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073 新しい魔法


「ちょっと待って! 待って! あと少し読ませて!」

 オレとキールさんは魔導書に夢中だ。

 

 オレが妖精の国に行っている間、キールさんは屋敷にある魔法関係の本で転移魔法を調べていたんだって。せっかく魔導書を開いたのだから、この際、新しい魔法を覚えることにしたらしい。新しい魔法ってワクワクするよね。もちろんオレも覚えるつもりだ。


「コウタ、これ、古代文字が混ざってるんだから、君には無理だって」

「でも分かる部分があるから! えっと……」

「やめろって! 何で三歳児に古代文字が分かるんだ? ろくなことにならない気がする。もう厄介ごとは勘弁してくれ!」


 難しい古代文字もクライス兄さんの手にかかれば少しずつ謎が解けていく。ただ古代文字はまだ全部が解明されていないし、書き間違いや文法間違いも多く、素直に読んではいけないらしい。あっちにこっちにメモを取り、ページを繰ってはまた戻り、なかなか一つの魔法陣は完成しない。


「やっぱり、古代魔法は難しいね。詠唱の内容がさっぱり繋がらないや」

 キールさんは残念そうだ。

「それで、キールさんはどんな魔法を覚えようとしてるの?」


 今更ながらオレは素朴な疑問を突きつけた。さっきのページには幾つもの魔法陣が時系列に並べられ、そこに描かれた古代文字を読み解いといていた。だけど何の魔法か説明が見当たらない。

 キールさんはオレの顔をチラリと見て困ったように言った。


「転移だよ。それと鑑定」

「転移? それってどこにでも行ける魔法?」

 オレはワクワクして本の上に身体を押し上げた。


「ははは。どこへでも行けるなんてそんな訳ないだろう? 自分が行ったことのある場所に行けるって魔法。できる人はいるんだけどね、これも女神の祝福をいただいている才能のある人だけだから。でも古代ではきちんと記録があってね、普通の魔法使いも使えた様なんだ」


「そうなんだ! それって便利そうだね! その魔法を覚えたら妖精の国にもまた行けるかな?」

「ちょっとちょっと、コウタは覚えちゃ駄目だよ。僕たちが探し出せなくなるでしょう? 君はすぐ行方不明になるんだから。」


 クライス兄さんが慌てて止めに入る。

 大丈夫だよ、そんな簡単に行方不明にならないから! そう言いかけて、はたと口を塞ぐ。そうだ、つい昨日、騒動を引き起こしたことを忘れてた。慌てて、へへと笑い顔を取り繕う。


「ねぇ、転移はわかったけど、鑑定って?」

 兄さんの冷たい視線を避けながら話題を変える。


「ああ、簡単な鑑定は使えるんだけど、挑戦したいのは古代の鑑定魔法。ずっと上級の魔法だよ。例えば、魔法の痕跡を見て、どんな魔法が使われたか分かると便利だろう? 特に魔物なんかだと実際に魔法を使う前に対処ができるんだ。 あと、コウタの魔力がどれくらいあるとか、武器の素材が何かとか、ポーションの質までわかるといいなって」


「すごい! とっても便利だね! 古代魔法って凄いね」

 オレが驚くとクライス兄さんが嬉しそうに語り始めた。



「そうなんだよ。古代って凄いんだ。ほら、普通、文明は未来に向かって発展していくものだろう? でもさ、我々は過去の大厄災で全ての文明を失ってしまった。厄災前はとんでもなく優れた魔法文化があったんだ。もちろん、今の方が発展してることもあるのだけれどね。古代学を研究することは失われた文明を取り戻すことであり、我々の未来を豊かにするものなんだ」


「凄い凄い! ねえ、オレが出来そうな魔法ってある?」


「「・・・・・・・・」」


 二人は顔を見合わせて急に黙ってしまった。


「コ、コウタ。前にも言ったと思うけど、魔法は六歳になってからだって」

「そうそう、それまでは自分で魔力がコントロールできるように、魔力操作だけにしておくといいよ」


 オレ、もう魔法、使えるよ! 教えてくれれば、岩を砕くときにアオロに怪我をさせなくて済んだのに。プンと頬を膨らまたけど、ふと妖精のことが気になった。


「そうだ。あのね、オレ、アオロを回復してあげたんだけど、アオロも精霊様もびっくりしていたよ。ヒトの魔法って本当は妖精には効かないんだって。どうして?」


「どうしてって……。そもそもが違うからじゃないかな」

「妖精はほぼ魔力で出来ているからね、ヒトの魔法は妖精の身体に溶け込んでしまうんだ。人は魔力を持っていても、それをエネルギーに変えて使うだろう? 魔力の塊の妖精魔法が人に効果があったとしても、その逆はないってこと」


「そうなんだ! オレ、魔力をエネルギーに変えてるの?」

「そういえば……、コウタは詠唱を唱えないし、気が付いたら魔法を使っちゃってるって感じだからからな……」



「ねぇ、コウタって妖精なんじゃない?」

 突然割り込んできたニコルにオレ達はわぁと驚く。


「えぇ? オレって妖精なの?」


「ほらほらニコル。コウタが信じるだろう。揶揄うんじゃない」

「コウタは僕の可愛い弟だ。妖精なんかにされてたまるか。なぁ〜、コウタ」


 キールさんがニコルを嗜めるとクライス兄さんがオレを抱っこしてくしゅくしゅと髪をかき混ぜた。よかった、オレ、ヒトだよね?!



