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075 冬籠り

 申し訳ありません。実は投稿順ミスで、季節が若干進んでいます。変更したいのですが、操作がうまくできなかったことと、いいねをつけてくださった方に申し訳ないので、しばらくこのままでお許しください。

 

 窓ガラスを曇らせる一息。今日も雪が降り積もりそうだ。


 はぁ……。


 ソラの散歩のため、窓を開け放すと白い息がキラキラと輝いてオレの魔力みたい。

 ここ数日、積もりに積もった雪はオレの背丈を軽く越え、裏庭で遊ぶにも一苦労の量だ。私兵達が雪かきをする主要道以外は雪かきも行われず、村人達は冬籠りに入った。

 しばらくは雪が降り積もっては止む日々が続く。人々の多くは家の中で小物を作ったり武器の手入れをしたりして過ごす。クライス兄さんは学生だから、この雪の間は自室にこもって勉強だ。


 部屋を温める薪や魔道具が村の家々に行き渡っていることを確認したディック様は執務もそこそこにのんびりしている。オレは膝の上を確保して、甘えモードに入る。


「どうだ? 魔力操作の練習はできてるか?」

 何杯目かの紅茶を啜ったディック様は退屈そうだ。

「ううん……。上手くいってるか、いってないか分かんない。でも、勝手に魔法を使うことは減った……と思うよ」


 パキリとクッキーを口に入れて応える。


「よく頑張っていて、いい調子だよ。コウタの魔力が見えないから分かりにくいけど。練習では問題なく集中できるようになってきたから」

 キールさんが口添えしてくれた。でも、本当によく分からない。身体の中の魔力は分かったし、少しは思い通りに動かせる。だけど練り上げるって意味が分からない。だってオレの魔力はふわふわ飛び散ってサラサラなんだもの。


 煮え切らない様子にディック様はオレの手を持って自分の口まで誘導し、ガリリとクッキーにしゃぶりつく。


「あぁ、オレのー」

 わぁと叫んだオレの声とワッと沸いた皆の笑い声。今日も温かなサロンは人でいっぱいだ。

 領主館は各部屋に魔道具があるし、魔法使いのメイドさん達が温めてくれる。だけど暖炉の火が一番暖かい。だから必然的にサロンにはいつも誰かがいてくれるよ。

 

「ちょっといいか?」

 大きな巻き紙を持って部屋に入ってきたアイファ兄さんがオレを押しのけてディック様に話しかける。サンとメリルさんがテーブルの上のクッキーやカップを移動させたので、オレは慌ててクッキーを両手に取り置いた。


 くるくると広げられたのは地図だ。ホフムング王国の地図。オレがいる大陸全土の地図で、大まかな領堺と山地、湖が記されている。一番西の領地にグルリと赤い丸。エンデアベルトだ。中央よりやや上側にお城が描かれている。あそこはきっと王都だね。


 アイファ兄さんはオレを見てニヤニヤしながら細長い小さな石柱を幾つか転がした。


「春んなったらクラ達は王都に戻るだろう? 送り届けたらアレキサンドリアに向かおうと思うんだが……。どう思う?」


 兄さんは石柱を幾つか地図の道筋に置き始めた。1つ、2つ、3つ、王都に着くまでに5つ。そして王都からグンと遠くの東の端に1つ。さらに地図からはみ出した机の上に1つ。この石はきっと泊まるところ。兄さん達は速いから、王都までは普通の二倍の速さなんだ。春になったらお別れ……? オレはクッキーを持ったまま兄さんを見つめる。


「国外か? また急に思い切るなぁ。まぁ情勢は安定しているし、いいんじゃねぇか? あっち側の海ならちょうどシーズンに入るだろうし」


 ディック様が執事さんに何か合図を送って、また地図と向き合った。ニコルがサースポート側に白い丸石を置く。

「ここで一泊、サースポートで一泊。こっから海路経由でイストニア。王都を通らず領都に沿ってホクポトに行った方がランク上げにはいいし安全だよ」


「いや、あとは街中依頼だけだから王都でランクを上げちまおう。遺跡やらダンジョンやらを通過するなら先に海路だが、目的があんだろう? リーダー?」キールさんが珍しく冒険者パーティの顔をする。


 驚いてアイファ兄さんの顔を見上げていると、兄さんがパクリとオレの手を口に入れた。

「あっ、また! オレの!」


 ひひひと笑いながらチラリとオレを見て、口からクッキーを半分だけ取り出してから手に持ち返した兄さんは、王都から右半分を指して話し始めた。


「目指すは勇者町、アレキサンドリアだ。ホクポトから海路で渡る。だが、王都からホクポトまでは山越えを繰り返して行こうと思う。ちょっとキツイが、気になる伝承がある」


「気になる伝承?」

 刺繍をしていたサーシャ様が手を止めて首を傾げる。



 アイファ兄さんがいつもの悪い顔ではなく悪戯な目をしてオレを持ち上げると脇に抱えた。


「昔はこの大陸とアレキサンドリアは繋がっていたんだ。……で、勇者様はこの山の中で戦友となったスコット爺に出会う。その爺が住んでいた熊の洞窟伝承があるんだよ」


「あぁ、あの伝承。だけど眉唾ものだよ。熊みたいなジジイが親に間違われて熊を育てるってやつだろう?魔力がないのに従えちまうってアレだ。そんな伝承、追いかけてどうすんの?」


