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057 母の温もり


 ふわふわ、すべすべ、ほよよん。懐かしい。忘れていた感覚。心に蓋をした想いが甦る。


 会いたい。


 お膝に乗って、ぎゅって抱きしめてもらって、ディック様のこと、アイファ兄さん、クライス兄さんのこと、たくさん話すんだ。そうだ、友達ができたんだよ。ドンクにミュウにリリア。村の人達は優しくて、オレによくしてくれる。


 あれ?

 ここはどこだっけ?

 母様……?

「か……かあさ……ま?」



 柔らかくていい匂いに目を覚ます。ことんとおでこが当たった先は、ふわふわでやわやわ。オレの手はサーシャ様の谷間に突っ込まれていた。

 ふと見上げるとサーシャ様が優しい眼差しで見つめていた。見下ろされる柔らかな微笑み。サラサラの金髪がオレの小さな呼吸で揺れる。

 

「あっ、ごめんなさい。オレ、寝ちゃってた?」


 水分を含んだ唇をジュルと拭き、慌てて起きようとするオレの頭を優しく押さえて枕にポスッと落とし込む。

 胸の辺りをトントンと叩いて寝かしつけてくれるけど、オレ、もう眠くないよ。


 鼻と鼻がくっつきそうなほどオレに近づいたサーシャ様は悪戯っぽく笑う。


「せっかく一緒に眠ってたのに、もう、おしまい?もっとゆっくり眠っていいのよ?」


 ふわりと花の香りを纏ったサーシャ様に急に恥ずかしくなった。


「うん。もう眠くない。あ、あの……、ごめんなさい」

 オレはドギマギして謝る。きっとお顔が真っ赤だ。赤ちゃんみたいだったよね? は、恥ずかしい。


 サーシャ様はゆっくりベットに身体を起こすとうーんと大きく伸びをした。それからオレを軽々と抱き上げて向かい合わせるとお腹の上におろしたんだ。


「さっきの、よかったわ」

「さっきの?」

 オレはことんと首を傾げる。


「ほら、母様ってやつ。コウちゃんたら私の胸をまさぐって母様って呼んでくれたの。覚えてないの」

「えっ……、あの、あの……、オレ、夢見てたの。それだけ、それだけだから。」

 

 ドギマギする心臓の音に合わせるかのように、きっとオレは全身を真っ赤に染めあげている。

 ま、まさぐるなんて……。柔らかな手触りが再び甦る。


「ねぇ、コウちゃん。私、新しいお母さんでいいのよね?」

 少し強い口調のサーシャ様にびくりと心が停止した。新しい……。



「あっ、違うの。言い方が悪かったわ。コウちゃんのお母さんは『母様』でしょ? いいのよ。それはとっても大切にして。 でも、私だってコウちゃんのお母様と同じくらいコウちゃんが大好きなんだもの。お母さんとか、母上とか、呼んで欲しいのよ。サーシャ様なんて、他人みたいじゃない。さみしいわ」


「は……は、う、え?」


 ぶんぶんと大きく頷くスモーキークォーツの瞳。

 でも、いいの? 兄さん達は?


「ねぇ、呼んでみて」

 強引なサーシャ様に見つめられ、オレは目をキョロキョロさせながら勇気を出す。


「は…………、ははうえ」


 わわ、恥ずかしい!


 オレは布団を頭からかぶって、すうはぁと呼吸を整える。少し経つとサーシャ様が布団をそっと持ち上げて、おでこをコツンと合わせて言った。


「コ、ウ、ちゃん。ふふふ」


 悪戯な目をして笑うから、オレも安心して笑う。


「ははうえ」


「コウちゃん」


「母上」

「コウちゃん」


 互いに呼び合うだけなのに、大好きな気持ちがすとんと心に溶けていく。あんなに恥ずかしかったのに、今はこんなにも愛しく呼べるなんて!


 ぎゅっと身体を抱きしめられて、きゃははと身体を預けてしまえば、サーシャ様の腕の中がとっても心地良い。


 呼べるかな? 呼んでいい? 


 うん、母様とは違う、兄さん達と同じ呼び方『母上』なんだ。


「ゆっくりでいいの。時々でもいいのよ。コウちゃんが『母上』って呼んでくれたら、私、もっと幸せになるわ」

 夢見心地で微笑むサーシャ様。


 えぇ? そうなの?


 オレが母上って呼ぶだけで、もっと幸せになるの? それって、今も幸せってこと? 

 オレがいる、今も幸せってこと?


 どくどくドクン。

 胸の鼓動が高鳴って、オレはじっとしていられなくなった。


 嬉しい、嬉しい、嬉しいよ!




