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067 追いかけっこ



 本に囲まれて暫くすると、瞼がだんだん重くなってきた。疲れているのかなぁ。お部屋に戻ろうかなぁ。でも、今、いいところなんだよなぁ。


 一人、図書室でうとうとし始めると、幻だろうか? 窓の下でほのかな赤い光が揺らめいている。雪の反射と日差しのせいだろうか? 暫くすると黄色の光も重なった。やっぱり気のせいじゃない?!


 本の跡が残る頬を持ち上げて光を凝視すると、微かな声が聞こえて来た。


「見えてるよ? 見えてるよね?」

「気づいてる? 気づいてる?」


 う……ん。あと少し。


 ぱちぱちとまばたきを繰り返し、光に焦点を当てる。赤と黄の光の中に小さな何かがいる……?


「いじめないで、光の子?」

「助けてくれる? 助けて欲しい」


 助けて? 助けてって言ってる? 大変! 驚いて潜めていた息が漏れる。


「ふぅぅ」


「あ、気づいたよ! 分かるかな? あたし達のこと」


ーーーー見えた!!


 ふわんと漂う光の中に小さな手のひらサイズの子どもが姿を現した。ふわふわの短髪は光の色と同調し、丸い可愛い顔がくっきりと際立っている。三角にも見えるドレスから細い手足が覗き、宙をくるくる舞う姿は絵本で読んだ妖精そのものだ。


「よ、妖精さん?」


「「 見えたよ、見えたよ。やったぁ!! 」」


「あのね、あのね、助けて欲しいの」

「崩れたの。魔法陣に。帰れない」


「崩れたの。重くて痛くて」

「死んじゃうの。早く来て」


ーーええ?! どう言うこと? 死んじゃうって?


 赤い妖精はアイカ、黄色い妖精はキロイと言う名前らしい。短い言葉で話すから、意味を聞き取るのが難しいけど、どうやら魔法陣が崩れて帰れなくて困っているみたい。


「オレに助けられる?」

「わかんない。でも来て! あたし達のこと、みんな見えないみたいなの。」


「「 あなたにしか頼めない 」」


 そう言うと二人はふわりと宙に浮き、凄い早さで移動し始めた。


「待って! 待って」


 オレは慌てて追いかける。


「ついて来て」

「捕まえて!」


「「 助けに行くの 」」



 図書室から飛び出した先に、バケツを持ったメイドさん。

「わぁ、ごめんなさい」


 ぶつかりそうになったところをくるりと回避。ふぅ、お水はこぼれてない。ちょっと目を回してるけど、ごめんね。妖精さんを見失っちゃう。


「わぁ、なんだ?」

 執務室のディック様と執事さんの間に割り込んだ。

 えぇ? 上に行くの? 


 オレはディック様によじ登って頭の上でジャンプする。ほら捕まえた?


 一瞬の浮遊感。気付くと執事さんに捕獲され、手の中の妖精は扉の方へ行ってしまった。


「コウタ様、危ないですよ」

「ごめんなさい。オレ、急いでるの」

ヒヤリと漂う冷気は気にせず、執事さんに頬擦りをして謝る。ほら、こうするとふにゃりと力が抜けるんだ。オレはするりと床に降り、妖精さんを追いかける。


 ボスン!

「痛てぇ! 何しやがる」


 アイファ兄さんの部屋に飛び込んで、あとちょっととジャンプをする。

 着地点は眠っていた兄さんの鼻。


 枕を投げられ、ヒュンと避ける。どうしてこんなに逃げ回るの? これ、追いかけっこだよ。助けに行くんじゃなかったの?


 お料理中のマアマのエプロンの下や、洗濯中のメイドさんの側、馬屋の扉にワイン倉庫。逃げては浮遊し、あと少しのところで消え、離れたところに現れる。オレは夢中になって追いかけるだけだ。


「きゃぁ」

「わぁ」

 ガシャン、ドカン、ザブン、ドテン。


 廊下を突き当たれば誰かにぶつかり、階段を上っては下って誰かを突き飛ばす。メイドさんが磨いていた壺が割れ、持っていたカゴが放り出され、水差しの水がこぼれて、クライス兄さんに降りかかる。

「わぁ、コウタ! 何やってるの?」


 ごめんなさい。


 だってだって見失っちゃう。捕まえてって言われたのに、あとちょっとのところで上に下にすばしっこく逃げ回る妖精達。ひいふう、息が上がって汗が流れる。


 ふと気がつくと暗い地下室に続く階段に来ていた。


 ここはキンと冷気が漂い、近づいたことのない怖い場所。どきりとしたけど、数歩先にゆらめく赤と黄色の発光体はふわりふわりと奥に進んでいく。オレはゴクンと唾を飲み込みながら壁をつたって一歩一歩進んでいく。


ーーーー ドクン


 不意に襲って来た高い鼓動。わわと目を瞑ると手のひらに温かな光を感じた。この感触。


 魔力?


