孤児院での決意3
「ええ?な、なんのこと?」
星のお姫様だとはしゃぐ子ども達に、ユリアが不思議そうに首を傾げた。
ああ、そうか。
先程の絵本の。
「さっき、月の王子様と星のお姫様が結ばれる絵本を読んだの。そのお姫様に、あなたがそっくりだって言っているのよ」
確かに挿絵に描かれていた星のお姫様は、髪型や顔立ちがユリアに似ていた。
そしてお姫様が星のティアラをつけていたのだが、花輪がそのティアラに見えないこともない。
「ああ、なるほど。うふふ、あなた達、見る目があるわね!」
どやぁ……!と胸を反らせるユリア、お姫様みたいと言ってもらえたことがかなり嬉しかったみたいね。
「あら、でもアイリス様だって負けていないわよ。ほら」
完成させたところだったアイリス様の花輪を、そっとその小さな頭の上に乗せる。
「ふふ。まるで花の妖精のようですね。とってもかわいらしくて素敵です」
そんな言葉が自然と口から出てきた。
美少女がさらに際立ってかわいいわぁ……。
そんな気持ちでにこにこと微笑んでいると、アイリス様が顔を赤らめてぷるぷると震え出した。
「あらら。ディアナ様ってば天然タラシなんですから……」
「なにが!?」
ため息をつくユリアにそう言い返したものの、はっと他の子ども達を見ると、その目が輝いていた。
「でぃあなさま!わたしにもやって!!」
「わ、わたしもいまからつくるから!ちょっとまってて!!」
「ええっ!?も、もちろん良いけれど……」
何事!?と驚く私に、やれやれとユリアが解説してくれる。
「ディアナ様って凛々しめの美人ですから……。その上あんな台詞まで吐かれたら、素敵なお姉様!って思うに決まってるじゃないですか」
そ、そういうものだろうか……。
「そういうものですよ。事実、学園でも高嶺の花だの近寄りがたいお姉様だの騒いでいるご令嬢は少なくありませんでしたよ?」
し、知らなかった……。
「ヒロインの私が男ウケする美少女系だとすると、悪役令嬢のディアナ様はどちらかというと女ウケする美人お姉様系ですもんね。ほら、この通り」
そう言うとユリアは、未だ赤面して固まるアイリス様や我先にと花輪を作る女の子達へと視線を移した。
「わたしもおひめさまみたいねっていってもらいたいわ!」
「はねみたいにかるいねって、だっこしてもらおうかしら」
そんな願望を口にしながらせっせと花輪を編む子ども達。
その様子を呆然としながら眺めていると、不意にうしろから声がかけられた。
「全く君は……こんなところでも子ども達を誑かしているのか?」
「!お兄様!」
我に返ったアイリス様の声にうしろを振り向くと、そこにはなぜか殿下とルッツ様の姿があった。
なぜここに。
今日は王都近くの森に騎士団の訓練に行っているはず……。
「殿下は王女殿下のことが気がかりすぎて訓練中も気がそぞろでしてねぇ。ブルーム騎士団長に追い出されたのですよ」
「……追い出されてはいない。孤児院は近くにあるから、訓練を早めに終えて様子を見に行かれてはどうかと言われただけだ」
からからと笑うルッツ様に、殿下が気まずそうにそう言い訳をする。
なるほどね、森はここからそう遠く離れていないから、お父様が気を遣って下さったのね。
「そうだったの。大丈夫よ、みんなとも仲良くやれているわ。……でも、ありがとう、お兄様」
殿下が自分のことを気にかけて来てくれたことに、アイリス様も嬉しそうだ。
アイリス様、殿下に対しても素直にお礼を言えるようになってきたなぁ……。
兄妹の仲睦まじい姿にほっこりしていると、花輪を編んでいた女の子達がこそこそと話しているのが目に入った。
「ね、あいりすさまのおにいさまだって!」
「ほんもののおうじさま!」
「ねえねえ、つきのおうじさまににてない?」
「わたしもおもった!ほしのおひめさまとなかよし、なのかな!?」
きゃあきゃあと盛り上げる女子トークに、私は固まった。
目の前では、殿下がアイリス様の花輪を褒めていて、ユリアが私が教えたんですよと得意気にしている。
そんなユリアに殿下は、なかなか良い仕事をしたなと微笑んでいる。
つきん。
針で刺されたように、胸が痛む。
月の王子様と星のお姫様。
ただの絵本の中の物語だって、分かってる。
だけどこの世界は元々は乙女ゲームで、ヒロインはユリア。
そして殿下は、隠しキャラの攻略対象者。
ふたりが惹かれ合う可能性だって、ゼロじゃない。
ここは物語の中じゃない、私達は現実を生きていて、ゲームの中のキャラとは違う。
それは分かっている。
けれど改心したユリアはとてもかわいらしくて、アイリス様とも仲良くなって、殿下も少しずつ気を許している気がする。
もしかして。
そう考えるだけで、私の胸がこんなにも痛んで、顔が歪んでしまうのだ。
「?ディアナ、どうしたの?」
顔色の悪い私に気付いたアイリス様が、心配そうに私に駆け寄り、袖をくいっと引っ張った。
なんでもないの。
そう言いたかったのに、言葉が出てこない。
口をはくりと開けただけの私を怪訝に思ったアイリス様が首を傾げた、その時。
「ま、魔物だ!魔物達が森から飛んできたぞ!こっちに向かってる!」
孤児院の教師のそんな焦った声に、私は我に返って空を見上げた。




