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069 妖精の国



 眩しい光の後、ヒュンと静まった気配でそっと目を開ける。白い心地いい光がオレを温める。


「う、うわぁ」


 柔らかな澄んだ空気が頬をくすぐる。そこは気持ちのよい大木の上だった。大きな木の幹から太い枝が無数に飛び出し、さらに細くなった枝枝には新緑のような黄緑の柔らかな葉が生い茂り、薄い影を揺らめかせている。いくつかの枝からは清らかな水が流れ出し、いく筋もの細い滝となって降り注ぐ光と溶け合っている。


「驚いた? 妖精の国」

「水の精霊の国」

「アイカとキロイとアオロの国」

「「「いらっしゃいませ〜」」」


 くるくるとオレの周囲を飛び遊ぶ3人がにこりと笑った。


「す、すごい! き、きれいだね! 空気が、光が……。オレ、オレ、ここが好き」


 あまりの美しさに大興奮のオレは、握った拳に力を入れたまま一気に捲し立てた。


「空がすごくきれいだよ。ソラと、えっとオレの友達の鳥がいてね、一緒に飛んだら気持ちがいいかなって。水が透き通って、光ってきれい。すごい! 飛沫を受けるだけでオレ、力が湧いてくるの。身体からキラキラが止まらないって感じ。広くて、高くて……。友達のグランと一緒に駆け回ったらどんなだろうって。あっ、でもグランは大きいから無理かな? ん? あれ?」


 アイカの顔が近い。キロイもアオロも。あれ? みんな大きくなってる? オレは自分と妖精達を見比べた。さっきまではオレの手の中に収まりそうな大きさだったのに。

 すると上の方から優しい穏やかな声が響いて来た。


「ようこそ。妖精の国へ。私は水の精霊、ウンディーネ。私の子を助けてくれてありがとう」


 舞い降りて来たのは水色の透明なショールのような布を纏った美しい人だった。いや、ヒトの姿をした精霊だ。姿形はヒトと変わらないけれど、目だけがつるんと皮膚に覆われたかのように見当たらない。けれどもちっとも変ではなく、ただ凛とした美しさを感じる。

 オレはあまりの美しさにぼうっと見つめてしまった。


「ふふふ。本当に不思議なヒトの子ね。あなたはどうしてそんなに小さいの? あなたはどうしてそんなにキラキラと光っているの?」


 ウンディーネが白羽の扇で口元を隠しながら笑った。


「えっと……、オレ、小さいけど、小さくはないの。本当はもっと大きいの」

「ふふふ。小さいのに小さくないの? 変な子ねぇ」


「えっと、ヒトの中では子供で小さいけれど、妖精と比べたら大きいの。だけど、今は同じ大きさになっているから、びっくりしてるの」


「そうなのー。コウタ、縮んだの」

「妖精の大きさー」

「いっしょー。友達」


 三人がぴこぴこと空をスキップするように答えた。


「それから、キラキラはオレの魔力なの。オレ、器が大きいから魔力が溢れちゃうんだって」


「そうなのー。コウタ、岩をドンと砕いたの」

「ピシピシって壊したの。助けてくれたの」

「風でヒュン、砂を吹き飛ばしたの。魔法陣、使えるようにしたの」

 キャキャと笑いながら楽しげに話す三人に目を丸くした(ような顔をした)精霊がふふんと頷いた。


「規格外ってこと? あなた達、運が良かったわね。助かって良かったわ。 光の子、ここは妖精の国。と言っても客人を迎え入れるホール見たいな場所。ここには私とこの子達、それからあなたをもてなす数人の妖精しかいないわ。どうぞ遠慮なさらず、ゆっくりしていってね。ただし……。ヒトの世界とここでは流れる時間が違うから、決して眠っては駄目よ。眠くなったら言ってちょうだい。あなたのお家に送り届けるから」


