知るとは、学ぶこと3
「ではまず、水と洗剤とのり、それから砂糖を用意します!」
「のりと砂糖?どうして?食べるの?」
……このお姫様は本当に食べることが好きだ。
「のりは海苔じゃなくて、糊です。ちなみに砂糖も入れますが、もちろん食べられません」
この世界は西洋風ではあるが、時々和の食材も見受けられ、海苔だって存在している。
だが今日使うのはそれじゃない。
「まず水に砂糖を溶かし、のりを混ぜます」
借りてきた洗面器の中に魔法で水を出し、それぞれを混ぜていく。
「わ、私もやってみたい!」
お、自主的にやりたいと言ってくれるのは嬉しいことだ。
魔法で水を出すのはお手のもの、砂糖を混ぜるのも真剣にやってくれた。
「はい、しっかり溶けましたね。次はのりを入れますよ、馴染んだら最後に洗剤を入れます」
こぼさないように丁寧に、けれどしっかり混ぜる。
小さい子には力の調整が難しいが、アイリス様はこぼさずにしっかり混ぜてくれた。
ちなみにこの世界の洗剤とのりできちんと作れるのかは不安だったが、そこはちゃんとグエンと一緒に試し遊びをしてきたからバッチリだ。
「お上手です!これでシャボン液は完成です。では次に膨らますために必要な筒を作りましょう」
プラスチック製のストローなんてものはないので、こちらも作らないといけない。
グエンと遊んだ時は紙の筒を作って魔法で濡れても大丈夫なように膜を張ったが、薄い金属の板を魔法で筒状にしても良い。
魔法に頼り過ぎじゃない?と言いたいかもしれないが、これだって立派な魔法の練習なのだ。
私の作った見本を見て、同じ物を作ってみるとアイリス様が意気込む。
「うう……なかなか上手くいかないわ……」
厚めの紙を巻きながらアイリス様がうなる。
うん、難しいよね、それ。
新聞紙やチラシをくるくる巻いて、剣だー!魔法のステッキよー!って、小さい頃も保育士になってからもよく遊んだけれど、実際作るのは非常に難しい。
ちょっと気を抜くとあっという間に細かった筒が太くなってしまうのだから、大人にだって集中力がいる作業だ。
「では一緒にやってみましょうか。軽く押さえる感じで、力を抜かないで下さいね」
両端から支えながらくるくると巻いていき、最後はのりでとめる。
「これに先程のシャボン液をつけて吹くんです。もちろんこのままだと紙が濡れてしまうので、魔法で膜を張ってもらえますか?」
「分かったわ、任せて!」
こちらは自信ありげに答えてくれる。
殿下が探してくれた教師とも魔法の勉強を頑張っているみたいだし、ちょっとずつ自信をつけていけると良いな。
「完璧です!じゃあシャボン玉を作ってみましょう。テラスに出ましょうか」
先日虹を作った時と同じテラスに出る。
うん、風もそんなに強くないし、眺めも最高。
「では一度やってみせますよ?こうやって筒の先に液をつけて、ゆっくり息を吹きます」
お手製の紙ストローを咥えてふうっと優しく吹くと、手頃な大きさのシャボン玉が三つ、浮かんで飛んだ。
「わ!本当にできたわ!」
ふわりと空へ上るシャボン玉を、アイリス様はキラキラした目で追いかけた。
「さっきはすぐに割れちゃったのに、これは割れないのね」
「そうです、砂糖とのりのおかげですね。触っても割れないんですよ」
「!触ってみたいわ!」
どうしよう、反応がグエンと一緒でとてもかわいいわ。
ほのぼのした気持ちで用意してもらっておいた手袋を渡す。
「革製は駄目ですけど、こういう手袋をはめると、触ってももっと割れにくくなります」
「へえ……。ディアナは本当に色んなことを知っているのね」
アイリス様から尊敬の眼差しを向けられると、悪い気はしない。
ちなみにシャボン玉については、ちゃんと事前に殿下に相談の上、許可を得ている。
のりはもちろん、砂糖も温めるととろりとなるし、混ぜたら壊れにくくなるんじゃないかなーって思ったんです!で押した。
まあシャボン玉は珍しいものではないし、それくらいなら良いだろうとのことで、グエンとの実験を経て、こうしてアイリス様とシャボン玉を楽しむことができている。
「本当だわ!持てたわ!見て見て、ディアナ!ほら!!」
目をキラキラさせたアイリス様が、私に手の中のシャボン玉を見せてくる。
興奮しているアイリス様、かわいい。
推しはグエン一択だったけれど、ここに来てアイリス様の株が急上昇している。
「ねえ見て、ディアナ。すごく綺麗……」
手の中にあるシャボン玉を見つめて、アイリス様がうっとりとしている。
「虹色、ですね」
緩やかに動きながら、虹色の膜がシャボン玉の中に彩られている。
先日ここで作った虹を思い出しているのか、アイリス様の表情は穏やかだ。
「さて、次はご自分で作ってみましょうか!結構難しいんですよ?」
「できるわよ、それくらい。吹けば良いだけでしょ?」
シャボン玉作りを甘く見たアイリス様が顔を顰めて悔しがるのは、この数十秒後。
けれどすぐにコツをつかんで、テラスいっぱいのシャボン玉を作って笑顔になるのは、その数分後のことだった。




