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閑話(ブックマーク100記念) 旅の途中で(前編)

砦の有志の冒険譚です。

時期はいつ頃でしょうか?お察しいただけるかと。

ブックマーク100記念 ありがとうございます!


 ピロロロロ



 青く青く高い空。だが夏と比べれば随分薄い色で、地平線を造る山々には細くたなびいた雲が伸びる。


 首から下げたギルドカード。Bランクを示すシルバーの濃い色が、小さな指輪から溢れるオレンジの光をふわりと反射させた。




 珍しいこともあるものだ。


 ヒュイと口笛を吹けば、旋回して指に留まる黒い鳥。エンデアベルトの親父からの伝達鳥。足につけたリングが指輪と対になっていて、僅かな魔力を辿ってきたのだろう。

 パキリ。


 足環についた小さな筒を開ければ、細長い魔法紙がふわと宙に浮かぶ。


   『 街に帰れるか 』


 ただ短い一文。そして、それだけではない含み文。


 何かあったのだろう。わざわざ俺達を呼び戻すとは。


 だが間が悪い。ついさっき、面倒な依頼を受けたばかりだ。

 俺はチラと後ろを見る。いつもの二人に加えて面倒な奴が一人。ふうとため息をつき、とっとと依頼を終えるしかねぇと腹を括る。



「アニキ、何が書いてあったんすか?」


 ザクリと坊主に近い白髪の男、ブルーの瞳が問いかけた。


 俺は魔法紙をペラと見せ、端に折り目をつけて筒に戻すと、ヒュンと腕を振って鳥を放した。


「あ、あれ? 違ってたんスか? 返事は……?」

「あ''、 今したろう? 間違いでもねぇよ。 分かっただろう?」


「いや、あの。 分かりません」


 


 こいつはコーディ。 お調子者で仲間の反感を買い、力不足もあってパーティに置いていかれた男。それに納得できず、ストーカーのように仲間にへばりついていたが、そいつらが行方不明になったとギルドに飛び込んできた。


 だだっ広い平原。視界は悪くない。忽然と消えたパーティ。


 普通なら撒かれたのだろうと相手にしない案件だが、つい数日前、Cランクパーティもこの平原で忽然と姿を消していた。


 ギルドが推す有望パーティ。素行もよく堅実な彼らと身の丈にあった素材集め。約束の期限まではまだ余裕があるものの “ 瞬く間に消えた “との目撃証言があれば放っておくことはできない。


 たまたま来ていたBランクの俺達に調査依頼が出された。


 討伐や範囲指定の調査ならすぐに済むが、この手の捜索調査は面倒な上に悲惨な結果となることが多い。正直受けたくない依頼だ。


「アニキ! 有志って志願したら入れてくれるってことっスよね? 俺、入れて貰いたいっス。ついでに仲間も探して欲しいっス」


 聞けばそこそこのDランク。どうせ長続きはしねぇだろうと連れ立ってこの平原にきたところだ。



 斥候のニコルが猛禽の従魔を伴って戻ってきた。

「穴は無いね。てっきりアビグワームかと思ったんだけど」


「ア、アビグワーム? それってすっごく深く穴を掘るミミズっスよね? 見たことないっス! 見たいっス」

 鼻息荒く興奮してるが、今、違うって言ったろう。 それにあいつらは群れるんだ。群れたら一番ヤバいのはお前だっつうの。


 いちいち立ち止まっていたのでは埒が明かないとキールに魔法の痕跡を探させる。転移だったらお手上げだ。


「んー、数日、あいたからなあ。おい、コーディ! できるだけ正確な場所を教えろ」

 珍しく前髪をかき上げて目を細め、繊細に魔力をたぐるキール。あれは疲れっからな。後で機嫌が悪くなりそうだ。


「はいっス!!」


 大喜びでピョンピョン跳ね回るコーディ。お前なぁ、仲間の捜索だぞ! ちっとは危機感を持てってんだ。



「ここっス! 多分ここっスよ! 俺、びっくりして尻餅ついたっスから。跡が残ってるっス!」


 ブンブンと手を振って呼ぶコーディに、俺はがっくしと肩を落とした。


 コイツがパーティを追われた理由が少し分かったぞ。


「あー、コーディ。お前が尻餅をついた場所はどうでもいい。仲間が消えた正確な場所を知りたいんだ」

 疲労感を漂わせたキールが、それでも優しい言葉を選んで伝える。


「そんなん、分かる訳ないじゃないっスか。だって俺、隠れてついて行ったっすよ?」


 悪びれない男だ。尻餅をついた様子を再現し、あちらの方だと指差せば見えた岩肌の角度が違うと、こっちの方を指し示す。要するに覚えていないのだ。


「アンタ役に立つったんじゃん。ちょっとは役に立ちなよ」


ーーーーバシュ。 グスッ。


「役に立つつもりなんスけど、無理っス」

ーーーーザクッ。


「ああん? 何でだ?」

 俺は近づいたグラスネイクをザクリと一閃して飛ばした。


「だって、アニキ達速いっス。俺、歩くのも剣を取るのも、ついでに言えばここにいるのだって必死っス。役に立つなんて三年早かったっス」


ーーーー三年かよ? 誰もがツッコミたかったが、あまりにキョトンとした瞳に呆れるだけで笑いを抑えた。

 

「大体、なんスか? 俺と話してる間に、何この魔物の山。近くのじゃなく、遠くのもんまで狩ってんスか? 見えねぇっス。いや、そこに居るんスけど、剣が動くとこ見えねぇス」


 退屈しのぎに積み上げた獲物の山を指したコーディ。いや、これ、全部お前を狙って襲ってきた奴らだぞ?


