閑話*ヒロインの思惑
すみません、短いです。
「でぃあなさまを、いじめるな!」
甲高い声が、次々と上がる。
幼等部の令息・令嬢達が、ぷるぷると震えながらもディアナを庇った。
「そ、そうです!ブルーム侯爵令嬢は、そんな方ではありません!」
そして、子ども達の父母や幼等部の教師達も。
その様子に、どちらの言い分が正しいのかと周囲にいた生徒達が戸惑う。
いや、どちらかといえば、優勢なのはディアナだ。
「くっ……」
完全にひっくり返されたのを感じ、ユリアの隣でアルフォンスがたじろいだ。
うしろにいたユリアを慕う三人もまた、動揺を隠せない。
そしてそんな男達を見て、ユリアも唇を噛む。
こんなはずではなかったのに。
そう呟いて。
(こんなシーン、知らない)
なぜヒロインの自分が、こんなことに。
予想外の展開に、ユリアは焦りを隠せずにいた。
ざわざわと周囲がどよめく中で、ひとつの凛とした声が、妙に良く響いた。
「やれやれ、お子様達や教師陣の方が余程見る目があるようだね」
ユリアが声のする方を振り向くと、そこには銀髪に紫がかった深い青色の瞳の、冷たい美貌の青年が立っていた。
(!?どうして、この人まで……!?)
まるで、彼の登場シーンはここではないとでもいうように、ユリアは驚愕した。
そうこうしているうちに、青年はあっという間にディアナをどこかに連れて行ってしまった。
「……君達のことは、後からよく考えさせてもらうよ」
アルフォンス達を、冷たい目で一瞥して。
その後、残されたアルフォンスとユリア達五人に向けられる、周囲からの視線もまた、ほとんどが冷たいものだった。
中でもアルフォンスの父であるクロイツェル公爵からは、炎のような怒りを感じられる。
そしてディアナの父であるブルーム侯爵からは、冷徹な表情の静かな怒りを。
「なぜ、どうして……?私は……」
ユリアの心臓は、今にも破裂しそうなくらいに激しく鳴り響いていた。
「父上、離して下さい!」
「ちょ、ちょっと……!」
「俺に触るな!」
「私達はなにも悪くない!あの悪女が……!」
自分を守ってくれていた四人の男達が拘束されていく、その様子をユリアは呆然と見つめる。
「ユリア・フランツェン、あなたもこちらへ。別室で話を聞かせて頂きます」
そして学園の教師がやんわりと、いや、しっかりとユリアの腕を掴み、ぐいと引っ張る。
引きずられるようにして会場から退出させられる五人を、幼等部の子ども達も、両親にしがみつきながら冷たい眼差しで見送った。
なぜこうなったのだろう。
ルート通りに進んだはずなのに、なにが悪かったのだろう。
こんなバッドエンド、知らない。
「?なにをブツブツとおっしゃっているのですか?ほら、自分の足できちんと歩きなさい!」
涙を滲ませ、声を震わせるユリアの呟きは、腕を引く教師の耳にすら、きちんと届かなかったのだった――――。
ということで、第一章・悪役令嬢編でした。
次回から新章に入ります。
“塩系”、“前略母上様”とちょっとへたれたり残念な感じのヒーローが続いたので……笑
かっこ良いヒーローが書けると良いなと思ってはいるのですが、どうなるか分かりません(^^;)
それでもOK!という心の広い方、明日からもよろしくお願い致します!