 オレは大きくこくんと頷いた。分かった、寝ちゃ駄目なんだ。


「ウンディーネ様、もう一つおかしなことが」

 アオロが精霊の前に進み出た。


「コウタ、オイラに回復魔法を使った」


「「そうなの? すごーい」」


 アイカとキロイにパチパチと拍手をされてちょっと恥ずかしい。でもアオロとウンディーネ様の表情は固い。


「本当なのね、アオロ」

「うん。打撲や擦り傷、ほら何にもなくなった」


 そう言うと、アオロは腕を捲って精霊に見せた。アイカもキロイも覗き込み、わぁと感心する。


「ねえ、ヒトの子。もし嫌でなければ、あなたの魂を見せてもらえる? 決して悪いようにしないわ」

 ウンディーネ様は屈み込んで漆黒の目を見つめるように言った。魂……。どうやって? 山のお婆みたいに? そう思うとあの悪魔を思い出してどきりとした。


「大丈夫よ。怖くないわ。可哀想に……。怖いことがあったのね。約束するわ。酷いことにしないって。そうそう、アオロに手を繋いでもらっていたらどう?」


 不安気なオレを励ますような仕草に安堵して頷く。魂って……? アオロが力強く手を握ってくれ、アイカとキロイが背中を支えてくれた。うん、怖くない。


 精霊様はオレのおでこに扇子を広げ、呪文を唱えるた。頭上に金色の魔法陣が現れて竜巻のようにオレを包み込む。温かい。強い光。オレ、知ってる。この光。

 虹色に変わる光が長いリボンのように高いところから地上に伸ばされ、期待と高揚感でワクワクしながら滑り降りる。ずっと昔、オレが降り立ちたかった場所。


 エンデアベルトのみんなが呆れたように、楽しそうに笑った顔が見えた。悪戯な目でオレに生きる術を教えてくれた山のお婆。熊に乗せてくれた熊爺。ああ、ドッコイも一緒なんだ。一緒につまみ食いをして叱られたアックスさん。ソラに乗って見下ろしたラストヘブン。母様と父様に抱きしめられた腕の温もり。


 だれ? だれ? 

 オレを呼ぶのは?


 大好きなあの人。大好きで、ぎゅっとしたい。胸がぺちゃんこになる心地いい安心感。どうしようもないオレを、ただ受け入れてどうしようもない気持ち丸ごと、抱きしめてくれるあの人。



「コウタ、しっかり?」

「痛いの? 辛いの?」

「大丈夫? しっかり!」


 ガクガクと身体をゆすられて覚醒したオレは涙と鼻水でぐしょぐしょになっていた。ウンディーネ様がそっとオレの両手を取ると、ふわりとショールが揺れ上がり、オレをそっと胸元に誘った。


「ありがとう。崇高な魂を見せてくれて。女神の祝福どころか寵愛を賜っていたのね。小さな身体に収まりきらない魔力。それを受け入れてもあまりある器。ああ、こんな魂に出会えるなんて!」


「「「「コウタ、大丈夫?」」」


 赤、黄、青の宝石のような瞳がオレを覗き込む。ゴシゴシと目を擦って頷くとグーーーーとお腹がなってしまった。


「「「「 うふふふふふ、あははははは 」」」」

「さぁ、おもてなしね。妖精の国のご馳走、たっぷり召し上がれ!」


 緑に紫、橙に桃。カラフルな妖精達がお皿を抱えて飛んできた。大きなお肉。ホカホカのスープ。幾重もの光を反射したゼリー寄せに不思議な形のフルーツ。グラスを掲げると空中から果実水が注がれ、小さなスプーンに白いご飯が乗せられ、オレの口を目掛けて飛んでくる。


 ふふふ、楽しいね。美味しいね。賑やかな音楽が奏でられ、花や葉がくるくると舞い上がる。

 

 嬉しい、楽しい、心地よい。お腹も膨れて大満足のオレは人知れずこっくりこっくり船を漕ぐ。


 



ありがとうございます!


 今週はPVに動きがなく、ずんと沈んでいるYokoちーです。ここに来てくださった読者様に感謝申し上げます!!


ありがとう! ありがとう!

皆様に素敵な出来事がふわりくるりと訪れますように!

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