 ニコルが不満げに口を尖らせた。


「ふふふふふ。まあ、普通はそうだよな。だが、そこに勇者一行の魔王討伐の秘策が残されているって言ったらどうだ? だからジロウ! 信憑性をお前に聞こうと思ってな」


 食堂に続くドアにへばりついていいたジロウがピクリと顔を上げる。ジロウの前足を枕にしていたラビがすごすごとテーブルの下に移動した。


 ジロウが来た時は怖がって姿をくらましていたラビ。でもジロウは鼻が効くから、壺の中に隠れたラビをすぐに見つけ出し、口に咥えてオレの前に差し出した。オレが仲良くしてねと頼んでからは、ちょっとずつジロウに近づけるようになったんだ。最近ではジロウと腹と背をくっつけあって寝ることも珍しくないよ。


「なぁ、ジロウ。千年前の伝承だ。知ってるか? どう思う?」


 ジロウはピクピクと耳を動かすとパタリと目を閉じて眠り始めた。


「不可侵ってやつじゃねぇのか? 何か厄介ごとの香りがする」

 ディック様が嫌そうな顔をした。


「ああ、厄介ごとさ。ジロウが言えねぇのは承知。だが、今ので悪くないのは分かったろう? コウタの気に入ってる勇者の冒険、なぞってみようと思ってさ。きっと……」


「それはようごさいます。伝承には古代遺跡がつきものですから、クライス様にもお話くださいね」


 珍しく兄さんの言葉を遮るように執事さんが割り込んできた。手には折りたたまれた古い地図がある。


「オレが気に入っている?」


 兄さんは首を傾げるオレをジロウの上に落とすと、もう片方の手に持っていたクッキーを拾い上げ、パキリと齧り付いた。


「ひっかかるんだよ。なぁ、コウタ。お前、父様と母様は賢者と魔法使いだったろう?……んで、……」


 バン!


 兄さんが話を続けようとすると、執事さんが大きな音を出して机に地図を広げた。


「古いですがアレキサンドリア周辺の地図です。勇者の街と言われ、冒険者なら憧れて一度は訪れる街でございます。自治国家として独立していますし、行くことに問題はございません。アイファ様も何度もお立ち寄りのはずですよね?」


「おっ、おう。前にな。たいした依頼もなかったし、新米冒険者が群がってくるから面倒なんだが……。絵本の勇者をって……、セガさん、怒ってる?」


 徐々に話し声のトーンを下げる兄さんに、氷の冷気を纏った執事さんがニッコリ笑った。


「いいえ。全く……。私はいつも通りですよ。では、この話はクライス様にお通ししていただいて、ささ、ディック様はそろそろ執務をされてはいかがでしょう?春初めの祭りの支度もありますし、その後はさすがに王都まで行かれますよね?」

 いつも以上の笑顔に流石のディック様もたじろぐ。


「なんで急に仕事を振るんだよ。それに……、王都って、何言ってやがる? 俺が出かけちまったら、ここの戦力はどうすんだよ」


「そうねぇ。今回はコウちゃんのこともあるし、この前のやり過ぎ調査の一件もあったわね。ナンブルタル領の件もあれば……。そうそう、ジロウちゃんがグランなんだから一応報告は必要よねぇ。ただでさえ戦力が大きいって敵視されてるんだから、辺境伯自らが謀反の意志はありませんって王都で宣言して来ないとまずいかも」


 サーシャ様が追従すると、ディック様は固まって口をぱくぱくし出した。


「仰るとおりでございます。ここの守りは私とメリル達でいかようにも。いえいえ、私兵もおりますゆえご安心ください。では、ディック様、春になりましたら王都行きの準備をさせていただきます。よろしいですね?」


 執事さんのいつにない冷ややかで強い態度に反論できないディック様。でも、それって、それって……?


「ねぇ、オレも王都に行けるの?」


 オレの手に確保したはずのクッキーが1枚もないことを忘れ、オレは期待に満ちた目で顔を上げる。頷くみんなの顔を見て、ジロウがペロリをオレを舐め、鼻先を使って背中に乗せた。


「ワオン!」

「やったぁ!」


 オレは嬉しくってジロウの背中に乗って跳ねた。オレから溢れる喜びのキラキラをパクパクと食べるラビとジロウ。うふふ、やっぱり魔力操作はまだまだだね!

 






 

読んでいただき、ありがとうございます!


 ああ、いいねが500件を超えました。嬉しいです。でも嬉しすぎではありません。

 どうか、どうか、もっとお話が面白くなるようにYokoちーを喜ばせてくださいませ。本当にありがとうございます。感謝感激です。


 

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