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我が家の大温室物語3

「父は大の動物好きで、最初はネズミを飼っていたんです。」


 父は無類の動物好きである。ネズミを譲り渡した後、気が抜けたのか暫く誰が見てもわかるぐらい落ち込んでいた。


「だけど諸事情により手放しなくてはならなくなり…落ち込みが激しくて母は違う動物を飼ったら?と父に言ったんです」

 いまでも忘れない。あの瞬間の父の輝かしい瞳!光が射すとはこのことなのかと思った。

「そして次の動物を飼い始めたんです。最近流行りのあれです」

「流行り?犬かい?」

 たしかに今の流行りは犬だ。ドック・ショーの開催には皆が歓喜している。

 

「いいえ、フレデリック様。犬ではありません。南国から取り寄せてきたインコですわ。たまに言葉を真似てくれる子もいるのですよ」

「インコか…」


 あっと少尉は声を出し、私の答えを察したようである。ここに居ないのによくわかるではないかと感心した。そう、ここにまだインコはいないのだ。もしインコが夫妻にとある落し物をしたら大変だと、父が使用人に命じてインコ達はケージにみんな入れてあるのである。


「ここにはまだいないようだけど…」

「クラヴィス伯爵方々に落とし物をしたら一大事ですから今はまだケージにいますわ。ただ父からの話の流れでいつ出てくるかわかりませんし、用心にこしたことはないのです」


 なんせ自慢のインコちゃん達だもんね!鳥バカならぬ鳥親の気持ちになりつつある父が、いつ子ども自慢を始めても不思議はないのだ。微笑を浮かべつつ、フフンと鼻息荒くし腕組みをして堂々と立ち誇った。そしてすぐ破顔してしまった。


「白い贈り物はローザに直撃したのかな?」


 ……ナンデワカルノ?


 私が温室で散歩中、インコの○んこが頭に直撃したことを思い出した。憤慨した私は屋敷にかけ戻り、父に抗議しようとしたら、あいにく部屋には家族全員揃ってて、姉と兄は大爆笑。父はオロオロして母には鳥なんだからしょうがないわよ、と悟られた。体を軽くするために常に糞は出すものなんだからと正論まで投げかけられて。誰も慰めの言葉はかけてもらえなかった。今思い出しても腹ただしい!


 大層面白い顔をしていたのか、少尉はそんな私を見てハハハと笑い出し、


「ローザはコロコロ表情が変わって可愛いね」


 と言った。褒め言葉として受け取りたい。



 ✩✩✩



「というわけで、我が家には鳥がたくさんいるんです。最初はケージの中だけで育てていたんですが、父がインコ達をもっと広い所で羽ばたかせたいと母に懇願してこの大温室ができたんです」

 歩きながらあの木によくインコが止まるとか、あそこは要注意とか(糞の空襲に合うため)、私は思い出す限りインコの特徴やら好物まで話した。少尉はしきりになるほどなるほどと相槌してくれている。


「陛下からお声がかかったのは、流行りの鳥を見たかったらしいです」


 陛下からお声がかかった。これは大変なことである。なんせ陛下は雲の上のような御仁。手紙を受け取ったとき父は失神し、母は黄色い悲鳴を上げ「これからは何羽飼ってもかまわないわー!」という言葉が屋敷内をこだました。姉と兄と私は白い目で両親を見ていたことは言うまでもない。


 一段落話終えたら喉が渇いてきた。そういえばアンまだかな?まだパーティーのほうは忙しいのかしら?


「フレデリック様、会場に戻りませんか?」

「そうだね、そろそろ戻ろうか。楽しい話をありがとう」

 爽やかにさらりと礼をいう少尉に好感を覚えた。


 会場に戻ったら何故か使用人達は慌てだっていて、フットマンを捕まえて何事かと聞いてみた。虫取りに出かけたスビー子爵が転んで肩を痛めたらしい。なんだそんなことかと思ったら、子爵はド派手に転んだらしく顔と服は泥まみれ。肩は脱臼したらしく、庭でのたうちまわったらしい。夫人は悲鳴を上げ、帰ることが決定。今は帰りの準備らしい。だから慌てているのか。納得。少尉は話を聞くないなやフットマンに案内を頼んで走り去って行った。もちろん、走り去る前に私に軽く会釈をしてからである。


 走り去る後ろ姿を見ながらふと思い出した。ねえフレデリック様。オセニアの内戦警戒のために陸軍基地に行かれるとは本当ですか?



