プロローグ
お久しぶりの方も初めましての方も、楽しんで頂けたらと思います。
新作もどうぞよろしくお願いします。
「ディアナ・ブルーム!貴様との婚約を破棄する!」
そう、私の婚約者―――もとい、今より元婚約者となった男は高らかに宣言した。
学園の最高学年生の卒業を祝うパーティーでの、この騒ぎ。
周囲の生徒からも、ざわりと戸惑いの声がそこかしこから上がったが、それもなんのその。
元婚約者――――アルフォンス・クロイツェルは、ふふん!と勝ち誇った顔をした。
そしてその隣には、いかにもヒロインといった容貌のかわいらしいご令嬢が、涙目で寄り添っている。
そしてそのうしろには、見目麗しい三人の令息の姿も。
一体どうしてこうなってしまったのだろう。
狼狽える私を見て、アルフォンスは口を開いた。
「貴様がユリアにした仕打ちは全て知っている!高位貴族の権力を振りかざし、取り巻きの女生徒を使って数多の嫌がらせを行い、あまつさえ婚約者以外の男に色目を使っているだろう!?」
色々言いたいことはあるけれど、驚くべきはまるで使い古された断罪劇のような台詞の数々。
ひょっとしてここは、乙女ゲームの世界なのだろうか?
今までにも思ったことはあったが、これは確定かもしれない。
そして、ひょっとして私は――――。
「アル……いえ、クロイツェル公爵令息」
もう婚約者ではないのだ、あえて冷たい声で他人行儀に呼ぶ。
足、震えるな。
こんなの、あの時に比べたら、大したことじゃないじゃない。
ぐっと下半身に力を込めて、背筋を伸ばす。
「私は……「でぃあなさまを、いじめるな!」
腹を括って発言しようとしたその時、その場にそぐわないようなかわいらしい声が響いた。
「そうよ!でぃあなさまは、とってもやさしいのよ!」
「えらそうなおにいちゃんのほうこそ、でぃあなさまをいじめてるじゃない!」
「ぼく、しってる!そういうのって、“じぶんのしたことをたなにあげて”ってやつなんだよ!」
次々と上がる少年少女達の咎める声に、アルフォンスはたじろいだ。
「みんな……」
振り返ればそこには、怒ったり、涙目になったりしながら私を庇おうと声を上げる、幼等部のみんながいた。
「そ、そうです!ブルーム侯爵令嬢は、そんな方ではありません!」
「とても優しくて、素敵な方です!」
そして幼等部の教師達もまた、私を庇ってくれた。
そんな声に、どちらが正しいのかと、ざわざわと会場がさらにどよめいた。
「やれやれ、お子様達や教師陣の方が余程見る目があるようだね」
そこに鶴の一声のような、威厳に溢れた声が上がった。
「面白い。ディアナ・ブルーム侯爵令嬢、君に決めた」
「は、はい!?」
そしてこの後、突然現れた冷たい美貌の青年の話に、私はもう一度言葉を失うことになるのだった。
夜にもう一話、投稿予定です。