  作者:


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1/4

<1>出発しようとしたら嫁ができました

【登場人物】は後書きに記載してあります。

俺、グレイムは陽が出て間もない早朝の街を歩いている。

35歳の誕生日を迎えた翌日にだ。

早朝だけあってか、人が歩いている様子はない。

まぁ、門の近くに行けば居るとは思うが……今は居ないな。


この街は名前はフォートニナ。

ルーフィリア国で大都市に数えられる内の一つだ。

このフォートニナに訪れたのは俺が16歳の頃。

目的は兵士になって強くなり、少しでも良いから有名になりたかったから。



幼い頃に、生前の父親が兵士だった話を沢山聞いた影響かもしれない。

だから冒険者よりも、兵士になる道を選んだんだ。

給金も出るし、身体を鍛えられる。


だけど悲しいかな、俺には適性が無かったんだ。

なんとか訓練兵を抜け出して一般兵になったのは良いものの、そこから昇格試験に落ちて落ち続けた。

いくら身体を鍛えようとも武器の扱いが下手で、必要な筋力があろうにも関わらず使いこなす事ができない。


ならば魔法なら、と鍛えても結果は同じだった。

おかしな事に、魔力はあるのに魔法が打てない。

基礎の基礎である身体強化すら微弱という情けなさ。


戦闘センスが無く、特に対人戦は酷いもんだ。

魔物相手なら、まぁ……悪くはないかもしれない。

いやぁ……悪いな。

悪いから35歳まで一般兵だったんだ、変な見栄はよそう。


小さい頃から老け顔だし、身長も平均ぐらい。

身体を鍛えても目に見えて筋力が上がった感覚はないし……腹に力を入れれば腹筋が少し見えるぐらいか?

魔力を鍛えても、魔力量が上がったという結果が出ない。

俺にできたのは、昇格した同期や後輩達の話を聞いてあげるだけだった……そりゃあ悔しかったさ。


自分に秀でたモノがないのには早めに気付いたが、諦めきれずに35歳まで未練がましく兵士を続けてしまった。

この世界の平均寿命は70歳から80歳。

昔よりは大分長くなっている事から、世界がどれだけ平和になったかが分かる。


まぁ、そんな訳で人生の半分を費やして結果が出なかった俺は、漸く諦める決心がついたって訳だ。

ただ……辞めるのを申し出た時に、同期である隊長に安堵した様な顔されたのは心に来た。

彼の気持ちも分からなくはない。

怪我でもしたら彼の責任になってしまうだろうし、俺のせいで周りから色々な文句や批判も出ただろうから。


だけど……信じていて欲しかった、と烏滸がましくも少しだけ思ってしまったよ。

結局は何も残せなかったのだから、俺の気持ちは本当に烏滸がましい。

だから目的地に着いたら、こんな俺に付き合ってくれた感謝の念を込めて友人達に手紙を送ろうと思う。



さてさて、兵士の夢を諦めた俺が向かおうとしているのは故郷の村だ。

山に囲まれたド田舎の村だが、ノドカで居心地の良い場所。

幼い頃に流行り病で両親が亡くなってしまってからも、3年に一度は墓参りに帰っていた。


年寄りが多い村だけど変に偏屈ではなく、両親が早めに亡くなった時は優しくしてくれたのを覚えてる。

3年ごとに帰郷しても温かく迎えてくれたりしてくれたからな、これからは恩返しの名目で畑を耕すのを手伝おう。


……うん、なかなか良いんじゃないか?

想像するだけでワクワクするセカンドライフ。

夢を追ったのが第一の人生ならば、故郷の村でユッタリするのが第二の人生だ。

前を向いて夢を追っていたのだから、前を向いてセカンドライフを楽しもう。


地面から視線を上げると小さく見えて来たのは小さ目の噴水。

噴水の真ん中に祀られているのは、民族衣装に身を包んだ美しい女性の像だ。

皆に知られている名称は精霊像で、この精霊像は生きていたりする。


この精霊像は人間が作製したものではなく、何処からか『移動』してきたと言われているんだ。

この像は不明だが、もう一つの大広場にある精霊像は王都から移動している。

基本的には一ヶ所に一体なんだけど、フォートニナは2体存在しているんだよ。


その内の一体が俺の視線の先にある精霊像で、もう一つが大広場にある精霊像だ。

精霊像がある都市、町、村は魔物から襲撃される事がなくなり、その場所に幸福をもたらすと伝えられてきた。

研究者達の話では、人間に見えない結界が張られているとか、土地の魔力が活性化している等々、色々と論文が出されていると耳にした事がある。


それにしても精霊像か……村での呼び方と違って、初めの頃は良く間違えていたっけ。

同期にツッコまれていたのを思い出して独り笑いをしながら、改めて近付いて来た噴水に視線を向けた俺は驚いて立ち止まってしまった。


「シルヴィ……か?」


独り言のように呟いて見詰める先には寝間着姿と言っても過言ではない服装で、虚ろな目をして座り込んでいる女性の姿があった。

右腕には包帯が万遍なく巻かれており、銀色の長い髪は手入れがされていない様に飛び跳ねている。


シルヴィは俺の後輩で、入隊して間もなく才能を開花させた女性。

凄まじい才能は王都の騎士団の目に留まり、輝かしい成果を叩き出していたと風の噂で聞いていた。

だけど半年前、魔物の大暴走で負傷したと聞いて心配していたんだ。


手紙を送っても返事が返って来ないし、会いに行くにしても連絡が取れなかった為に会う事も叶わなかった。

2か月前から漸く快方に向かっていて、今は剣を握る為のリハビリ中だと聞いて安堵していたんだが……これはないっ!