 ✩✩✩



「昆虫学者というのは外に出ることがないの?」

 夕食を食べ終え、家族で食後の飲み物を飲んで一息ついたときに姉は言った。


 兄は紅茶を飲みながら「打ち所が悪かったんだよ。しょうがない」と言った。

「だってさぁ…」

 姉は何か言いたさそうにしている。手は紅茶のカップに添えて、視線はカップに向けていた。

「俺は有意義の時間をもらえてよかったよ。さすが外交官だよな!話が面白い。とりあえず今年の夏は外国に行くわ」

「あら、外国なんて危ない」と、母。

「最近はそうでもないよ。電車で行くわけだし。諸国を遍歴するのも悪くない」

「えー」

 母は眉間に視線を寄せながら兄を心配し始めた。「俺もう18超えてるんだけど…」と、軽い嘆息をしたのち兄は父と母に向かって言った。

「俺とローザは明日1番でタウンハウスに帰るよ。3人はまだここにいるんだろ?」

「そうね。まだいるわ」

「ピーちゃんインコの世話をしないといかんしな。最近卵が返ったばかりなんだ。名前は何にしよう…」

 ブツブツと父が一人で考え込み始めてきた。そうだ。明日はスクールの日だっだ。休日はなんで時間が経つのが早いのだろう。そんな考えに思いをふけていたら、ドアから家令が入ってきて父のところにメモを渡した。

 ほうっと父は感嘆し、「スビー子爵、病院で肩を見てもらったらしいが大事ないらしいぞ」とみんなの方を向いて言った。

「本当?それはよかったわ」

 父と母は二人で顔を見合わせながら安堵している。その安堵した雰囲気に苛立ちを覚えたのか、姉は「あのくらいじゃ大丈夫でしょうよ」と、膨れつらしていた。


「なんだ、大事ないのが一番じゃないか。スビー子爵が怪我したのもパーティーの中盤過ぎだったぞ。フレデリック君とも話せれたのだろう?」

 父はワインを飲みながら言った。そしてワインがなくなったらしく、家令にもっとちょうだいって合図し始めた。


「それは少しは話したけれど……母さん達が…」


 姉はカップから視線を上げ母をキッと睨みつけた。

「普通、こういう場は後はお若い二人でとか言って気をつかうものじゃなくて?」

 鬼気迫る姉は母に物申す。


「それがね〜最近はすぐに二人きりにしないのが定番なのよ」

「定番って何よ」

「友達から聞いた話よ〜。とある良家の男女の顔合わせがあったらしいの。女性は男性が気に入り、男性もまんざらではない様子だったらしいわ。でも途中から男性がソワソワしてきてね。なんでも働いているメイドの中に、昔付き合っていた人がいたらしいのよ!そこからがもう大変で、焼けぼっくいに火がついちゃったの。ミルミーちゃんはメイドに男性が取られてプライドズタズタで大泣きしちゃうし。もう、た〜いへんだって。あ、名前言っちゃった」


 母は友人の話を思い出したのか、今にもホホホと優雅に笑い出しそうである。


「もしフレデリック君に火がつきそうになったら消火しようと近くでスタンバイしていたんだけどね。彼はハロルドと違って、いたって真面目な人間だったわ…」

 母は遠くの方を眺めながら言った。


「ミルミーが最近夜会で会わない理由が今判明したわ。そしてハロルド、母さんからさりげなくディスられているわよ。何か言ってやりなさい」

「俺はなにも聞かなかった事にしている」

「つまるところ、どこぞやのメイドと駆け落ちした男性のせいで、私はフレデリック様と二人きりになれなかったのよ!」


 姉の体の周りに黒い火がついたように見えた。なんて禍々しい!母はわたしの選択に間違いはなかったと開きなおってきた。


 こりゃだめだ。母がこうなったら私達がどんな正論ぶつけても聞きやしない。終いにはワタシハワルクナイ!って言い出し、逆ギレしてくるのが目に見えてる。

 ここは巻き込まれる前に自室に戻るべきだなと判断した私はグイッと紅茶を飲みほした。母と姉は「だいたいさー」と言い出し、今日の出来事について話している。兄も私と同じ考えなのか、静かに扉から出て行っていた。素早いな。席から立ち上がりソロソロと音を立てないようにして扉に向かった。


「---で、途中からいなくなっちゃったのよ」

「あらら」

 姉と母の会話が聞こえた。嫌な予感がした。


「ねえ、ローザ?貴方もいなかったわよね?」


 ここから抜け出すことは許さない。鬼気迫る姉の言葉には力がこもっていた。かくして私は会場から抜け出し、本を読んでいるところを少尉に発見され温室を案内したことを話した。母には招いているのに抜け出すとは何事かと説教され、姉にはなんのためのパーティーだったのか嫌味たらしく説明された。アンの予想は正しい事が証明されたのであった。

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