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4/23日 日曜日 昼──3

 下着の方だった。


「ブラはサイズがないですけど、パンツはサイズあんまり関係ないですからね」

「パンツっていうか、ショーツ?」

「そうですね」

「中古でパンツって、売っていいのか?」

「いえ、さすがに下着は新品ですよ。古着屋とはいえ新品を仕入れるツテはあるんでしょう」

「へぇ……」


 古着屋ってより、総合的な服屋なわけだ。

 加藤は近くの白の花柄刺繡の入ったショーツを手に取る。


「こういうの王道ですけど、ちょっと野暮ったいですか?」

「女の子が履けばなんでも魅力的だろ」

「何色でもですか?」

「白でも黒でも。下着に優劣はない」

「ブラはサイズの関係で好きに色選べないんですよね。パンツくらいはいろんな色の着てみたいです」

「それブラとパンツで色が違うことになるんじゃないか?」

「先輩は統一したほうが好きですか? 色バラバラは興奮しませんか?」

「加藤が着ればなんでもいいだろうな」


 Tシャツのときと同じ本音だった。


「大きいとブラの選択肢がですね……」

「それよく聞くけど、実際にそうなのか。どこで買ってるんだ?」

「懇意にさせてもらってる下着メーカーで通販ですかね」

「実店舗の方が試着できていいのにな。置いてないのか」

「私のサイズはあっても少ないですね」

「ふーん」


 加藤は無表情で乳を張る。

 いつも通りの巨乳。


「古着買ったら下着も見に行きましょう。フィッティングしてください」

「店員さんにしてもらえよ……」

「先輩の手でやってほしいじゃないですか」

「さすがに店はな」


 店はダメだろう。

 彼氏を装えばいいのか?


