王子様はそれを知りたい3
謝り倒す私と、つーんとそっぽを向く殿下。
一体なんの寸劇よ!
っていうか、どうしてこれくらいのことで殿下は機嫌を損ねているのよ!
助けを求めようにもミラは完全に戦力外、そりゃそうよね、王族相手に口を挟めるわけがない。
ならばとルッツ様にと視線を向けてみたが、面白そうな顔をして私と殿下を眺めるだけで、全く頼りにならない。
ど、どうしたら良いのよ……あ、そうだ。
「そ、そういえば!私はどうやって知識を使って良いかのご相談を殿下にしたら良いんですかね?まだお答えを聞いておりませんでした!」
無理やり話を最初に戻す。
強引だった自覚はある。
でも大切なことだし、ここはきちんと聞いておかないと。
殿下の機嫌を取っている場合じゃないわと声を上げると、今までそっぽを向いていた殿下が、ちらりと私を見た。
「……私に相談する気になったか?」
「はい?」
なにを言っているのかこの殿下は。
「いえ、ですから、どうやって相談に伺えば良いのかと聞いております。殿下はお忙しいでしょうから、そうそうお時間取れませんよね?」
またこの話をするのかとげんなりとした気持ちになる。
はっきり言おう、私は同じ話を何度もするのは嫌いだ。
前世でも、何度言っても分からない後輩を相手にするのは苦手だった。
この前言ったばかりよね?ちゃんとメモ取ろうか?って、顔に書いてあったと思う。
そんな私の心中を察したのか、殿下がそれは分かっている!と声を上げた。
じゃあなんなのよと顔を顰めると、またぶはっ!と吹き出す声がした。
「……ルッツ」
「す、すみません!つい……ぶふっ!」
ああ、この光景も先程見た気がする。
私なにか変なこと言ったかしらと首をひねっていると、殿下がこほんと咳払いをした。
「それについてはきちんと考えている。……君、最近鳩に手紙を届けさせているだろう」
「え?あ、はい。最近幼等部の子達と手紙を書いて遊んでいまして。ご家族やご友人達にも書いているので、魔法で作った鳩に配達させているんです。よくご存知ですね」
驚いてわけを聞くと、どうやら王宮に勤める方の中にも何人か子ども達の親御さんがいたようで、手紙を届けに来た鳩を見た方も多いのだとか。
手紙を魔法で鳥や蝶など羽を持つものに変化させ、相手に送る者は多いが、印象的なマークの描かれたバッグを持った鳩は珍しい、かわいいと、話題になっているらしい。
「子ども達から君の魔法で作った鳩だと聞いて、親たちが喜んでいるのを耳にしてな。その鳩とやらを伝令役にしてもらえば良い。どうしても無理な時もあるが、できるだけ早く移動魔法で会いに行こう」
「い、移動魔法までお使いになられるのですね……」
殿下のハイスペックさに驚きつつ、なるほどねと納得する。
たしかに鳩を使えば殿下にコンタクトを取ることは可能だ。
そして殿下が移動魔法で来てくれるのなら、すぐに相談ができる。
「「って、いやいやいや!」」
私とルッツ様の声が重なる。
「そんな簡単に殿下を呼びつけるなんて、できるわけないじゃないですか!?」
「自分がどれだけ忙しいのか忘れたのですか!?そうホイホイ仕事から抜けられては困るんですけど!?」
必死なルッツ様に同情するわ!
そんな私達に少し怯んだものの、ムッとして殿下は言い返してきた。
「それくらい大丈夫だ。構うな」
「いや、構いますって」
すかさず突っ込む私に、ルッツさんがそうですよと同意した。
「……ではこうしましょう。とりあえず最初に俺が話を聞きます。俺で事足りればそれで良いし、難しければ殿下へ。どちらにせよ、もちろん殿下にはきちんとご報告します」
ズキズキと痛むのだろう、眉間の皺を押さえてルッツ様が提案する。
おや、ルッツ様は一人称が“俺”なのね。
意外ねと思いながら、まあそれならまだ気が楽かもと頷きを返す。
……ルッツ様の仕事を増やしてしまった感はあるけれど。
「あれ?ということは、ルッツ様も移動魔法が使えるのですか?」
「まあ一応。殿下みたいに四属性魔法もバンバンいけます!ってわけじゃありませんけど。空間系とは相性が良くて」
へえ、さすが王子殿下の秘書官様だ。
ちなみに四属性とは、火水土風の魔法のこと。
その他にも色々と種類はあるが、この四属性が主な魔法の元素とされている。
「ご謙遜を。それではルッツ様もお忙しいとは思いますが、よろしくお願い致します」
「呼んだら迷惑かな〜とか、気を遣わなくても良いですよ。俺なら代わりはいますからね。むしろ誰かに殿下のお守りを押し付けられるからラッキーかもしれません」
私に気を遣って、わざとそんな風におちゃらけるルッツ様に、くすりと笑みを零す。
偏見かもしれないが、キツネ顔の人ってなんとなく悪戯好きだったりずる賢かったりと、クセのあるキャラのイメージがあるのだが、ルッツ様は少し違うかも。
アルフォンスには全くなかった気遣い、それができる男子って良いわぁとひとり感動する。
「ということで!殿下、それでよろしいですね?」
若干置いてけぼりになってしまった殿下が渋々頷き、なんとか話は纏まった。
「あ、でもできるだけ殿下にもお話を聞いて頂けたらとは思っていますよ?アイリス様の保護者様ですし、やはり気になりますものね」
勝手にやって下さ〜いと言われるよりも、殿下のように相談してほしいと言ってもらえる方がありがたいことに違いはない。
「……時間がある時は、俺も行く」
ちょっと俯きがちだった殿下が顔を上げた。
「はい、ありがとうございます。私も、できるだけ迷惑をおかけしたくはありませんが、アイリス様のためにやって差し上げたいと思うことは、ご相談させて下さい」
面倒なことになるから止めろと、殿下はただそう命令するだけでも良かったはず。
それをせずに、私の話をちゃんと聞いて考える姿勢を見せてくれる殿下が、ありがたい。
「本当に、ありがとうございます。こんなに素敵なお兄様がいて、アイリス様は幸せですね」
ふわりと微笑めば、殿下が照れたように頬を染め、そっぽを向いて「別に……」とだけ返事をした。




