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074 厄介なやつ


「・・・・・・コウタ……さ、ま?」


 目覚めたサンは、薔薇色ですべすべの頬。包帯を取れば大好きで温かな手がオレの頬をムギュと挟む。


「お熱はどう……?」


 オレは小さな声で尋ねる。何度やっても回復魔法は上手く出来ているか不安だ。信じるものはオレの感覚だけ。どんな原理でよくなるのか、分からないからこその不安。誰か教えてくれないかと辺りを見回せば、怖い顔をした大人達がオレを見下ろしている。



「もう一度言うぞ。お前、何をした?」

 薄い紅茶色の瞳がギロリと輝きを増し、いつもの大好きな気配が微塵も感じられない。


「か……、回復?」


 ヒヤリと冷え切った部屋にさらに冷ややかな瞳が並ぶ。オレは心許なくぎゅっとジロウの毛を握る。キュオンと小さく鼻を鳴らしたジロウがググッとオレの身体に身を預けて護ってくれているようだ。


()()()()が回復しただけで、こんな騒ぎになるのかなぁ?」


 あっ、この言い方。めちゃめちゃ怒っている時のディック様。ブルルと背筋を伸ばして周囲を見回す。

 艶々になったサン。呆れ顔のクライス兄さんとキールさん。ニコルはいつも通りで……。窓枠ごと壊された部屋には冷たい雪風が入り込み、ガラスや木屑が散乱している。ベッドも家具も壊れていて燦々たる状況だ。


「えっと……、ごめんなさい」

 素直に項垂れて謝り、前髪の隙間からチラリと上を覗き見る。グンと近づいた瞳がオレをのけ反らせ、再びブラリと子猫ちゃん状態になる。


「厄介な奴が厄介なことを覚えやがったか?」

 呆れ顔のディック様に漆黒の瞳がキョトンと開く。厄介なこと?


「父上、これ、無自覚って奴だよ。このまま知らんぷりした方が良くない?」


 首をブンブンと縦に振るキールさんとニコルに、チッと舌打ちをしたディック様はオレをさらに持ち上げた。


「そう言う手もあるが、それがさらに厄介になることもあるからな。しかもコウタだ。他ん奴ならともかく、はっきりさせた方がいいだろう。なぁ?」


 ニヤリと悪い顔をされたって、ぶら下げられたオレに決定権がないのは明白だ。首を引っ込めて覚悟を決める。こ、怖いんだけど……。



「さぁ、()()()()()()。君はどうやってサンの部屋まで来たのかなぁ?」


 何を言われるかと思えばそんなこと?決まってる。 走ってきたんだよ。あれ? オレ、走ってきたのかな? 気が付いたらサンの上で……。あれ?


「あぁ!!!」


 大きな口をあんぐり開けて事の重大さに気が付いた。


 ボシュンとクライス兄さんの胸元に投げ込まれ、ケホンと咳き込む。


「転移か? また厄介なもん覚えやがって! いいか? それは使うんじゃねぇぞ! 魔力が安定しなきゃ、どこに転移するか分かったもんじゃねぇ! 水ん中ならともかく、岩ん中や暖炉の中に転移したらどうなる? そん時が来たら師匠を探してやっから、絶対、絶対使うんじゃねぇぞ!」


 ええ?! 岩や暖炉の中? それは怖い! 転移ってそんなことになるの?オレは必死の形相でブンブン、ブンブンと頷いた。


「はぁ……。きっとまだ分かってないよ」

 分かったよ! 心から! そう反論したい気持ちを堪えてクライス兄さんを見上げると、悲しそうな瞳でオレを見ていた。


「あのねぇ、コウタは転移しようと思って魔法を使ったんじゃないだろう?」

 うん、そう。使えちゃったの。こくんと頷くとぎゅっと強く抱きしめられた。


「どうやって使えちゃったかは分からないけど、次に同じ状況になったらさ、また転移しちゃうかもしれない。そこまで分かってる? だから自分の魔力のこと、きちんと自覚しないといけないよ。使っちゃったってことがないように。今日は館の中だったからコウタの気配が追えたけど、僕たちの知らない場所で困った状況になったって助けに行けないよ?」


「……オレ、気をつける。」

 兄さんの胸に顔を埋めて小さな声を絞り出す。すると今度はグンとオレを突き放してふふふと笑った。クライス兄さんは、ディック様とアイファ兄さんと同じ悪い顔だ。


「……で、()()()()()()。君、サンに回復魔法をかけちゃったけど、どうしてお熱まで引いて()()()()()()?」


「えっと……、回復したから……?」


 オレの回復魔法は今更だ。兄さん達だってもう分かっているでしょう?そう思う間もなく、今度はディック様にポシュと勢いよく投げつけられた。


「……い、いちゃい」

 突然の予想外の動きに舌を噛む。クライス兄さんが妙に怒ってる?!


「回復魔法は怪我専門だろう? 熱まで下げちゃったら病気を治したってことと一緒だ! めちゃくちゃも大概にしろ! 病気なんか治しちゃったら誰だってコウタが欲しくなるだろう? ちっとは自分の価値に気付け! 魔法の大安売りをするなってんだ」


 はぁはぁと息を乱してオレを怒鳴りつけた兄さんは、固まったディック様達を横目に、いつもの爽やかな青年の顔に戻った。そしてオレに手を伸ばして笑顔を見せた。


「さっ、コウタ! ()()()とオヤツにしよう。ナンブルタル領で買ってきたクッキー、出してもらって一緒に食べよう」

 オレは震える手を伸ばして兄さんに抱っこされる。天使の笑顔の裏に激しい怒りが収まっていないことが分かるから。クライス兄さんは怒らせちゃ駄目な人だ。オレは魔力操作の練習を真剣にしようと心に決めた。


 

今日も読んでくださってありがとうございます。


 昨日、お芋掘りをしました。今年の気候が異常だったのか世話が悪かったのか、すっごく頑張って探したけれど、不作でした〜。残念!

 

 本日も心ほっこりする1日でありますように。願ってやみません。

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