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いざ、カントリーホームへ6

 カントリーホームに行って姉に相談をする。簡単なことのはずなのに決行したのはアンと相談してから1ヶ月後だった。卓球の練習とテスト勉強と学生生活を優先したためだ。


 6月は肌寒い風もなくなり、日中はとても暖かい。今日はワンピースに手袋、ボンネット帽子という服装である。朝晩は冷え込むけど、日がでれば汗ばむほどだ。私はハンカチで汗を拭った。今日は電車が混んでいて駅がごった返しで、出るだけで一苦労だったのだ。どこかでイベントでもやっているのかもしれない。


 駅から出てロータリー付近に二人で立って車を探した。

「迎え来たかな?」

「見当たりませんね……連絡していたはずなのですけど」アンは首を傾げている。

「何かあったのかなあ」

「日陰で待ちましょう。もう少し待って来なかったら乗せてくれる車を探します」

 頷いた私はアンと一緒に、荷物を持って大きな木の下に出来ていた日陰に移動した。トランクケース大一つ、小一つと少なめである。



「来ないねえ……」

 待つこと20分。待つのも飽きてきた。

「ここで少しお待ちください。行ってまいります」

 アンに頷きつつ、立って待つのも疲れてきたので、トランクケースの上に腰掛けた。電車で読んでいた小説をもう一つのカバンから取り出し、読み始める姿勢になった。アンは駅の方に走っていく。先程の駅周りの人だかりも、少しは捌けたようだが、まだたくさんいそうだ。アンを待つ時間を有効活用するべく読み耽る。すると5ページほど読んだところで私を呼ぶような声が聞こえてきた。





「ーーーーーーザー!」


 ???


 どこからか聞こえる声は、私の名を呼んでるようにも聞こえるし、聞こえないような気もする。顔を表に上げ、周りを見回した私は、遠くから向かってくる人達に愕然とした。姉と少尉である。二人で自転車に乗ってやってきたのだ。


 私の前で止まったは姉は、頬を赤くし肩で息しながら「車はもう少しで来るわ」と話しかけてきた。

「事故があって道路が渋滞してたの」

 自転車を飛ばしてきたらしい。

「え??それを伝えにきたの??」

 少尉に挨拶するのも忘れ、呆気にとられている私は思わず言ってしまった。

「ローザ。こんにちは」

「こ、こんにちは。フレデリック様」軽く膝を折りご挨拶。

 苦笑した少尉は「二人でサイクリングしてたんだけど、途中で渋滞にはまっている車を見つけてね。事情を聞いたらローザ達を迎えに行く途中だと言うから、伝えにきたんだよ」と言った。

「そうなの!」という姉は、二人で顔を見合わせて仲睦まじそうである。


 ははあ……なるほど。渋滞か……ならば来るのが遅いのも頷ける。アン、車を探しに行っちゃったな。来ない理由もわかったし、呼びに行かなきゃいけない。

 二人に事情を説明し、荷物を見ててもらおうとした。そしたら「それなら私が行くよ」と少尉が言ってくれたので、アンの特徴を伝え、自転車を預かることになった。

 少尉が駅に向かうと「今日は姉さんしかいないと思ってたよ」と姉に言ったら「昨日諸用で自宅に戻られたのですって。今日行かれるらしいけど、その前に寄ってくださったの」と嬉しそうに話された。


 母の心配はなんのその、姉の婚約は大成功しそうだ。

 


 ✩✩✩

 


 渋滞から解放された車にアンと一緒に乗り込み、二人と別れた後、自宅に直行した。持ってきた荷物を自室で片付けた後、いつもの読書をするための定位置に本と共にドアを開けて乗り込んだ。時刻は昼前である。


 あれ?少尉いるじゃん……


 昼食前に続きでも読むかとやってきたのに、先客がいた。しかも一人である。姉がいない。ドアを開けたのに、ここで自室に戻るのはまずいかと思ったが躊躇した。だが、変に意識するのもどうかと思い、挨拶しつつ、そそくさとお気に入りの長椅子に向かった。