シルヴィの様子は酷く、気が付けば駆け寄って彼女の両肩に手を置いていた。


「おいっ、シルヴィっ!大丈夫かっ!?」

「ぁ……先輩……?なんで……此処に……?」


虚ろだった目に僅かに光が戻り、彼女の視界が俺を捕らえたのが分かった。

地面に座り込んでいた彼女を噴水の縁石に座らせ、持っていたバッグからハンカチを取り出して目元を拭っていく。

表情を変えずにポロポロと涙を流す様子を見て、居た堪れない気持ちになりながら事情を尋ねる。


ポツリポツリと小さな声で教えてくれたのは、風邪の噂と全く異なる話だった。

半年前に魔物の大暴走で負傷したのは本当だが、その怪我は人為的なものであり、しかも呪いが掛けられてしまったという。

結果、右腕は動かす事ができるものの、剣を握れなくなってしまっている。


所属していた騎士団から医師が派遣されたのだけれど、シルヴィの目から見ても真剣に診てくれているようには見えなかったらしい。

藁にも縋る思いで自分でも調べたが答えは出ず、気が遠のく感覚に陥り、夜の散歩に外に出たところまでは覚えていると教えてくれた。


「いつの間にか……退団の書類まで提出されていて……」

「はっ?自分から提出していないのに退団っ?オカシイだろっ」

「私も訴えたんです……でも決まったって……」


シルヴィの止まらない涙を拭いつつ、言葉が出てこず奥歯を強く噛み締める。

これは恐らく妬みからかもしれない。

兵や騎士は男性が多く、その中で女性は受け入れて貰い辛い。


フォートニナに居た時も、初めはそうだったんだ。

王都に行く時には受け入れて貰っていたが、貴族が混ざっている騎士団では受け入れられなかったんだろう。


でも、ここまでやるのかっ?

妬みだけで強硬手段を取れるものなのかっ?

確かに派閥もあるだろうが……もしかして貴族が絡んでいる?


シルヴィは剣の腕だけじゃなく、アダ名で剣姫と呼ばれる程の美貌の持ち主だ。

もし貴族が絡んでいるのならば、平民である俺達に対処できる手はない。

ならば嘆いておらずに前向きに考えよう、シルヴィの心を前に向かせる手助けをしよう。


「シルヴィ、俺は退団したんだ。それで今から故郷に帰るところだ」

「ぇ……そんな……」

「待て待てっ、最後まで聞いて欲しい。シルヴィが嫌じゃなかったら付いて来ないか?山奥の何もない田舎だけど、自然の中でユックリできる。今のシルヴィに必要なのは、安静にして心を休ませる事だと思うんだ……どうだ?」


俺を真っ直ぐに見る切れ長の目が大きく開かれていき、瞳には王都に向かう前に見た輝きが戻ったように見えた。

どの道、俺も再出発する所だったんだ。


連れが増えたところで何も変わらない。

夢を諦め捨てたけども、男まで捨てた覚えはないっ。

プルプルと震えていたシルヴィは口元に笑みを浮かべ、頷いてからシッカリとした声で話し始めた。


「求婚ですね、受け入れます」

「そうか……なんだって?」

「故郷に連れて帰る、つまり娶るという事でしょう?剣は握れませんが、立派なお嫁さんになってみせます」

「いやいやいやっ、はっ?嫁っ?話を聞いていたのかっ?療養の為だぞっ?」

「ぅ……お嫁さん……」


ぁあぁあ~~、泣かないでくれ~~~!!

今まで無表情だったのに、眉間に皺を寄せてポロポロと泣き出してしまった。

シルヴィを慰めつつ、女性経験が乏しい俺は慌ててしまう。

そもそも、意味が分からない解釈をされれば誰だって慌てる!


「やっぱり……大きい胸が好きなんですか?」

「胸の大きさで嫁を選んだりしないっ」

「私、まだ若いので、揉んでくれたら育ちます」

「そんな事をしなくても十分だっ。いや、揉むな揉むなっ」


自分の胸を両手で揉み始めたシルヴィを慌てて止めた俺は大きな溜め息をつき、自分達の声で騒がれていないか辺りを見渡した。

ワンピースの様な寝間着で胸を揉まれたら、旅立ちどころじゃなくなっちまうっ。

ジッと見詰めてくる青い瞳を見返しつつ大きな溜め息をついて、うだうだ言わずに覚悟を決めた。


「分かった。俺の嫁として付いて来てくれ」

「不束者ですが、宜しくお願いします」

「此方こそ、色々と話し合っていこう」

「はい。それで、いつから揉みますか?今夜からですか?」

「……王都に行く前よりも、揶揄うのが強くないか?」

「気のせいです」


再会して初めての微笑みを浮べた彼女の片手を引いて立ち上がらせた。

まさか出発しようとしたら15歳下の嫁ができるとは思わなかったよ。

【登場人物】


*グレイム

身長171 35歳 茶髪短髪

老け顔 筋肉が付きにくい身体で、細くなければ太い訳でもない。

この物語の主人公。

16から強い兵を目指し、結果が出ずに35歳になる前日に夢を諦めた。

それからは故郷に戻り、ノンビリとしたセカンドライフを夢見る。


*シルヴィ

身長169 20歳 艶がある銀髪 腰の上まで伸ばしているロングヘアー

美麗な顔付き 切れ長の目 青い瞳 細い身体

胸にはミカンを実らせている。

見た目は冷たい印象を持たれがちだが、気持ちを伝えるのが苦手なだけ。

言葉足らずな彼女だが、グレイムにはいつ何時も気を許している。

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