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4/23日 日曜日 昼──1

「ここです」

「ここ?」

「ここです」


 ショッピングモールじゃなくて、古着屋だった。

 

「こういうときって、ショッピングモール行くものじゃないのか?」

「こっちの方が安いんですよ」

「金ないのか?」

「服買うくらいはありますけど、着たあと先輩にあげる用に買うんですから、一つ一つは安い方がいいでしょう。その方がバラエティー豊かに楽しめますから、ね」

「ふぅん。ブラとかも?」

「さすがに私のサイズは古着屋にはないです。そっちの方は、またおいおいのお楽しみにしましょう」


 言って、加藤は慣れた様子で扉をひき店内に入る。

 見ると、おばちゃん店主とバイト娘しかいなかった。


「っ。いらっしゃいませー」


 営業用の笑顔で元気よくレジの中から挨拶するバイト娘。

 おばちゃんの娘か。それにしては年が離れてるが。


「もう浮気ですか?」

「いや付き合ってないんだろ?」

「そうですね。じゃあ訂正します。もう他の奴隷が見つかったんですか?」

「多分、後にも先にも加藤だけだろ」

「そうですかね」

「ってか、あの二人だけでこの店、切り盛りしてんの? 他の客もいないし……経営、やっていけんのか?」

「まぁやっていってるんですから、いいんじゃないですか?」

「適当だな」

「実際、私昔からよく来てますし。潰れてないならいいんでしょう」

「そんなものか?」

「そんなもんです」 


 言って、加藤は店角に進む。


「まずはこの辺りですね」

「タンクトップな。言ってたやつだ」

「先輩は何色が好きですか?」

「あー」


 訊かれて、考えた。

 タンクトップ。


「大体、白のイメージだな」

「昨日私が着てたのは黒ですね」

「そうだ。あれ、珍しいと思ったんだよな。なかなかないだろ、黒のタンクトップって」

「そうですか? 割とよく着てると思いますけど」

「誰が着てるんだ?」

「縦と横しかない女の子とか」

「二次元じゃねぇか」

 

 それならたしかに着てるが。


「あれ? 先輩、二次元の女の子とか見ないタイプですか?」

「根暗だからって二次元に行くわけじゃないだろ」

「そうですか? じゃあ、先輩は二次元のキャラとか見ないんですか?」

「いや見るけどな」

「見るんじゃないですか」


 そりゃ、まぁ、そう。


「なんですか? ピクシブとかですか?」

「あそこは強いよな。結局二次元のイラスト見ようと思ったら、あそこに行きつくみたいなところある」

「なら呟くアレとかは」

「あれはなぁ」

 

 イラスト見る用のものじゃないしな。そもそも。


「まぁ併用するのが一番だろ」

「先輩はどんなイラスト見てるんですか? R18は見るんですか?」

「ピクシブの半分はエロイラストが支えていると言って過言じゃないだろ。そりゃ見る」

「どんなジャンルが好きなんですか?」

「ジャンルな……」


 言っていいのか?