「先輩に後ろから抱きしめられて、先の方を斜め下から手で覆って胸全体を支えてもらえる。なんだったら潰すように圧迫してもらえる。いい気分ですね」

「ああ、いいな。それのなにがいいって、加藤の尻と俺の局部が密着するような体勢なのがいい」

「そうでしょう? 私の背中はエビ反りになってますからね。後ろから、みたいな」

「これフィッティングの話だよな?」

「フィッティングの話ですよ?」


 フィッティングの話らしい。

 加藤がそういうなら、フィッティングの話なのだ。


「店員さんに驚いた顔されるんですよね。こんな大きい胸が存在するのかって」

「そうだろうな。加藤の才能だし」

「乳テントだって、見せびらかしたいわけじゃないんですけどね。大きいと勝手にそうなるだけで」

「服の耐久が問われるな」


 実際、乳のデカい女の着ている服は、内からの乳圧に耐えているイメージがある。

 姉しかし、妹しかり。


「この世界が先輩と二人っきりの世界なら、私も自由に生きるんですけどね」

「結構加藤っていまも自由じゃないか?」 

「どこがですか? 先輩に服従の土下座もまだしてませんよ?」

「土下座するようなことあったっけ」

「ないですけど、したい気分です」

「ならそれもまただな」


 どんどん積み重なっていた。

 約束が。


「で。パンツは結局どれにしましょう」

「なんでもいいだろ」

「薄い方がいいですか? 厚い方がいいですか?」

「生地が? 加藤って尻もデカいから、薄いやつだと破れるんじゃないのか?」

「そこまで薄いわけじゃないでしょう。伸ばされて肌の色が透けるくらいで」

「なら中間を狙ってこうぜ。過ぎたるはだ」

「模様はどうですか? よくある、こういう縞模様のやつとか」


 縞パン。

 想像してみる。


「加藤が履いてるのはちょっと違和感あるかもな。もっとつっけんどんとした奴が履くならイメージにあうけど」

「私は性格キツい女じゃないと」

「キツくはない。むしろ会話しやすくていい。声も高くないから耳に響かないし」

「嬌声は高いと思いますよ」

「一番の例外を持ってくるな」


 話がいつも通り、脇に反れる。


「会話といえば。しりとりも一回やったっきりですよねそういえば。明日はまた他の科目でやりますか」

「でも俺の奴隷にはなってるんだし、もうやらなくてもいいんじゃないか? 思い返せば、あれ、俺と会話するための方便だったんだろ?」

「でも楽しいですから。先輩とする話はなんでも楽しいですけど、単純なしりとりがここまで楽しいのは先輩が初めてです」

「あそ。会話の内容が何も思いつかないときの窮地の策ってわけじゃないんだな」


 しりとりって相手の語彙も分かるし。

 存外、いい会話なのかもしれなかった。


「先輩が、初めてです……」

「なんで繰り返した」

「男の人ってこういうの好きじゃないんですか」

「好きだけどな。でもシチュがもっと違う場ならの話だろ」


 初めてって女の子が言うだけで興奮するとでも思ってるのかこいつ。

 そういう奴もいるかもしれないけど。


「本当ですか? 女子の初めてならなんでも奪いたいものじゃないんですか?」

「たとえば?」

「キスとか」

「具体的だな」

「先輩はキスしたことありますか」


 急な質問。

 さて。

 どう答えるか。


「ん-」

「もちろん女の子と」

「誰が男同士でするんだよ」

「そういう趣向の方もいるでしょう」

「いるけど。俺は違うから考えなくていいぞ」

「なら、女の子ではどうですか」


 どうだろう。


「一応は、ある、かも」

「……あれ。予想が外れました。先輩、キスも未体験なのかと」

「んな顔するなよせっかくいい顔で生まれたんだから」


 加藤はゆるりと首を振った。

 けだるい動作の似合うやつだった。


「いえ、意外とショックが大きいですね。先輩の唇が他の女に既に取られていたなんて」

「いや、姉と妹の話だからな」


 言い訳みたいになった。

 けどまぁ、言わないよりはマシだろう。


「……あぁ。姉妹で。なるほど」


 加藤が納得したような瞳をする。


「姉が弟にキスするタイプの姉だったから。家族に好意を伝えるにはキスがいいんだって、幼稚園のときの俺は勘違いしたんだ」

「へぇ。それで」

「そう。で、妹にも小さい頃」

「キスしたわけですか。え、マウストゥマウスですか」

「さすがにほっぺ。口に行こうとはしなかったな」

「本能で分かったんですかね。そこから先は戻れないって」

「かもな……唇ってあきらかにエッチだし」

「マセてたんですね」

「そりゃ、あんな姉妹がいればな。俺に選択肢はなかった」

「へぇ。それで、いまは逆に、好きにできる後輩女をはべらせてると。なかなか因果な人生ですね」

「反動かね。神様は見てくれてるものなんだな」


 神社参拝でも行った方がいいかもしれなかった。


「まぁともかく、それならノーカンでしょうね。家族ですし」

「だな。なら俺はキス童貞なのかもしれない」

「よかったですよ。先輩の初めては私がもらいます」

「男前だな」

「同時に私の初めても先輩のものなんですから、ちゃんと受け取ってくださいよ」

「はいはい。そのときはな」

「よろしくお願いします」


 なんの挨拶なのだろう。

 なんの会話なんだこれ。

 分からなかった。

 どのパンツを買うかもまだ決まってないし。


「というか、いまさらっと幼稚園のときの先輩が出てきましたね。興味あります」

「まだ膨らむのかこの話」

「膨らみますよ」

「加藤の乳みたいに?」

「胸が大きい女は器が大きいんです」

「それ小さい女が聞いたらどうすんだよ」

「育乳しましょう。好きな人がいるなら妄想も有効です」

「それで大きくなるのか?」

「やらないよりは断然ましです」


 そうかもしれないけど。


「それで、幼稚園のときの先輩って、どんな子だったんですか?」

「どんな子……別に普通だったろ。ちょっと本を読む、賢しいガキだった」

「へぇ。髪型は?」

「結構長かった。女ほどじゃないけど、男にしては長めだった」

「デスノートのニアみたいな」

「あぁ、たしかにあんな感じだったな。黒髪だけど」

「Lほどじゃない感じですか」


 なんで例えがデスノートなんだよ。


「伝わりやすいかと思って」

「ま、その例えであってるよ。ニアくらいの髪だった」

「ふぅん。その頃はまだ、今みたいにひねくれてないんですよね」

「まぁ。正義とか真実とか、まだ信じてた気がするな」


 思い出したくもない。


「そういうのって、サンタさんじゃないんですか」

「サンタは家の裏庭に死んでたから」

「嘘ですか?」

「これは本当」

「本当ですか?」

「いや嘘」

「嘘なんじゃないですか」


 嘘だった。


「正しくは、サンタの服が落ちてたんだよ。裏庭に。だからサンタってそこまで絶対的な存在じゃないなって気付いたわけ」

「それ、家族の誰かがサンタコスプレしてプレゼント配ってたんじゃ?」

「今思えばそうかもな。なんであんなに無造作に置いてあったかは知らないけど」

「なにかあったんでしょう」


 サンタのコスプレ衣装。

 家族の中の誰か。

 どちらにせよ過去のことだった。

 

