孤児院での決意5
すみません、短めです。
* * *
「――――すごい」
「そうですね、さすがディアナ様とクラウス様です」
孤児院内に避難していたアイリスは、ディアナやクラウスの戦いを窓から見つめていた。
怖いだろうからと、外の様子を見なくて済むように院長が奥の方へと声をかけたのだが、アイリスはそれを断わった。
『私達のために戦ってくれているふたりを、ちゃんと見ていたいの』
涙目ながらに強くあろうとするその姿に大人達は心を打たれ、他の子どもも自分達もと声を上げた。
そうして皆は、ユリアやミラが守る中でカーテンの隙間から外のふたりを見守っていた。
次々と広範囲の攻撃魔法を繰り出し、クラウスの援護も行うディアナ。
剣と魔法を巧みに操り、ディアナを守りながら魔物を屠っていくクラウス。
互いを気遣いながら街に被害のないようにと戦うふたりの姿は、アイリスや子ども達の目には眩しく映った。
「あ……!危ない、ディアナ!」
『ディアナ嬢!』
背後からディアナを狙う魔物を、クラウスが気付き斬りつけた。
「良かった……」
ほっとするアイリスの手を、ユリアがぎゅっと握る。
「危なかったですね……。でももう大丈夫。ほら、見て下さい!」
ユリアが指差した方を見ると、そこにはヨハネスを先頭とした、第二騎士団の姿が。
ものすごいスピードで騎士達がディアナとクラウスの元へと馬を走らせて来る。
『さあ、やっておしまいなさい!ここで市民達を守れなかったら、騎士の名折れよ!』
勢いをつけるディアナの叫びに、騎士達が応える。
「すごい、かっこいい……」
思わず零れたアイリスの呟きに、ユリアが笑う。
「はい、本当にディアナ様はかっこいいです!王子様の助けを待つだけのお姫様じゃない、ああやって肩を並べて助け合える関係って、とっても素敵ですよね」
ユリアの言葉に、周りにいた少女達からも同意の声が上がる。
「でぃあなさま、つよくてかっこいい!」
「うん!きれいなのに、すごくつよい!」
言葉で騎士達を奮起させ、なおかつ魔法でも援護し戦いを優位なものにしている。
クラウスもヨハネスも、もちろん猛者達が揃う騎士達も強い。
しかしこうして全体を見ていると、誰がこの戦場の最重要人物であるかは、明白だ。
「ね、でぃあなさまって――――」
「あ、それわたしもおもった!」
そんな会話をする子ども達に、ユリアは柔らかく微笑んだ。
「後でディアナ様に伝えてあげて。きっと喜ぶわ」
うん!と頷く子ども達。
そこへ、ミラの呟きが落ちた。
「……お嬢様は、いつも無意識に誰かを救っている」
屋敷や幼等部の子ども達。
心が離れかけていた家族。
かつて取り巻きだった女子生徒。
アイリスやクラウス。
恋敵だったはずのユリア。
誘拐犯だったレン。
孤児院の子ども達や市民達。
「自分が傷付きながらも誰かのために戦う、無意識にそんなことができる人が、王侯貴族の中にどれだけいることでしょう」
その言葉に、アイリスははっとする。
『自分達が良ければそれで良い、弱いものを淘汰しようという考えの持ち主が国の上に立てば、どうなるでしょうか?』
以前ディアナがアイリスに向けた言葉が重なった。
『大きくなった時に、誰かを守ったり支えたりすることができるように努力することも、私達にとっては必要なことですね』
あの時、ディアナはそう言っていた。
今あそこで戦えているのは。
クラウスや騎士達と信頼し背中を託せるのは。
ディアナ自身の努力と心があってのこと。
「私も……」
ぽつりと、アイリスの声が零れる。
とても小さな、囁くような声だったけれど、ミラとユリアの耳にはその言葉がしっかりと届いた。
「アイリス様にならできますよ!」
「ええ、私もそう思います」
ディアナの背中を追って、前に進もうと心を決めたアイリスになら、きっと。
戦いが終息しつつある外の様子を眺めながら、小さな拳に力を込めて、アイリスはひとつの決心をしたのだった。
* * *