 家の中じゃなくて、外だし。

 店内だし。


「言いにくいなら私から言いましょうか。私は凌辱系が好きです。特に信じてた好きな男の子に裏切られて無茶苦茶されるのが好きです」

「それ女向けのイラスト?」

「いえ男向けです」

「そんなジャンルあるか?」

「凌辱タグで調べればいくらでもあるでしょう」

「そうか」


 まぁあるか。

 というか、それなのに逆バニーは知らなかったのか。

 知識の偏りが凄かった。


「知ってます? 女って、好きな人にされると体が勝手に妊娠の準備をしちゃうんですよ?」

「それリアルでもそうなのか? そういうのって二次元だけじゃなく?」

「実際、先輩が私の膝に手を置いて私の股を開く妄想だけでも汗がじっとりしてきますもん。身体が熱くてすぐに解消したくなります」

「その時の俺、どんな目をしてるんだ?」

「奴隷を使ってやるっていう目ですかね」


 どこのエロ漫画なんだ。


「ってか、無理やりでもそうなのか?」


 気になったことを聞く。


「好きな人とするのがイイことなのは分かるけど、意志関係なくなのか?」

「そうですね。心ってすぐにどうこう出来るものじゃないですし。一回でも心の中で受け入れた人のものなら体は反応すると思いますよ。身体は正直っていうやつです」

「お前、一回しか会ってないのに一目惚れしたんじゃなかった?」

「一目惚れはまた別ですよ」


 別らしかった。


「私、あのタグ好きなんですよね。知ってます? 『肩組んで乳揉み』っていうタグ」

「あぁー。見たことある。あれいいよな。女がデレてたらなおいい」

「女が嫌がってても良くないですか?」

「いいな。女が酔っててもいい」

「家まで送ってきますって、乳揉みながら居酒屋出るやつですね。あれいいですよね」

「そのタグは外れがない気がするな」


 どうやらまだ話は続くらしい。

 

「女を所有してるっていう興奮ポイントが分かりやすいイラストですからね、あれ。『後ろから乳揉み』タグもそうですが、絵のうまさとかじゃなく構図の時点で抜けますよね」

「何を抜くんだよ」

「女だからって抜けないと思ってるんですか?」

「なんかあるのか?」

「それはまた、初夜の楽しみにしましょう」


 謎だった。

 後の楽しみが積み重なっている。


「胸と言えば、女が牛の乳しぼりみたいに胸を下に伸ばして背中を地面と平行にするあの格好もいいですよね」

「あぁ、手が縛られたりとか手首を掴まれたりしての、あの格好な」


 ああいうイラストは、いいねも多い気がする。


「後ろから男が覆いかぶさって先っぽを弄るやつ。最高だよな」

「先っぽを合わせるのもいいですよね」

「最高だな」

「なんで胸が下に伸びてるの、あんなにいいんですかね」

「大きさと長さが分かるからじゃないか? あと普段は大きくなってない先っぽが勃起してんのが分かりやすかったりとか」 

「あぁたしかに。弄ってほしそうに大きくなりがちですよね」

「着衣でもいいのが最高だよな。座って机に突っ伏して、胸だけ膝の上に乗ってたりとか」

「格好の時点でいいんですよね」

「最高だよな」

「私の胸の大きさなら、あれ、できますよ」

「あぁ。その乳の大きさなら、たしかにできるだろうな」

「いや、そういうことではなく。先輩なら、私の身体を使って同じことができると、そういう意味ですが」

「それは、まぁ、いつかやろうな」


 なんというか。

 店の中でやるような話じゃない乳談話だった。

 加藤はタンクトップをハンガーから外したり戻したりしながら俺の顔を見る。


「先輩は『クール』とか『ダウナー』とか調べないんですか?」

「どうだろうな。調べることもあるようなないような」

「どっちですか」

「でも、一個文句言っていいか? あのさ、『クール』で調べるとさ、『スクール』がヒットするくないか?」

学園(スクール)アイドルが検索にヒットするわけですか」

「そう。あと『スクール水着』とかもな。それでクールじゃない子のイラストも出てくるわけ」


 体験談だった。


「いやいいイラストだとは思うけどな。でも望んでるイラストが出ないときって、言葉にできない困惑と苛つきがあるだろ?」

「それ、検索の仕方を変えればいいんじゃないですか? タグの部分一致検索を完全一致検索にすればいいんじゃないですか?」

「それだと今度は『クールデレ』が引っかからなくなるわけだ」

「『クーデレ』で調べればいいじゃないですか……」

「そうだけどな」

「というか、結構『クール』で調べてるじゃないですか……」


 バレた。


「えーと。タンクトップは……これにしますか」


 急に買い物の話に戻る加藤。

 古着屋にいるのだから、買い物の続きだった。

 

「黒と……普通の白もあるな。どっちにするんだ?」

「どっちもでいいでしょう。古着屋に来たのはそのためでもあるんですし」

「そっか。安いしな」

 

 税込み、五百円(なり)