「ま、そろそろ、いい加減パンツ選ぼうぜ。バイト娘の視線が痛い」

「この距離なら会話内容は聞こえてないはずですけどね」

「それでも加藤みたいな女が男連れて長時間店内にいるのはあちらさんとしては気分悪いんだろ」

「逆でしょう。先輩みたいな男が高身長かわいいショート巨乳女を連れてるのが嫌なんでしょう」

「なんでいやなんだよ」

「脅してるとか思ってるんじゃないですか」

「加藤って脅されるような女かね」

「少なくとも外見は上から数えた方が早い見た目ですし。変な男に狙われてると思われても不思議じゃないですよ」


 それもそうだった。


「じゃ、早いとこ選ぶか。どれにするよ」

「この辺りのを二枚ほど買いますか。パンツこそ先輩に選んでもらいたかったですが」

「あんま俺が触るわけにもいかないだろ。他の人も買うんだし」

「いいじゃないですか。先輩の触ったパンツを他の女が履くんですよ? 気分はいいでしょう?」

「加藤はいいかもだけどな。他の女はそうもいかないだろ」

「女としては、先輩が他の女と関わるのは優越感があって気持ちいいですけどね。最初に私が選んだ男っていうのと、これだけモテてる男の所有物になってるっていう」


 女の感覚だった。


「モテてる男はさらにモテるって話か?」

「そんな感じですかね」

「でもそれ、最初の一回目はどうするんだろうな。加藤のときみたいに一目惚れでもされない限り、話がそもそも始まらないと思うんだが」

「強引に奪っちゃえばいいんじゃないですか? そうすれば経験は持てるでしょう」


 さらりと表情を変えずに言う加藤。


「犯罪教唆みたいになってないか?」

「いえそういう意味ではなく。最低限お互いが好き合ってるならとっとと告白して関係を持てばいいと、そういう意味ですよ」

「その確認はどうするんだよ。お互いが好きかどうかなんて心でも読めない限り分からないだろ」

「なんとなくで分かるでしょう。先輩だって私の好意に気付いてたじゃないですか」

「そりゃ、一緒に学校から帰るのが二日続いて、さらに休日は家までお邪魔すればな。誰でも気付くだろ」

「逆に言えばそれがラインだと思えばいいんじゃないですか? 一緒に下校もしたことないなら好かれてないんですよ」

「なるほどな。ちょっと話しかけられたとか笑いかけられたとか、その程度は日常なわけか」

「私はそう思いますよ。一緒に帰ろうと誘われたことがあるなら、八割がたは好かれてます」


 帰りの誘いがラインだと。

 分かりやすい。

 

「残りの二割は?」

「不運な場合ですね。女の方が底知れない天真爛漫さで意味もなく誘ったとか、慌てふためくのを見て楽しんでる性悪(しょうわる)とか」

「結局、確定はしないわけか。人の心はかくも、だな」

「そうですね。一目惚れする女もいれば男が嫌いな女もいますし」


 加藤は前者。

 息を軽く吐いて加藤は言う。


「先輩以外の男は死ねばいいと思ってますけどね」

「それはなにかと困るだろ」


 世界人口の半分が死ぬことになる。


「そうですね。だから最低限、先輩と私とその他の奴隷女とのイチャラブは邪魔しないでほしいところですよね」

「他の奴隷女なんていないけどな」

「でしたら私の友達でも紹介しましょうか? ちょうどいいのが揃ってますよ」

「言い方。おい言い方」


 怖い奴隷だった。


「たとえば、語尾が伸ばし棒のふにゃーとしてる猫目女とか。どうです?」

「乳は?」

「私ほどじゃないですけど、十分羨ましがられる大きさはあります」

「処女?」

「多分」

「あっそ」


 最低な会話だった。


「まぁそんなことはどうでもいいんだよ。どうせ縁なんてないだろうし。加藤と話してりゃ他の女と関わる時間もないだろうしな」

「それは嬉しいことですが、私も一緒に下校できない日ぐらいはあると思いますよ。そういう日はどうするんですか?」

「加藤って帰宅部じゃなかったか? 一緒に下校できない日なんてあるか?」


 部活は入ってないって話だったはずだ。


「いえ帰宅部で合ってますよ。ですから放課後はいつも暇なんです」


 言って、加藤は俺を見た。


「でもなにかしら用事が入ることってあるじゃないですか」

「たとえば?」

「委員会とか」

「何委員?」

「図書委員です」

「楽なの選んだわけか」

「そうです」


 委員会ね。

 また、加藤らしいチョイスな気はする。


「でも図書ってそんなに仕事ないだろ。たまになんか本の整理とかやってんなってくらいで」

「でも放課後使ってやらないといけないことができるのには違いないですし。たまーにそういうことあるんですよ」

「ふぅん」

「帰宅部なんで断る理由もないですし」

「そりゃそうだ」


 なら仕方なかった。


「ま、一人で帰るだろその時は」

「待ってくれないんですか?」

「別にいいけど、何時になるんだ?」

「早いと三十分くらいですかね。一時間かかるときもありますが」

「ま、そのくらいなら時間も潰せるか。待っててやるよ」

「で、そういうときのために、他の女と仲良くしておくといいと思うんですよ。私みたいに奴隷じゃなくても、一時間くらいは話して時間の潰せる女友達です」

「あぁなるほどな。そこに話が戻るのか」


 加藤の乳をなんとなく眺めながら、俺は思考を切り替える。

 話ができる女友達か。

   

「最高なのは私みたいに先輩に忠誠を誓う女ですけど、無理なら最低、会話だけでも先輩のお眼鏡に適う女を作っておくといいですよ」

「へぇん。あんま、そういうの考えたことなかったな」

「じゃ、それは平日になってから始めますか」

「そうだな」


 パンツを数種選んで、加藤は俺の持ってるかごに入れた。

 

「あ。そうですね」


 と。

 加藤はその態勢のまま、俺の顔に自分の顔を近づけた。

 近付けた、というか。


「ちゅ」


 キスされた。 

 

「他の女と関りを持つ前に、私が貰っておきますね」

「……で、俺も、貰うことになったわけか」


 バイト娘の声にならない声が聞こえた気がした。

 まぁ。

 どうでもよかった。

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