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異世界転生は突然に

「・・・・・・・・っ!・・・・・・・・いっ!」


 どこかで誰かの声がする。

 あの後、俺はどうなったんだ?

 確か轢き逃げに遭って、意識が朦朧として、それから・・・・


「おい君!大丈夫か!しっかりするんだ、おい!」

「んん・・・うぅん?」


 目を覚ますとそこには、雲一つない青空の下に、金髪で青い瞳をした男性が立っていた。


「良かった、気が付いたか。こんな所に倒れていたから心配したぞ」


 俺なぜ生きてるんだ?というかここはどこだ?


 俺は起き上がると周囲を見回した。

 そこには、あたり一面に黄金色の小麦畑が広がっており、遠くには大きな山が見え、近くには川が流れている、まるで西洋の田舎のような長閑な風景が広がっていた。


 電柱や街頭は一本もなく、空を見上げても、鳥らしき生き物が飛んではいるが、飛行機が飛んでいる様子は見られない。それどころかこの広い畑には農業用の機械が一つも置いていない。


 どうなってんだここは、明らかに日本じゃない別の国っぽいのは確かなんだが・・・


 そう考えてふと足元を見ると、俺は思わず声を上げて驚いた。


「なっ、なんだこの格好!?」


 自分の服装が、朝に家を出た時と変わっていることに気が付いたのだ。

 皮のブーツに紺色のズボンを履き、白い長袖の服の上に赤茶色のマントを羽織っている。

 まるで中世ヨーロッパの旅人のような格好だった。


「どうしたんだ、いったい?目を覚ましたと思ったら、いきなり大声をあげて」


 男性は若干困惑した声で俺に話しかけてきた。

 ハッと我に返った俺は急いで男性のほうを向いた。

 この人も日本人ではなさそうだが・・・

 あれ?ちょっと待てよ、今まで気が付かなかったけど、なんでこの人日本語で話してるんだ?

 明らかに外国の人っぽいのに、まさかここはやっぱり日本なのか?

 何はともあれまずは話を聞いてみよう。


「あの、ちょっとお聞きしたいんですが、ここはいったいどこなんですか?」

「え?どこって、ここはイーラオス王国のアベルの街の外れにある穀倉地帯だよ」


 イーラオス王国?アベルの街?

 聞いたことのない地名だぞ。


「それより君は、こんなところで何やってたんだ?こんな場所で堂々と寝て、モンスターに襲われでもしたらどうするんだ」


 え?ちょっと待って。

 この人今モンスターって言った?


「モンスターが出るんですか?この辺」

「当たり前だろう。この辺りは人を襲うモンスターがたくさん生息してるんだ。そんなことも知らずに野宿でもしてたのか?」


 いったい何がどうなってんだ、ますます状況が理解できなくなってきた。

 いったい俺は今・・・ん?

 待てよ・・・


 この時、俺の頭にあることがよぎった。


 今までの状況を整理すると、俺は轢き逃げに遭い死亡した。

 そして目覚めると、文明からかけ離れたような田舎情緒あふれる場所で倒れており、なおかつ服も変わっている。

 そして、イーラオス王国という聞いたことのない国名に、モンスターの存在。

 これらの状況を踏まえると、ある物に結び付く。

 そう、昨今の漫画やライトノベルではお決まりの、あの展開に。


 もしかして俺、異世界転生しちゃった!?

 信じられないけれどそうとしか考えられない。

 だって俺は一度死んでいるはずなのだ、なのに何でこんなところでこんな格好でピンピンしてるんだ?

 いや、そもそも俺はどうやってこの世界に来たんだ?

 普通異世界転生と言えば、死んだ後に神様らしき存在が現れて「あなたの死は間違いだったんです、だからお詫びとして転生させてあげましょう。」みたいな感じで異世界に送られるんじゃ?

 思い出してみてもそんなこと一つもなかったぞ!


 いや、今はそんな事はどうでもいい。

 異世界だぞ、子供の頃から何度も夢見て、憧れ続けてきたあの世界に俺は今立っている。


 自分だけの特殊能力を手にして、仲間と共に冒険し、そして最後は魔王を倒して世界の英雄になれる、そんな人生を送れる世界に俺は生まれ変わったんだ!


 もう人生のどん底の負け組でも、失敗者でもない!

 大逆転だ!

 俺は、物語の主人公のような人生を手に入れたんだー!!