 二つで千円。


「でも安すぎないか? 加藤みたいな女子高生が着る服にしては」

「ダイヤモンドは余計な装飾を付けなくても価値があるんですよ」

「加藤には高い服はいらないと?」

「私の顔面と乳と腹と尻と足は価値がないと、先輩は思うんですか?」


 価値は、あるだろう。

 その通りだった。


「変なところで自信あるな、お前……」

「先輩に会いましたからね。好きな男には精神的に奴隷になるのが女の(さが)ですよ」

「聞いたことあるなそれ。女は全員、応援団だって」

「好きな男に出会ったら、全身全霊で応援するのが女ってものですね。それが本能なんです。たった数千年じゃ変えられない原始の本能ですね」

「ふぅん。そういう意味じゃ、男もオトコで原始から変わってないんだろうな」

「先輩も見たことあるでしょう。性格悪いのに女がいつも周りにいる男。ああいうの、本能が出てますよね。男も女も」

「いるな。たまに」

「結局、賢ぶっても中身は本能生物なんですよね、人間って。霊長類のトップとかっていっても中身はちゃんと生き物なんです」

「加藤は?」

「だから、先輩に股を開かれる妄想で悶々としてますよ」

「あそ」


 まぁ咄嗟に出る例え話ではない。

 実際に加藤がやっている妄想なのだろう。

 思想の自由だった。

 俺は近くの買い物かごをとってきてやって、二つのタンクトップを入れてやる。

 荷物持ちだ。


「どうも。先輩って、気が利きますよね。惚れ直しますよ?」

「宣言してから惚れ直すことあるのか? まぁいいけど」


 かごを持って、加藤に聞く。


「気が利くって、こんなの普通じゃないのか? 買い物してる人間がいたらかご持ってやるだろ」

「それは私だからやってくれてるんですか? それとも他の女でも同じことやるんですか?」

「まぁ、他の女でもやるだろ」

「奴隷は寂しがってますよ?」

「奴隷なら言うこと聞くものなんじゃないのか?」

「それはそうですね」


 言って、加藤はそのままアクセサリーのコーナーまで移動した。


「アクセ? 買うのか?」

「はい」

「へぇ。さっき、ダイヤモンドには余計な装飾はいらないって言ってなかったか?」

「場合によるんですよ」


 加藤は手を伸ばして、その中の一つを手に取った。


「……チョーカー?」

「はい。疑似的な首輪ですね」

「あぁ、そういう」


 場合によるって、そういう意味か。


「これなら奴隷らしさを強調しながらオシャレにもなりますから」

「なるほどな」

「首絞めにも使えますし」

「首絞めはあんま好きじゃないが」


 首輪はともかく、首絞めは好きくなかった。

 苦しそうだし。


「そうですか。ではこれをしたまま全裸で腰振りダンスでもしましょうか?」

「なんで首絞めができないことの対価がそれなんだよ」

「私が先輩の奴隷だと認識させてくれればなんでもいいんですよ」

「首輪で十分な気がするが……」


 十分、普通とは離れたアイテムだろう。

 首輪じゃなくてチョーカーでも。


「というか何もしなくてもいいと思うけどな」


 俺は本音を加藤に言う。


「ほら、立派に実った果実を見てるだけで気分はいいし」

「『着衣巨乳』ですね。それも最強のタグです」


 また乳談義に戻ったようだった。


「胸を隠す服。内側から押されてボタンの弾けそうなブラウス」

「なんであんなにエロいだろうな。なんだったら全裸よりもいいだろ」

「巨乳って結構、垂れてたりしますからね。爆乳ならなおさら、垂れてる可能性は高いです。だからブラで形を整えて盛り上げてあげれば、ちょうどいい感じになるんじゃないですか?」

