王子様のはかりごと2
つーんとした態度をとるミラとへらへらしたレンを伴って、お父様の書斎へと向かう。
夕食前のこんな時間に帰っているなんて珍しい。
ノックをして中に入ると、疲れた表情のお父様に出迎えられた。
誘拐事件の後処理が大変なのかしら。
私が起こしたわけではないけれど、申し訳ない気持ちになる。
「……ディアナ、落ち着いて聞いてほしい」
すぐに本題に入るつもりらしい。
眉間の皺、すごいけれど……一体どんな話をされるのだろう。
ごくりと息を吞み、お父様の言葉を待つ。
「実は――――」
「え?」
「な、な、なな……!」
「こりゃまた……」
予想外も予想外な内容に、私の目は点になり、ミラは怒りに震え、レンは呆れた顔をしたのだった。
「……だれ、あなた」
「ディアナ様の専属侍女となりました、ユリアと申します!よろしくお願いします、王女様!」
王宮、アイリス様の私室。
はつらつとアイリスさまに挨拶をしたのは、そう、ユリア嬢だ。
「馬鹿者!ちゃんとした挨拶をしなさい!王女殿下に失礼でしょう!」
そしてそんなユリア嬢に目くじらを立てているのはミラ。
なんとユリア嬢は貴族としての教育をやり直すことを条件に、大きなお咎め無しという破格の対応となった。
そこで白羽の矢が立ったのが、ブルーム侯爵家。
簡単に言えば、温情を〜とか言うならそっちで教育し直してちゃんと見張っていて下さいねということだ。
私が言い出したことだ、ここは責任をとりましょうということで、ユリア嬢……いやユリアを私付きの侍女として引き取ることになった。
前世のこともあるし、ユリアのことは気がかりだったから、まあそれは良いのだけれど。
ただ、同じく私付きの侍女であるミラがユリアの侍女としての教育係に任命されたのだが……かなりのご立腹なのだ。
お父様の命令だから断ることこそしなかったが……ものすごく嫌がっている。
「とんでもねぇお嬢ちゃんを押し付けられて、災難だな」
からからと笑うレンのことも、ミラは無視だ。
最近ミラの精神疲労が気がかりだわ……。
今日もあんなに眉間の皺を寄せている。
「そういえば王女様もディアナ様のことが大好きなんですよね?私と一緒ですね!」
「な、なに言ってるの!?私は別に……。そ、それにディアナは私の教育係なんだからね!?あなた侍女でしょう!?ちょっとは控えなさいよ!」
「いえ、私とディアナ様はそれはそれは深ぁい繋がりがあるんです!私のことも引き取って下さいましたし、これからもっと仲良くなる予定です!」
「な、ななっ……!ま、負けないんだからね!」
……王女殿下を相手に、ユリアは物おじしていない。
会話の内容がなんかアレだけれど、まあ上手くやれそう、かな?
「はいはい、おしゃべりはそこまでにして。ユリア、あなたも勉強のために来ているのだから、ミラの言った通り、挨拶はきちんとしなきゃダメよ」
「……はぁい。ごめんなさい、ディアナ様」
しょぼんと肩を落とすユリアはさすがヒロイン、とても庇護欲をそそる姿だ。
こうして私と一緒に通っていたら、そのうち王宮で働くエリートに見初められちゃうかもね。
アルフォンス、頑張らないと。
だってこう言ってはなんだけど、アルフォンスよりも素敵な人なんて王宮にはたくさんいる。
ルッツ様や殿下だってそうだ。
そういえばユリアが言っていたけれど、殿下はこの世界の乙女ゲームの隠れキャラなんだっけ。
ということは、ゲーム通りならヒロインのユリアに心惹かれる可能性があるわけで……。
もやっ。
ん?
なんか今、胸が嫌な感じしたかも。
「ディアナ?どうかした?」
「あ、いやっ、なんでもありません!」
胸を押さえて眉を顰めていると、アイリス様がひょっこり顔を出してきた。
いけないいけない、今はアイリス様とのお勉強の時間だ。
殿下とユリアが並ぶところを想像して変な気持ちになってる場合じゃないよね。
「それでは今日も庭園の散歩に行きましょうか!外はとっても良いお天気ですよ。あ、もちろん魔法で日よけ対策はばっちりして下さいね?もうご自分でできるようになったと聞きましたよ」
「ええ、分かったわ。うふふ、最近は魔法の先生に褒められることも多いの。お兄様やディアナには敵わないけど、まあまあ上手になってきたのよ?」
そう言って得意げに胸を反らすアイリス様は、以前とはまるで違う、とても前向きだ。
やりたいこと、興味のあることが見つかると、人ってこんなに生き生きするのね。
そう再確認していると、私の脳裏に以前のレンとの会話が横切った。
『いつか、誰でも平等に学ぶことができて、職業も自由に選べる世界になると良いわね』
「やりたいこと、かぁ……」
思わずぼそりと呟く。
あれから色々と考えてみたが、自分ひとりの力でできることなんて、限られている。
それでもやらずに後悔するよりは、まずは一歩踏み出してみたい。
「〝子ども達のために〟って、それは前世から変わらない、私の想いだもんね」
月として生きた、あの頃の自分の気持ち。
生まれ変わりはしたけれど、その気持ちは忘れずにいたい。
改めてそう考えた私は、顔を上げてアイリス様に笑顔を向けた。
「ふぅん?やりたいこと、ね」
ユリアのそんな呟きには、気付くことなく。