「お、おい・・・どうしたんだ?また急に黙り込んで・・・」

「なあ!モンスターがいるってことは、魔王もいるってことなのか?」

「は?ええ?」


 俺は目を輝かせながら問いかけた。

 余りにも突拍子もない質問に男性は終始困惑していたが、嬉しさのあまり今の俺にはそれを気にする、暇など無かったのである。


「えっと・・・何なんだ?その、魔王ってのは・・・」

「決まってるだろ!邪悪な力を使って、人々を苦しめてる魔族達の王だよ。奴らがモンスターに命令して、人を襲わせてるんだろ!」


 それを聞いた途端、男性は呆れたような表情で答え始めた。


「何言ってるんだ、君?その魔王とやらが何なのかはよく分からんが・・・悪いけど、そんなもの居ないよ」


 こいつはいったい何を言ってるんだという表情で男性は淡々と語り始めた。


「え?だって今、モンスターに襲われるって・・・」

「確かにモンスター達は人を襲うが、それは本能や習性によるものだ、奴らに命令できる存在なんてこの世にいない。それに、魔族達は人に危害を加えたりなんかしない。俺たち人間は、彼らと長きに渡って、共存共栄の関係を築いているんだ。どこでそんな話を聞いたのかは知らないが、さっきの発言は、両種族の関係を揺るがし兼ねない問題発言だぞ」


 なんてこった、そういう世界だったか・・・

 やっちまった・・・

 俺は数十秒前の己の発言を後悔した。

 嬉しさのあまりについ舞い上がって、すっげー馬鹿なことを口走ってしまったようだ。


 俺の転生したこの世界は、人魔共栄が成った平和な世界。

 さっきの俺の言ったことは完全に差別発言だ。

 てか、そういう可能性も十分考慮できただろ。

 嬉々として話してたぶん余計恥ずかしい。

 最悪だ、初対面の人相手に早々すっげー失態やらかしちまった。


「そんなことより君、どこから来たんだい?」

「え?」

「生まれは?家族とかはいないのかい?」

「ああ、ええっと・・・俺はに・・・」


 日本から来たと言いかけたが、踏み止まった。

 よく考えれば、ここは異世界だ。

 日本なんて名前の国はきっとある筈が無いだろうし、言ったところで信じてもらえないだろう。


 参ったな・・・ただでさえさっきの失態でおかしな奴だと思われているのに、ここでまた更に頭のおかしい奴だと思われるのは流石にまずいぞ・・・

 現時点でこの世界の情報を聞き出せるのはこの人しかいない。

 何とかして誤魔化す方法を・・・


「なあ、出身はどこなんだ?」

「出身・・・出身は・・・」


 どうする?

 遠い辺境の国から来た旅人とでも言うか?

 でも、国名を聞かれたら嘘だとばれる。

 俺この世界の事何にも知らないし。

 考えろ、考えろ、この危機的状況を打破する為に、どう答えるべきか。

 考えろ・・・考えろ・・・


「何だ?まさか、分からないとかいうんじゃないだろうな?」


 男性のこの言葉で、俺はあることを思いついた。


「うん・・・」

「えっ?」

「分からない・・・」


 俺は小さく頷きながらそう答えた。

 嘘を吐くのは嫌だが、今はこう答える他ない。


「いやいや、さっきのは冗談だって・・・まさか本当に何も分からないのか?」


 焦りながら聞く男性に対して俺は、また小さく頷く。


「生まれた国は?街の名前は?どうやってここまで来たんだ?」

「分からない・・・何も覚えてない、思い出せない・・・」

「そ、そんなバカな」


 その後も、矢のように飛び交う質問に俺は、淡々と「分からない」、「思い出せない」の二言ですべて返した。


「なんてこった。何も覚えてないなんてそんなこと・・・まさか、記憶喪失?」


 良し。

 どうやら、上手い具合に勘違いしてくれたそうだ。


「さっきの常識を知らない発言と言い、おかしな振る舞いと言い、記憶を失っているのなら説明がつくな。と言うかそうとしか考えられん」


 なんか色々と聞き捨てならないことを言われているが、今は黙っているほうが都合がよさそうだ。

 俺がそんなことを考えている間に、男性はまたある質問をした。


「覚えていないかもしれないが君、名前は?」


 名前を聞かれた。

 一瞬戸惑いはしたが、名前なんて知られても別に問題はないだろうし、今度は正直に話すことにした。


「裕斗、桜花裕斗だ」

「サクラバナ・・・ユウト?」


 案の定、男性はキョトンとした顔をしていた。


「それはユウトが名なのか?それともサクラバナが名なのか?」

「えっと、ユウトの方が名だよ」

「なるほど変わった名前だな。そうだ君、ちょっとステータスを見せてくれないか」

「ステータス?」

「なんだ、それも忘れてるのか。これだよ」


 男性が手をかざすと、突然目の前に丸い画面のような物が現れた。


「いったい、どうやって出したんだこれ?」

「ん?頭の中で、ステータスウィンドウを開くって念じれば出せるぞ」


 驚きながら聞く俺に対し、男性は落ち着いた口調で答えた。

 意外とシンプルな方法なんだな。

 言われた通りに頭の中で念じると、俺の目の前にも丸い画面があらわれ、そこには見たこともない文字がズラリと並んでいた。

 恐らくこの世界の文字だろう。


「よし、じゃあちょっと見せてくれ。えっと、どれだ?」


 男性は俺のステータスウィンドウを確認し始めた。


「あった!えっと名前は・・・サクラバナ・ユウトで間違いないようだな」


 どうやら俺の名前が本名か知りたかったらしい。

 まあ前世でも、桜花って名字で結構珍名だったし、今更こんな反応されて驚きはしなかった。

 それに、異世界転生した人間の名前が変わった名前って認識されるのは、よくある話だからな。


「しっかし変わった名前だな、名前の前に苗字が来るとは」


 ああ、気になった点はそこか。

 まあこれも、お決まりの展開だな。


「誕生日は12月13日。歳は16歳か、若いな」


 どうやらこのステータスウィンドウ、名前の他に年齢や生年月日なども書かれているようだ。


 ん?ちょっと待て、16歳?