「そうそうチビっ子! 今、雪が止んだよ。裏庭だったらジロウ、駆け回れるだろう? ずっと部屋の中じゃ可哀想だしさ。アタシもトリ達を放してきたところさ」

「雪、止んだの? うん、オレ、裏庭に行ってくる。 行こう、ジロウ」

 オレはジロウに飛び乗って、裏庭に向かった。


 今日は朝から雪が降り積もっていて寒い。身体が濡れると風邪をひくからって部屋に引きこもっていたんだ。それにソラもジロウも昨日からオレにくっついて離れない。一緒だったら思い切り暴れられるね!


ワオン!

   バサッ!


 雪はオレの背丈くらい積もっている。ふわふわで深い。ジロウからジャンプすると、くっきりとオレを形どった。ソラもオレを真似てドサッと雪に埋もれる。うふふ、ソラの瑠璃色は一際目立って綺麗だ。


 ころんと転がれば雪がムギュッと音を立てて硬くなる。こんな音も楽しい!! オレ達は思い思いに雪に埋もれて笑い合った。


「コウタ様、そんな薄着で! お風邪をひきます」

 慌てて駆けてきたメイドさん。そうだ、今日はサンを見ていないことに気付く。オレはコートを着せてもらいながらマリアさんとサンの様子を尋ねた。


「サンは酷い風邪を引いてしまって休ませています。コウタ様にうつったら大変ですから、しばらくサンに会うのは我慢なさってくだっさいね」


 ええ?! それは大変だ! サン、大丈夫かなぁ。慌ててサンのところに行こうとしたらメイドさんにガシと捕まれた。


「だから、駄目です!」

「オレ、風邪なんかひかないから」

「でも駄目です! 私が叱られます」

「内緒にするから」


 行く、駄目ですの押し問答。サンはオレのことが大好きだもの。会いにいけばきっと元気になる! オレはキッと顔を上げてサンのことを思い浮かべる。


「駄目ですって……、きゃぁ!」

 驚いたメイドさんの顔がシュッと消えたかと思うと、オレはうなされるサンの上にドサリと落とされた。


「グッ、ゲホ……」


「わぁ、ごめん! サン、大丈夫?」


「ゴ、ゴウダザマの幻が見えまず〜」


 真っ赤な顔で涙目になっているサン。酷いお熱だ。突然現れたサンに戸惑いながらもオレは急いでサンから降りる。


 椅子をベッドの横まで持ってきてよじ登り、サンの手を取ろうとしたけれど、いつもの華奢な温かい指は包帯でぐるぐるに巻かれていた。

「……どうして?」


 そう呟いた瞬間、ソラとジロウが窓から飛び込んできた。


ガシャン!

      ドカン!

『コウタ、大丈夫?』

『よかった! 気配が急に消えたからびっくりしたよ』


 魔道具で温められた部屋にぴゅうと冷えた風が入る。ちょっと二人とも、窓を壊しちゃ駄目だよ! でもオレのこと心配してくれたんだ。



 続いて息を切らしながら入ってきたのはメイドさんとディック様達。


「い、今さっき、ふぅ……ふぅ。裏庭でお話を……。そうしたら急に消えてしまわれて……、ひぃふぅ」


 胸を押さえながら話すメイドさんを制して、ディック様がオレの首根っこを掴んで猫のようにぶら下げた。クライス兄さんがこめかみを抑えている。


「何をしやがった、コウタよ?」

 低い声がお腹に響く。オレ、叱られることなんてしてないよ。へにゃり、首を傾げるけれど、そうだ、それよりサン!


 オレは身体をググッと縮ませて服の中に潜り込むとするりと服から抜け出した。ついでサンの上に乗っかって急いで回復をかける。

 うわぁ、指も鼻も足先も酷い傷を負っている。ジンと唸りそうな痛みから解放しようと魔力を流す。うん、喉元、お腹、ここは赤黒い気配。悪いものを押し出すように……。オレの金の魔力とサンのお日様みたいな明るい魔力が鎖のように絡まって、力強く流れてくればもう大丈夫! オレは満足気にふぅと顔をあげた。




 今日も読んでいただきありがとうございます!

今日はちゃんとコウタが活躍できました〜!よかったです!


 いいね、ブックマーク、評価などしてくださった方、ありがとうございます。嬉しです!

 皆様の勇気あるアクションに励まされ、執筆活動・日常生活をがんばります。


 今日の日が皆様にとって温かで幸せな一日となりますように。

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