「先ほどはありがとうございました。助かりました」

 目線が合い、微笑した少尉は肩を竦め「礼はいらないよ。たまたまだしね」と言った。


「姉さんは?」と聞くと「着替えに行った」と言われたので、挨拶を打ち切り長椅子に座り本を読み始めた。

 読み始めて間もなく「名探偵?」と少尉に聞かれた。少尉は暇らしい。一人での読書は姉が帰ってくるまで無理だなと悟った。

「そうです。私、大ファンなんです」

「ローザはよく本を読んでいるね。前のときもそうだった」

「ええ、インドア派なので本ばかり読んでいます」

 ヘラっと笑いつつ、どうしよう、少し気まずさが出てきた。話す話題が見当たらない。年上すぎて何を話したらいいのかわからない。取り留めのない話題をと考えはじめるほど迷宮入りした。

 そんな私の考えと裏腹に、簡単に沈黙を破ったのは少尉の方だった。

「私もね、実は読んでいるんだ。名探偵シリーズ。足跡、遺留物、筆跡、毒物、弾頭、残り香、血痕や死体を観察し、鋭い洞察力で解決する結末には心地よいカタルシスを得られるね。向こうでの休日は部屋にこもることが多いから、読書していることも多いんだよ。最初に本がわかったのも読んだことがあるからなんだ」

 意外だ。読書してるとは思わなかった。勝手にアウトドア派だと思ってた。


「意外です……」

「これでもスクール時代は結構遊んでたんだけど。働きにでると変わるものだね」

 遊んでた……!!え!兄と同じだったの?!

「へぇ……遊び人だったんですね……」


 兄さんもスクール時代、女の人とよく一緒に出かけているのを見かけたなぁ。見た目に惑わされるのか、常に周りは賑やかだった。一度だけ、知らない女の人に物申されたことがあるけれど、兄さんに抗議しに言ったらパタリとなくなったっけ……。

 思わず物思いに耽っていると「ローザ、その言い方には語弊がでてくる」と、少し真面目な顔で言われてしまった。

「あの時はサイクリングが流行ってて、よく友人と出かけたんだよ」

 早合点だったらしい。近くにいる異性が兄のためか、どうしても兄と比べてしまう。うーん。失敗した。

「なるほど。わかりました!」

 少尉は硬派!しかりと覚えました。したり顔で答えると「語弊もなにもすでに誤解してた言いぶりだね……」と言われた。心なしか気落ちしているようにも伺える。

 ありゃ。気を悪くしちゃった?話題を変えねば。


「ええと……、名探偵どこまで読みました?」

「7巻まで読んだよ」気を持ち直し、私の話題に応えてくれた。

「なら、残りをお貸ししましょうか?私、全て持ってるのでお渡しできます」

「ローザはもう読まないの?」

「もう何回も読破してますから。それに各巻3冊ずつ所持してるので、お貸しても問題ないです。自室に自分用の本が置いてありますから」

「各巻3冊……」少尉に少し引かれた。


 フフン。オタク魂侮るなかれ。友人達にも読め読め言ってるし。なんならアンまで読ませた。最初は神妙な顔持ちだったが、今では名探偵の虜だ。私は多くの人たちと感想の言い合いと共感を共にしたいのだ。

 虜が増えるのは嬉しい。ウキウキとした気持ちに包まれ「それでは持ってきましょう」と手持ちの本を長椅子に置き、自室に戻ろうとしたら姉が入ってきた。


「ローザ、ここにいたの。アンが探してたわよ」と、姉から言われ、何かあったかなあ?と首を傾げつつ部屋を後にした。応接室の部屋の中から楽しそうな話し声が聞こえてきた。

 自室に戻ったら、アンがいて今日は暑いので昼食前に着替えましょうと言われ、姿見の前で涼しそうな服に着替えさせてもらった。そして自室から名探偵シリーズの自分用の本8巻以降6冊をアンに渡し、(普及用、保管用はタウンハウス)持っていけるように袋に入れといてとお願いし、昼食を取るため移動した。

 ダイニングに移動したら私が最後だったらしく、父、母、姉、少尉がすでに席についていて、私が着席した後、つつがなく昼食を取った。

 帰る間際、袋に入れた本を渡すと「ありがとう。楽しんで読むよ」と言ってくれた。そして少尉は職場の陸軍基地へと赴いて行った。

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