「でもそれならブラ付けてる状態と着衣巨乳が同じくらいの興奮度合いになるはずだろ。でも、着衣巨乳の方がエロいだろ」

「服がある分、より立体的に見えるからじゃないですか? 避妊具を付けた棒と普通の状態の棒で、輪郭の違いが出るみたいな」

「酷い例えだな」

「でも分かりやすい例えです」

「処女なのに?」

「イラストなら見放題ですよ?」


 二次元は強かった。


「で。チョーカー、三百円。買いましょうか」

「やっす。いや高いのか? 中古ってのを考慮しても、安いのか高いのか分からないな」

「結構きれいなので、安い方だと思いますよ。買ったことないのであれですけど、新品だとそこそこいい値段するはずです」

「これ、誰かが使ってたやつなんだよな」

「当たり前でしょう。古着屋ですよ?」

「加藤は抵抗とかないのか?」

「まぁ、チョーカーくらいなら。見た感じ汚れもないですし」

「ふぅん。ならどのラインからダメなんだ?」

「そうですね……これとか」


 言って、加藤は他のアクセを指差した。

 ピアスだった。


「もちろん将来的には先輩に私の大事なところを開けてもらう予定ですけど、これはさすがにやりたいとは思いませんね」

「ピアスなぁ。なんというか、つける意味がないよな。こういうの、オシャレでも付けたいとは思わない。というかオシャレに思う感覚が分からない」

「そうですね。もともとない穴が必要ですしね」

「まるでもとからある穴なら開けてもいいみたいな言い方だな」

「先輩ならいいですよ? どうせ子供産むってなったら開くんですから」

「子供産みたいのか?」

「先輩のなら、いくらでも」


 奴隷、ここに極まっていた。

 奴隷じゃなくとも、加藤って俺のこと好きだったから、子供は産みたいと思ってるんだろうが。 


「チョーカーは買いましょう。ピアスはいりません」

「そうだな。それがいい」

「でも先輩、私、指輪はハメてあげてもいいですよ?」

「なんでカタカナなんだよ」

「なんとなくです」

「奴隷に指輪って必要か?」

「あげたら喜ぶと思いますよ? たとえ奴隷だとしても、女としての悦びは感じるでしょうし」

「本当か?」

「はい。先輩の奴隷になれて嬉しいです」


 本当に感じてた。

 この分だと、チョーカーは常用のものになりそうだった。


「でも中古だしな、これ」

「先輩、別に中古だからって、私達みたいな使い方してたとは限りませんよ? 普通に女の子がオシャレで付けてたかもしれません。そこに男の影はなかったかもしれません」

「それならいいのかね」

「いいんですよ。結局大事なのは、私にこれを付けさせて先輩が外を歩けるってことですから。主従を周りに見せてやりましょう」

「いや見せるのはいいけど、主従であることは秘密の方がいいだろ。いろいろ面倒そうだし」

「そうですね。なら二人の時だけは呼び方を変えたりしますか?」

「たとえば?」

「私は『ご主人様』って呼ぶので、先輩は『メス豚』って呼んでください」

「典型的な主従だな」

 

 二次元の中だけかもしれないが。


「いや、咄嗟に日常で出そうだから、俺はやめとく。わざわざ切り替えるのもおっくうだし」

「では私はどうしましょうか」

「好きにすれば」

「では『先輩』のままで」

「それでいいのか?」

「分かりやすくて、主従も暗に示せて、いつ使っても違和感がないですから」

「『先輩』って、主従関係の意味合いあったか?」

「でも年下なのは確定するじゃないですか。私が先輩のことを呼ぶたびに、私の方が下ってことを実感できるんです」

「それがいいのか?」

「奴隷としてはこれほど嬉しいこともないでしょう」

「不思議な感覚だな」


 好きな相手ならこんなもんなのか? 女って。

 分からない感覚だった。


「じゃ、チョーカーと……あと、他の服も見ましょう」

「はいはい……次は何を見るんだ?」

「次はですね……」


 狭いハンガーラックの列を向かい合うようにすれ違う。

 と、巨峰が押し当てられた。

 わざとやっているようだった。


「奴隷にしては大胆だな?」

「お仕置きしますか?」

「期待してる言い方だろそれ」

「期待しますよそりゃ。尻とか叩いてほしいです」

「大分、クールとかダウナーとか、キャラ崩れてきてるな……まぁ、またの機会な」

「そうですね。またの機会ですね」


 言って、加藤はTシャツのコーナーに歩を進めた。

 買い物は続く。

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