 昼になるとクライス兄さんがオレ達を呼びに来た。今日のお昼はお店で食べるんだって! 大丈夫か?って聞かれたけど、大丈夫に決まってる。オレはキラキラを振りまきたい気分だったけど、もちろん我慢したんだ。だってここはナンブルタル領だからね。



 屋敷から馬車に乗って町に繰り出す。今日は晴れていて比較的暖かい。ソラの瑠璃色が海と空に混ざって見えなくなる。光の反射か嘴なのか、オレは目を細めてうっとりと眺める。魔獣の皮膚を加工した透明な窓は景色をほんの少し歪ませるけど、暖かな光だけを通して心地良い。


 サースポートは交易の町だ。主に国内の中央と東部地域、そして穏やかな南の小国とをつなぐ海路で、活気付いている。

 高い建物の窓から窓にロープが通され、カラフルな洗濯物がはためく。店先には船の帆を使った軒先が作られ、商品を並べたり呼び込みをしたり。行きには感じなかったような雑多で賑やかな景色にオレのワクワクが止まらない。


 あれは何?

 これは?

 あの人は何をしてるの?

 オレの矢継ぎ早の質問に兄さんがふふと笑う。

 

「予想通りの反応だよね。解説が追いつかない。落ち着いて! ほら、あれは果実水を作りながら売ってるんだよ。珍しい果物だね。こっちは芋を焼いてるんだ。あの壺に薪が入っていてね……」


 馬車の高い窓にぶら下がって外を覗くオレをサーシャ様が支えてくれている。


ガタン!


 馬車が大きく揺れると、よろけたオレを抱く手にぎゅっと力が入った。


「大丈夫? 強く抱きすぎちゃったかしら」

「ううん。オレこそ、ごめんね。重くない?」

 向き合って大きな瞳を覗き込む。薄い紅茶色の瞳にオレが映る。


 ああ、オレ、こんなにも守られている。


 嬉しくなって首元にしがみつく。

「母上、だぁい好き!ありがとう」


「・・・・・・・・!!」


「わぷっ!!!」

 頭ごとぎゅっと抑えられ、オレがジタバタしても中々離してくれないサーシャ様。


「えぇ、なにそれ! 母上、ずるいです! 何をなさったんですか? コウタ、兄ちゃんは? 兄ちゃんのことは?」

 クライス兄さんの悔しそうな声が聞こえる。だからオレは大きな声で言ったよ。


「母上も、クラ兄も、メリルさんも、だぁい好き!!」




 母上と兄さんとメリルさんと立ち寄ったのは小さいけど高そうなお店。小さな看板が他の店と違うことを主張している。

 シンプルな扉を開けると、海の中の様子なのか、波や貝殻みたいな装飾が施してあった。食事は貝やお魚が中心。ふわふわの白身のお魚や、複雑な旨みの貝のミルクスープ。珍しい野菜のサラダにツルリと喉越しのいいデザート。どれもとっても美味しくて沢山食べちゃった。


 お口いっぱいに頬張ると、みんなが嬉しそうな顔をして、オレも目一杯嬉しい顔をするんだ。



 食事の後は行商をしてくれている大商会に行ったよ。大商会は一際大きな建物で、小さな食品のお店から、家具や調度品などの高級なお店が連なっている。オレ達は一番大きな建物のとっても豪華なお部屋に案内して貰ったよ。

 そこでは、いつもモルケル村まで行商にきてくれていた商人さんに心からのお礼と安らかにってお祈りを捧げた。商会の大旦那さんは涙を流していた。良い人だったんだね。本当に残念だ。


 兄さんが今後もモルケル村に行商に来て欲しいと頼んでいた。モルケル村には商店が少ない。仕入れをするのも、足りない物を買うのも行商が頼りだ。

 村の人が最寄りのランドまで足を伸ばすと1日がかりになる。その日は仕事ができないし、馬車代もかかるからね。だから行商って大切なんだね。


 亡くなった商人さんを偲んで、少し沈んだ気持ちで大商会を後にした。次は、教会に行くんだ。オレを治してくれた神父様に会いに行くんだって。オレ、お熱だったからあんまり覚えていないんだ。あの時言えなかったお礼をきちんと伝えよう。


 少しずつ傾くお日様。ピッと散歩を終えて肩に乗ったソラ。オレ達の馬車はカラカラと軽快な音を立てて進んでいく。


 






今日もありがとうございます!


先日、1日のPVが1000を超えまして、震えるほどに喜んでいます!


 いいね、ブックマークもありがとうございます。


 初投稿の月からブックマークをつけてくださった読者様に励まされ、力をいただき、ここまで来れました! ありがとうございます! 

 そしてコウタに会いにきてくださった皆様、全ての読者様に感謝しています!!


 一ヵ月半続いた毎日投稿ですが、次回3日より奇数日投稿とさせていただきます。申し訳ありません。

 これからも精進してコウタともふもふ、愛してやまないキャラ達が頑張りますので、応援、よろしくお願いいたします。


 では、本日も皆様に幸せな出来事が降り注ぎますように。

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