 次の瞬間、広がる大地に、突如として強烈な風が吹き荒れた。


 ゴウッゴウッゴウッ!


 平原特有の旋風。しかし圧倒的な力を帯びている風は、さながら自然の悪戯のようだった。ニコルの猛禽も彼方に飛ばされた。


 !!!


 今そこに、魔物の山を指した奴は何処にもいない。これか? 奴が言っていたことは。


「アイツ、役に立ったじゃん! ラッキーだったね」

「ああ、急ぎの俺にはちょうどいい」

「ふぅ。だけど今からが面倒だなぁ」


ーーーー来るよ!



 平原のど真ん中、音もなく急滑空してきたグライガー。翼がコウモリのような膜になっていて(くちばし)が尖った翼竜モドキ。切り立った岩山に巣を作り、平原の小物を餌にする。


 流石に飛び立ったり上昇したりするときには音が出るが滑空するだけなら無音。

 Cランクなら気づく奴もいそうだが、それ以下なら、奴らのスピードを捉えることは難しいかもしれない。しかも群れだ。

 一列になって餌を総取りする狩り。

 一羽二羽三羽・・・・隊列になって1匹に一人ずつ攫われる。


ーーーーヒュン、ヒュン、ヒュン・・・


 パーティの奴らが瞬時に消えたのはそういうことだ。だったら敵の懐に行くのが捜索の早道。



「来たぞ! ニコル行けるか?」

「誰に物、言ってんのさ」


 餌の俺らを嘴で一突き。その瞬間に奴の頭上に飛び乗った。

 ニコルが飛び乗っても、突っ込むことを止められる筈がない。少し怯んだスピードに俺もキールもシュタと飛び乗る。


 ザクッ! ドシャッ!


 俺らを狙う仲間は剣の餌食だ。太い縄で急遽手綱を繋ぎ、吹き飛ばされぬよう身体を縛り付ける。後はキールが器用な風魔法で何とかしてくれる筈。


 おい、してくれる筈だよな? おい、キール! いつもやってくれっだろう?!



ぐるぐるぐるぐる。

 回転して俺を振り落とそうとする。上下左右に振り回され、さっさと首を狩りたい衝動。グッと我慢で気分は最悪だ。



ーーーーザザザザザザ。


 切り立った岩山の頂上。岩肌に生えた茂みに突っ込んで着地したグライガー。チラと横目で見ればキールが何食わぬ顔顔でシールドを解いた。

 

 くっそったれ!


 歪む視界。口の中に酸っぱい香りが漂い、しばし降り立った木にしがみつく。



 パーティ仲間は持ちつ持たれつ。俺たちくらい長く一緒にいれば気を利かすのは造作もないこと。だが、今、キールの機嫌は最悪だ。俺のこの様を鼻で笑って楽しみやがって!



「おーい、生きてる?」

 岩の上からの逆さに覗き込んだニコル。どうやら現状を把握したらしい。


「グライガーの巣が幾つもある。多分繁殖地だ。魔物の生息域が変わったのかもね」

「ここは結構広いぞ? しらみ潰しは面倒だな。何か方法は?」


 キールが向かってくる奴らにアイスニードルを放つ。細かな斬撃はニコルが剣で打ち飛ばしている。俺はくいと水を飲み、周囲を見やった。


「ここはいい、捨てよう。生きてりゃ下山するだろう? 途中で残骸がありゃ拾うし、キャンプの跡がありゃじきに出会うさ」


「「了解」」


 パンと宙返って岩肌に着地したニコルはヒョイヒョイ茂みや岩肌を飛び越え、下山の道を探った。


 眼下に広がる森に渓谷。そこに向かって真っ直ぐに切り立つ崖。足場は無さそうだ。俺達なら強行突破も出来なくは無いが、遭難した奴らはそんな選択はしない。

 まぁ、生きていれば、だが。


「ーーーーアイファ」


 声を潜め顎でくいと指したキールを見る。嫌な顔だ。俺は覚悟を決めてそちらに目を凝らした。一際大きな茂。二羽の大きなグライガー。その中央にいたのは・・・。







読んでいただき、ありがとうございます!

続きは明日、7時に投稿いたします。


読者様がワクワクするような幸せが訪れますように。

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