 確か俺の年齢は現在22歳、今年で23歳の筈なのに?

 まさか俺、転生したことで若返ったとか?


「なあちょっと、鏡持ってないか?」


 慌てて俺は男性に聞いた。

 服が変わって、年齢が若くなっている以上、自分の見た目がどうなっているのか気が気でなかったからだ。


「鏡?いや持ってないけど、鏡が見たいんなら、あそこで確認してくればいいんじゃないか?」


 男性が指さす方向には川があった。

 急いで俺は川のほうへと走っていき、すかさず水面を覗き込んだ。

 見た感じだと、服以外は見た目はそこまで変わっていないらしい。

 黒い髪に、茶色い瞳、間違いない俺の顔だ。

 俺の顔なのだが、なんだろうすごく違和感を感じる。

 何と言うかそう、凄くその、若い!?

 中学の頃の卒業アルバムの自分の顔と、全く同じ顔になっている。

 どうなってるんだこれ、まさか転生した事で、見た目も年齢も若返ったとか?


「おーいどうした、なにかあったか?」

「いやー、何でもない何でもない」


 ダメだ、イチイチ驚いていたらキリがない。

 とりあえずもう考えないでおこう、俺はそう考え、男性の元へと戻った。

 ある程度ステータスウィンドウを見ると、男性はそれを閉じて俺に話しかけてきた。


「よし、とりあえず君のことは大体わかった。サクラバナ・ユウト君」

「ユウトでいいよ」


 俺は男性にそう答えた。

 フルネームでイチイチ呼ばれるのはなんか変だし、相手も面倒くさいだろうし。


「分かった。じゃあユウト、一応聞いておくが、本当に君は自分の名前以外は何も覚えていないんだな?」

「ああ、何も覚えてない。ここにどうやってきたかも全然分からないんだ」


 俺は記憶喪失という設定に乗っかることにした。

 別にすべて嘘ではないし、本当のことを言っても信じてもらえるような話じゃないし。


「そうか、だとしたら困ったな。はてさてどうしたものか・・・」


 男性は深刻そうな面持ちで考え込んでしまった。

 まさか嘘でこんなに真摯になってくれるとは、さすがに思ってもみなかった。

 俺はほんの少しだが悪いことをしたなと心の中で思った。

 そして、しばらく沈黙が続いた後、男性はまた口を開いた。


「君、とりあえず家に来ないか?」


 男性は唐突に俺にそう提案してきた。


「うぇ!?いや、えっと、どうして急に?」


 困惑する俺に、男性は淡々と話を続ける。


「いやだって、君記憶喪失なんだろ。そんな状況の人間を放っておくことなんてできないよ」


 なんて親切な人なんだ。

 まさか咄嗟に吐いた嘘で、ここまで発展するなんて。

 どうしよう、なんか急に罪悪感が湧いてきた。

 ありがたい提案だが、流石に素直に受け入れるのは気が引けるな。


「嬉しいけど・・・でも、良いのか?そのー、迷惑とかにならないのかな・・・」

「なーに、遠慮はいらないさ。俺一人で暮らしてるから、人が一人増えたくらいどうってことないよ。むしろ同居人ができたみたいで、嬉しい限りさ」


 うわー、なんて善い人!!

 こんな人を騙してる自分がだんだん恥ずかしく思えてきた。

 いや違う、今はそう言う事を言ってる場合ではない、冷静になれ。


 俺はそんな自問自答の末、一呼吸置き、落ち着いて考え始めた。

 確かに今、俺はこの世界のことを何も知らない。

 記憶喪失で無いにしても、未知の地でいきなりサバイバルするのは危険だ。

 この人の話だと、人を襲うモンスターも居るらしいし。

 だったら寧ろ、この世界の住人の元で、暫く世話になるのも一つの手だろう。

 その間、ある程度の情報を集めておければ、今後この世界で自分が何をすれば良いのか、おのずと見えてくるに違いない。

 それに、この人はとても善い人そうだし信用しても良いだろう


 数分間悩んだ末、俺はようやく答えを出した。


「分かった。どうせ行く所もないし、お言葉に甘えさせて頂くよ」


 男性はそれを聞くとニッコリと微笑みながら、「決まりだな」と嬉しそうに返した。


「おっと、そうだ自己紹介がまだだったな。俺の名前はアルム・クレインベントだ。気軽にアルムって呼んでくれ」

「ああ、これから暫く厄介になるけど、よろしくなアルム」


 こうして俺は、アルムの家に転がり込むこととなった。


 ここから俺の第二の人生が幕を開ける。

 果たしてこの異世界で、俺にどんな運命が待ち受けているのか・・・

 なんて期待を胸に膨らませつつ、俺はアルムの家へと案内されるのであった。




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