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ヒロインの陰謀3

それからの毎日は結構忙しかったのだが、元々前世ではサービス残業当たり前、行事前の持ち帰り仕事なんて当然です!な保育士をしていたこともあって、目を回すほどではなかった。


ちゃんと睡眠時間は取れているし、ブルーム侯爵邸に帰ればゆったりできるから、まあ普通にフルタイムで残業なく働く会社員くらいの忙しさなのだろう。


貴族令嬢としては間違いなく激務だけど。


でもどの仕事も楽しいから、嫌な疲れ方はしないのよね。


心地良く疲れてぐっすり眠れるということは、充実してるということなのかもしれない。


保育士も楽しかったんだけどね、やっぱり体力勝負なところもあるし、気を張るから精神的にも疲れる。


仕事を始めてから実感したのだが、保育士って実はオールマイティーじゃないとなかなか難しい仕事なのよね。


コミュニケーション能力が高くないと同僚や保護者と上手くいかないし。


絵を描いたり製作したりするから、手先の器用さやセンスが求められるし。


事務作業も多いからパソコンも使えないといけないし、子どもや先生の動きを考えて行事の流れを組み立てなきゃいけないから、頭も使う。


話し上手じゃないと子どもは乗ってこないし、懇談会などで保護者の前でも話せない。


子どもと遊びつつ安全にも気を配り、なおかつ自分の仕事をこなす要領の良さもないといけない。


掃除だってキチンとしないといけないし、整理整頓ができないと子ども達に示しがつかない。


なんならピアノも弾けた方が良いし、絵本の読み聞かせも上手な方が良い、歌う機会が多いから音痴はちょっと……って。


「求められすぎじゃない?保育士」


誰よあんな安月給に設定したの。


「……前世の君の仕事が非常に大変だったことはよく分かった。けれど、その据わった目はなんとかならないか?」


「あら、失礼致しました」


しまった、殿下と話している最中だった。


けろりと笑う私に、殿下は微妙な表情をした。


そう、今私は殿下の執務室に来ている。


毎度おなじみ、アイリス様のことについての報告会だ。


アイリス様の成長について話していたその流れで、前世では子どもを相手にどんな仕事をしていたのかという話になったのだ。


最初は良かったのよ、子ども達と関わる中でどうすればその成長の助けになるのかとか、こんなことが嬉しかったとか、楽しい話をしていたから。


それが仕事内容や時間の話になって、あれもしなきゃこれもしなきゃ、こんなことが大変で……と段々愚痴が入ってきてしまった。


そりゃ目が据わっても仕方ないってものでしょう。


「けれどディアナ嬢の見事な仕事の捌き方には納得がいきました。アイリス様に殿下に騎士団に子ども達に、なんなら義母君の事業までと、あちこちから引っ張りだこなのに、よくもまあそう頭が回るなと」


一緒に話を聞いていたルッツ様が、感心したように頷いた。


「マルチタスクが求められる仕事でしたからね……」


あの頃を思い出し、遠い目をする。


「まるちたすく?なんだそれは」


眉を顰める殿下に、ああ、そりゃ知らないよねと説明をする。


「ですが、それが万能というわけではありません。ちなみに完璧主義者はこれが苦手なんですけど、そういう人はきっちり仕事をしてくれますからね。私は100%を求めるより70%くらいでいくつかこなしたいタイプなので、ものすごく重要なことを考えるのには向いていませんでした」


広く浅くって感じね。


だから手際は良いと言われたが、その道のスペシャリストにはなれない。


「誰でも得意不得意はありますし、考え方の違いもありますから。それぞれが適材適所で協力し合って、意見がぶつかれば話し合って落とし所を見つける。そうすると、組織って上手く回りますよね」


園長先生はそういうの上手だったなぁ。


あの方は先生達の個性を見極めるのが本当に上手だったから、仕事を振るのも良い塩梅だった。


「そういえば脳の造りでマルチタスクは女性の方が得意っていう話もありました。逆に男性はひとつのことに集中する方が得意な方が多いそうですよ。会話でもそうですよね。女性は話題があちこち飛びやすいけれど、男性はひとつの話題で長時間盛り上がることができます。まあ一概には言えませんが」


「なるほど。ディアナ嬢は子どものことだけでなく、色々なことを知っているのですね。博識なお方だと前から思ってはいましたが」


ルッツ様がほうほうと興味深げに聞いてくれる。


博識と言ってもらえたが、それはただメディアが発達した世界に住んでいたからだろう。


テレビでもネットでも情報が入ってくる社会、その良し悪しはあるが、知識は蓄積されていくよね。


でもそんな話をするとまた面倒なことになりそうだから、曖昧に微笑んでおこう。


「そういえば、クロイツェ……」


ダン!


話題を変えようとそう発言すると、いきなり殿下がカップを机に叩きつけるように置いた。


「ど、どうされたのですか?殿下」


「――――いいや?」


「ああ!カップにヒビが入ってしまいますよ!殿下、高いカップなのですから気を付けて下さい!!」


驚く私、ぴくぴくとこめかみを痙攣させる殿下、焦るルッツ様。


いったいどうしたのか?


「いや、なんでもない。それで?なにを言いかけたんだ?」


「あ、ええと、クロイツェル公爵様に最近お会いしていないな、と……」


アルフォンスの非常識な申し出に激怒して止めてくれたらしいから、お礼を言っておこうかなと思ったのだ。


お忙しい方だしなかなかお会いできないのは分かっているけれど、少し前はアイリス様と一緒にいる時や殿下の執務室にいる時に顔を出してくれたことが何度かあった。


でも最近は全然お会いしていない。


だからどうしたのかなって、ただなんとなく思っただけなのだが……。


「ああ。公爵の方なら今は忙しいらしくてな。息災なのは変わらんぞ」


()()()()()()


なんとなく気になる言い方だ。


ひょっとして……。


「殿下、まさか()()()()、ご存知で?」


キャロル嬢もお父上が話しているのを聞いたと言っていたし、殿下もどこかで聞きつけた可能性がある。


そう思って聞いてみたのだが、ビンゴだったみたい。


「……ああ。知っている」


だって殿下がものすごく不機嫌な顔をして、そう答えたから。

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