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11 気遣い



 急ピッチで準備を進めたわりには、ダコタとアルバートのペアは期待以上の成果を発揮出来そうだった。


 認めたくないけれど、アルバートのリードが良い。

 あまり踊り慣れていないダコタをさり気なく補助してくれるので「間違えてはいけない」というプレッシャーに押し潰されることなく、楽しく音楽に合わせることが出来る。


 エディと組んでいたときは、ダンスというよりも互いの足を踏むゲームをしているようで、お互いが常に謝り合いながら練習をしていた。あの時間はもう二度と戻ることはないのだと思うと、やはり寂しい気持ちは込み上げる。


(こんなことなら、もっと足を踏んでおけばよかった…)


 しょうもない後悔を滲ませて目を閉じる。

 時計の針がカチカチと時間を刻む音はやけに大きく聞こえる。眠れない夜に限って思考は冴え渡って、思い出さなくて良い余計なことばかりが頭に浮かぶ。


 エディやルイーズとはあれ以降やはり溝が出来てしまって、上手く話せない。エディは仕方ないにせよ、ルイーズという親しい友人を失った影響は小さくない。


 移動教室や休憩時間の際にダコタは誰を誘えば良いのか分からず、ポツンとしてしまう。


 今までであれば、ルイーズと二人で取るに足らない話をしたり、エディに関する悩みを相談したりしていた。彼女はいったいどんな気持ちでダコタの話を聞いていたのだろう?きっと良い思いではなかったはずだ。



 創立記念祭の日はもう明後日に迫っていた。


 当たり前だけど、アルバートは学校で出会ってもダコタのことを完全無視する。また淫行教師という汚名を被るわけにはいかない、と厳重に警戒しているのだろう。


 彼にとっては何のメリットもないダンスのパートナーとして協力してもらうんだから、それぐらいの失礼はきっと受け入れるべきだ。


 当日は出来るだけ清潔感のある服装を。

 アルバートはそれだけ守ってくれれば十分。




「ヒューストンさんって強いよね」


 帰り支度をするダコタに声を掛けて来たのは、普段あまり話したことのないクラスの女子だった。


 確かどこかの伯爵令嬢だと記憶しているけれど、名前がどうしても思い出せない。というのも、ダコタはほとんどルイーズやエディと過ごしていたから、他の生徒との交流が薄かった。


 仕方がないので、当たり障りのない返事を返すことにした。


「強いってどういう意味?」


「いやぁ、だってさ、恋人だったエディとルイーズが同じ空間に居るわけでしょう?私だったら毎日普通に過ごすことなんて出来ないよ」


「………うん、そうね」


 ダコタだって決して普通ではない。

 傷付いているし、思い出して悲しんだりする。


 だけど実際、ここのところはアルバートとのダンスのことで頭がいっぱいで少し気が紛れていたのはある。当日上手く踊れるかどうかの方が心配で、二人の一挙一動を目で追う余裕はなかった。


「今更だし……仕方ないから」


「腹は立たないの?私だったら二人が会話してるの見るだけで発狂しちゃうわ」


「ルイーズは私の友達だし、エディは魅了がなかったら私のことなんて好きにならなかったもの。あれはきっと恋なんかじゃなくて、事故みたいなものよ」


「でも、ルイーズってヒューストンさんたちが付き合ってる間も───」


 女子生徒が何かを言い掛けたとき、教室の扉が開いた。


 顔を見せたのはアルバート・シモンズで、私は少しだけ驚く。アルバートは私たちに向かって「もう施錠しますよ」と帰るように注意を促した。女子生徒は慌てて鞄を手に廊下へと駆けて行く。


 同様にダコタも部屋を去ろうとしたところ、入り口に立っていたアルバートに腕を引かれた。



「ヒューストンさん」


「……なんですか、先生?」


「大丈夫でしたか?」


「え?」


「いえ。その……困っているように見えたので」


 そう言って眉を寄せるアルバートを前に、ダコタは驚く。


「助けてくれたんですか?」


「そういうわけでは………」


「先生はダンスのパートナーだけじゃなくって、私のピンチも救ってくれるんですね。でもお気遣いなく!ただお話をしていただけですから」


 ふふっとダコタが笑って見せるとアルバートはもごもごと「それなら良かった」と答えた。そのまま鍵を閉める後ろ姿を見守りながら、不器用なアルバートが示した優しさにダコタはこっそりと感謝する。


 ヨレヨレの白衣も綺麗になったし、あとは無精髭を剃って伸び放題の髪をリボンで縛ってくれれば問題は無さそう。創立記念祭当日のことを想像しながら、ダコタは拳を握り締めた。



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