 そっと目を開けると壁にピンクの魔法陣。オレは手のひらからピンクの光の渦に吸い込まれていった。



 ぴちゃん。


 シンと静まり返った道に出た。上から垂れた雫の音で我に帰る。

 足元に水滴。よく見るとそこかしこに小さな水たまり。さっきの場所より一際冷たい気配。上がった息が白く漂い、喉がキンと痛む。


「「 ここなの 」」


 妖精達が示した床に煤けたピンクの魔法陣が淡く光る。でもその上にゴロンゴロンと大小の岩が転がっていて、魔法陣が力を発動できないことがわかる。


「「 アオロなの 」」


「そこにいるの」

「石が重いの」

「「 助けて! 光の子 」」


 ポロポロと涙で濡らす石の下から細く小さな腕が覗く。

 し、下敷きになってるの? どうしよう!


 その石は一際大きくて、オレの力で持ち上がる物だろうか? 

 アオロという妖精は石の凹みに挟まれていて、なんとか呼吸ができる状態で気を失っている。岩の形は不安定で、今にもドスンと倒れそうに揺れ動く。オレが石を退かすのを誤れば確実に下敷きになってしまう。


「できるかな……?」

 自信がない。

 胸を押さえて小さく呟く。アイカとキロイがオレの目をじっと見上げて小さな瞳からキラキラの涙をこぼした。


「あたし達が見えるのはあなただけ」

「このままじゃアオロは死んじゃう」


 ソラがいない。ジロウもいない。兄さん達もディック様もいない。オレだけでできるだろうか。重そうな岩。バランスを崩しただけでアオロは下敷きだ。怖い……。


 足元に転がる小さめの岩を持ってどかす。このくらいなら一人でもできる。

 もう少し大きい岩も。うん、持てる。


 だけどアオロに乗り掛かっている岩はこの何倍もの大きさで、前に倒しても後ろに倒してもアオロの体に乗っかってしまう。どうしよう。



「光の子? 魔法で壊して」

「金の粒で岩を砕いて」


 大岩の前で立ち尽くすオレにアイカとキロイが祈るように声をかける。


 魔法……。


 だってオレ、砕く魔法なんて知らない。石を綺麗に磨く魔法は手の中で石が転がるもの。もし岩が倒れてしまったら? アオロが潰れてしまったら?


 ふうふうと呼吸が苦しくなって来た。オレの胸も潰されそうだ。


「……、う……」


 岩の下でアオロがわずかに動いた。駄目だ! ほんの一息でもぐらりと岩が倒れそうなのに、覚醒したら危ない!


「「 急いで!アオロが気がつく前に! 」」


 カラカラに乾いた喉にゴクンと大きな音をさせて唾を飲む。時間がない。やるしかない。


 オレは覚悟を決めて両手を前に突き出した。


 狙いは大岩の中心。


 魔力を絞って槍を突き刺すように、全体が粉々になるように真ん中に力を集中させる。そして風のように吹き飛ばすんだ。


 ただ一点。


 岩の中に魔力を浸透させる。


 鋭く、鋭く。


 オレの周囲から溢れる金の魔力が、渦を巻いて岩の中に吸い込まれる。一定の幅で。


 ほんの少しの息の乱れで吸い込まれる魔力が太くなる。すんでの所で細く修正。難しい。魔力を沢山こめてしまうとこの場所ごと吹っ飛ばしてしまう。


 小さく細く。だけど確実に。


 このくらい? 

 これくらい? 

 分からない。


 少なければ岩は砕けず倒れてしまう。多過ぎればアオロごと吹き飛ばしてしまう。心細くて、助けたくて、不安で怖くて目の前が大きく歪む。


ーーーーえぇい!!!

     ドガン!パラパラパラ


 灰色の粒子がピシピシと飛び、オレの頬を傷つける。涙で湿った瞳に砂塵が舞い込み前が見えない。どうなった? アオロは?



「アオロ、アオロ」

「痛い? 大丈夫?」


 二人の声が砂煙の中にキンと響く。淡い光が薄青い光を抱き抱え、オレの前にそっと置かれた。


 砂だらけの顔に涙の筋が幾重にもついて、その源に水色の宝石のような瞳が覗く。くたりとして方々に赤い血が滲むけど、にこりと笑ったその顔に大きく息を吸って安堵する。よかった、無事だ。


 身体中の力が抜けて足が細かに震えている。よかったねと笑いたくてもへにゃり脱力したオレの頬は小さな震えと汗と涙できっとぐしゃぐしゃだ。

 オレはふぅーと息を吐いてその場にぺたりと腰を落とした。











 今日も読んでいただきありがとうございます!!


 いいね、ブックマーク、評価など、アクションを起こしてくださり、感謝です。ありがとうございます!!


なんとブックマークがもうすぐ100件!!

すごいです! 嬉しいです。 お一人お一人の愛情をひしと抱きしめて頑張ります。


 読者様のもとに可愛い妖精が微笑みますように願いを込めて。

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