元悪役令嬢とヒロイン4
すみません、今朝は寝坊して投稿できませんでした……笑
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私は、神代 友梨。
十二歳、どこにでもいる普通の小学六年生。
小学校の卒業祝いにと買ってもらったスマートフォン、ずっと欲しいってパパとママにおねだりしていたけれど、やっぱり買ってもらえて良かった!
友だちともたくさんおしゃべりできるし、ネットで色んな情報も知ることができる。
それに、ゲームだって。
課金までは許してもらえないけれど、無課金でも十分楽しめる。
スマホを持つようになってすぐ、私はひとつの乙女ゲームに夢中になった。
“ヒロイン転生〜イケメン達と真実の愛を〜”というゲーム、対象年齢が十二歳以上という、乙女ゲームにしては低年齢から楽しめるものだ。
私はまだそういうことが良く分からなかったけれど、過激なシーンがなさそうだし、これならってママが許してくれた。
その代わり、キスシーンはたくさんあったけどね。
でもお年頃な私は、それだけでもドキドキで、どんどんこのゲームにのめり込んでいった。
いつかこんな恋がしてみたい、そんな憧れを持って。
けれど、このゲームを気に入った理由は、それだけじゃなかった。
『ちょっとあなた、随分と馴れ馴れしくはない!?』
いわゆるゲームの悪役令嬢、ディアナ・ブルーム侯爵令嬢。
ゴージャスでスタイル抜群の迫力美人、けれど母親との死別という心に闇を抱えた設定がある。
実はチートなことを隠しており、ハッキリした性格でヒロインにキツくあたることもしばしば。
そんなディアナに、私は憧れていた。
良くも悪くも平凡な容姿と能力、学校の成績だって平均値前後。
人と争うのが苦手であまり自分の意見を主張できない性格。
そんな私とは、正反対。
ディアナみたいな人と仲良くなれたら、私も人生変わるかも。
私の推しはディアナの婚約者のアルフォンス、もし私がヒロインだったら、三人で仲良く暮らすのって楽しそうじゃない?
異世界だもの、第二夫人ってのもアリかもね。
ヒロインみたいにかわいくてみんなから好かれていたら、私だって自信が持てるようになるかも。
そんな妄想を膨らませながらゲームをプレイしていた。
そうして中学一年生になったばかりの春、習い事帰りの交差点を渡りながら、私はゲームに夢中になっていた。
ながらスマホ、危険だってニュースでもよく流れていた。
でも、そんなのみんながやっていること。
危険かもしれないけど、危ない時はちゃんと直前で気が付けるはず。
相手だって、避けてくれるはず。
……完全に油断していたの。
自分は大丈夫だって。
『わ、たし……』
急ブレーキの音に目を思い切り瞑って、身体にものすごい衝撃を受けたことは覚えている。
でも、そこからの記憶はない。
気が付いた時、私はもう、“ユリア”だった。
『ええっ!?ここ、ゲームの世界と同じよね!?えっ、ちょっと待って、私、ヒロインのユリアになってる!?』
しかもゲームのオープニング、高等部一年の途中入学の日だった。
死んでしまったのだという悲しみよりも、興奮の方が勝っていた。
鏡を見れば可憐な美少女、ほっそりとしていてスタイルも良くて、すれ違う男子生徒みんながこちらを振り向く。
大好きなゲームの世界に転生できたことに、有頂天になっていた。
そうして一年が過ぎ、ようやくアルフォンスの攻略が進み、ディアナ様と接触できるようになるはずだった。
『……おかしいなぁ。ディアナ様、なんの嫌がらせもしてこないんだけど』
私は不思議だった。
オープニングからゲームと同じ流れで進んでおり、アルフォンス達、攻略対象者の好感度上げも順調だった。
夏季休暇が終わる頃には、攻略対象者達はすっかり私に夢中になっていた。
それなのに、“悪役令嬢ディアナ”が、ちっとも動かない。
『バグってやつ?うーん……。ま、いっか。取り巻き達から色々言われたのは確かだし、ちょっと大げさにアルフォンス達に言いつけよっと』
そして予定通り、一番好感度の高いアルフォンスとの婚約破棄イベントを起こそう。
そうして絶望したディアナ様に、私がこう言うの。
ディアナ様にも事情があったのですよね。
幼い頃からの苦しみを抱えて、ずっとひとりで立ってきた。
そんなあなたと、私は仲良くなりたい、ううん、なれるはずです。
そう言って、蹲るディアナ様の手を取るの。
ディアナ様の罪を受け入れて、一緒に頑張っていきましょうって、励ますの。
『そうすれば、心が綺麗なんですねって周囲の人達には褒められるし、ディアナ様も私に感謝するはず。前世の夢だった、三人で仲良しライフの実現よ!』
そう息巻いていた私は、気付かなかった。
悪役令嬢が私と同じ転生者だっていうこと。
幼等部の子ども達が私の邪魔をするなんて、こんなシーン知らない。
隠しキャラのクラウス様まで現れて、私をそんな冷たい目で見るなんて。
『なぜ、どうして……?私は……』
心臓がうるさく鳴り響く。
攻略対象者達が次々と拘束されていくのを呆然と見送る。
私は、ヒロインなのに。
そっとディアナ様の方を見ると、私と同じように驚いている表情が見えた。
どうして?ディアナ様。
私はただ、あなたと仲良くなりたかっただけなのに。
ルート通りに進んで、みんなから好かれて、悪役令嬢も救って、私は本当のヒロインになるの。
こんなバッドエンド、知らない。
知らない、信じたくない。
教師に別室へと連れられて行く中で、私はそんなことを呟いていた。
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