*素敵な王子様*
あけましておめでとうございます!
今年もどうぞよろしくお願い致します(*^^*)
『9がつ12にち はれ
きょうは おねいしゃまと おおきゅうにいきました』
「あれ?グエンなに書いてるの?」
「あっ!みちゃダメー!」
ある日のブルーム侯爵家。
夕食の後、グエンの部屋を訪ねると、グエンが一生懸命机に向かってなにかを書いているのが見えた。
ひょっこりうしろから覗いてみたのだが、気付いたグエンにその小さな両手で隠されてしまった。
「うーん、日記、かな?」
「もぉ!みちゃダメっていったのに!!」
ごめんごめんと謝りながらグエンの頭を撫でる。
少し見えてしまった日記は、ところどころ字の間違いはあるものの、年齢を考えたら上出来である。
「日記を書くのって、字の勉学にもなるし、頭も良くなるのよ。すごいわね、グエン」
「うん!このまえおねぇしゃまがいってたから、かいてみてるの」
そういえばそんな話をしたことがあったっけ。
私の話を覚えていて、しかもそれをやってみよう!と思ってくれるなんて……。
「グエンは本当にかわいいわね……」
撫でるだけでは満足できず、ぎゅっと抱き締めてしまった。
うちの推し、相変わらず最高にかわいい。
「おねぇしゃま、くるしいよぅ!」
きゃははと笑いながらグエンが声を上げる。
「あら、ごめんね。ふふ、グエンがあまりにかわいいから、つい」
「もぉ!かわいいじゃなくて、“かっこいい”がいいっていってるのに!」
今度はぷりぷりと怒ってしまった。
五歳になったグエンは、度々こうした成長を感じる発言をする。
“かわいい”よりも、“かっこいい”って言われたい!って、このくらい年齢になると思うものよね。
「ごめんなさい。一生懸命お勉強を頑張ろうとするグエン、とってもかっこいいわ。素敵よ」
言い直して褒めれば、ぱあっと表情を明るくさせた。
「ほんと!?ぼく、かっこいい!?」
きらきらとした目で私を見上げてくる。
くるくると表情が変わって、本当にかわいい。
うんうんと頷くと、グエンは満足そうに微笑んだ。
「ぼくね、くらうすさまみたいな、おうじさまになりたいの!」
「え?」
「きょうも、あいりすさまといっしょにいたでしょ?くらうすさまみたいになりたいの!」
突然のグエンの発言に、私は目を丸くする。
「きょうね、おうきゅうで、おはなししたんだ!」
よくよくグエンの話を聞けば、今日私と一緒に王宮を訪れた際に、クラウス殿下と少しだけふたりで話をしたのだという。
なんとグエンは、私と仲が良い(ようにグエンには見えているらしい)けれど、クラウス殿下は私の王子様なの?と本人に聞いたらしいのだ。
なんてことを本人に聞くのか……!!とくらりと目眩がした。
「『う〜ん、それはどうかな』ってわらってたよ」
たぶん殿下も直球すぎる問いに苦笑いしたのだろう。
あの殿下は腹黒だからか、真正面から攻められるとたじろぐ傾向にある。
けれどそれは私も同じだ、現に今私も、そうなんだ〜って苦笑いすることしかできていない。
「そのあとね、いってたの。―――――――って!」
グエンの言葉に、目を見開く。
「だからぼくもね、おうじさまになれるよう、がんばるんだ!あ、くらうすさまがダメだったら、ぼくがおねぇしゃまのおうじさまになるからね!ちゃんとやくそくおぼえてるから!あんしんして!」
ふんす!と得意げなグエンがかわいくて。
その言葉が嬉しくて、心が温かくなって。
私は破顔してもう一度グエンを抱き締めた。
そうだったね、あの時、前世の記憶が戻ったばかりの頃に、言ってくれたね。
『おねぇしゃまは、“すてきなおひめさま”だよ?もし、おうじさまにあえなかったら、そのときは……ぼくが、おねぇしゃまの、おうじさまに、なってあげる、から……ね……』
眠そうにしながら、ベッドの中で、必死に瞼を持ち上げてそう言ってくれた。
「こんな素敵な王子様、見たことないわ!ありがとう、グエン!」
「ええ?まだだよ!くらうすさまみたいになるんだから!ぼく、もっとかっこよくなるんだからね!」
そうだね、これからもっともっと素敵に成長するよね。
「そうね、素敵な王子様になったグエン、楽しみにしてるわね」
私だけじゃない、お父様も、お義母様も。
これからのあなたの成長を、願ってる。
「とは言ってみたものの……」
ベッドに入ったグエンにおやすみなさいを言って自室に戻ってきた私は、扉を閉めてぽつりと零す。
クラウス様みたいになりたい!とグエンは言っていたが、それはそれでちょっと……と思わなくもない。
本人には口が滑っても言えないが、あの人腹黒よ?とか、相当女性の扱いに慣れてそうよね?とか、純粋なグエンに勧められない要素がいくらかあるもの。
「でも、グエンに言ってたことは、正直グッときちゃったかも……」
先程のグエンの言葉を思い出し、頬が熱くなる。
『私はまだ君の姉上の王子様になれていないけれど、いつかそうなりたいなと思っているよ。だからね、そうなれるように、今頑張っているところなんだ。君の姉上はとても素敵なお姫様だからね。その隣に並べるように、私も努力しないとね』
そう言ってクラウス殿下はグエンの頭を撫でたらしい。
そんな殿下をかっこいい!と言うグエンの気持ちは、分からなくもない。
「まいったな……。嬉しいって思っちゃってるもん」
扉の前で、私は顔を真っ赤に染めてずりずりと蹲ってしまうのだった。
* * *
その頃、グエンはベッドの中で昼間のクラウスの言葉を思い出していた。
『君もいつか出会う素敵なお姫様のために、今から努力すると良いよ。大切な人の隣に立って、その人を守れるように。もちろん自分のためにも努力しないといけないけれどね』
「ぼくも、がんばろう」
いつか、自分も。
「でも、くらうすさまがダメだったら、僕がおねぇしゃまのおうじさまになるんだからね!」
強くて優しい姉が、誰よりも幸せになれるように。
そう決心して、グエンは静かに眠りにつくのであった――――。




