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043 クライスとコウタ


くっ、これは……。


 父上から貰ったという毛布を引きずって僕の寝衣の裾を小さな手がぎゅっと握る。ほんのりと潤んだ漆黒は僕を見上げ、小さな唇をちょっと突き出す。


「一緒に……寝てほしいの」


 小さな声で頼りなげに囁かれたお願いを否定する勇気があるだろうか?


 ある訳がない。嬉しくて堪らない心の内をひた隠しにして、クールに許可を出す。

「仕方ないなぁ。今日だけだぞ」


 本当はいつだって、ずっとだってOKなんだけどね!


 パッと笑った瞳が僕を写せば、ほら、胸が高まるよ。きっと君はすぐに寝てしまう。その短い時間をどうやって過ごそうか?


 挙げられた手に応えてぎゅっと抱き上げれば柔らかな頬がぺたりとくっつき、サラサラの髪とシャボンの匂いが僕の顔を緩ませる。

 うふふと笑みを溢し合えば至福の時間の始まりだ。僕とコウタ、二人だけの時間。邪魔が入る前に、部屋に行こうか。


 コウタの部屋に行くと、アイツはソラのベットである帽子を手に取り、僕の手を引く。どうやら今日は僕の部屋で寝るらしい。


「だってオレが寝ちゃったら、クライス兄さんはきっとサロンに戻るか自分の部屋に行っちゃうでしょう? 今日はオレ、夜中に目覚めた時に一人だったら悲しくなりそうなんだもん。今日だけだから!」


 理屈をこねながら、自分を納得させようとするコウタにクスクスと笑い声が漏れる。


 あぁ、可愛い顔が膨らんだ。


 でもね、その顔はぎゅっと抱っこして、ふふふと頬を擦り合わせると、ほら、笑顔になる。


 何だろう。


 無条件に愛しいと思えるものの存在。可愛がって可愛がって、それだけで心が満たされる存在。こんな生き物がいるなんて知らなかったよ。



 王都から持ち出した荷物が散らかる部屋に、コウタは興味深々に見て回る。これは何? どうやって使うの? 質問攻めに僕はたじたじ。

 だってそれは古代の遺跡から出てきた物で、僕だってまだ研究中だ。


 「あっ! これ知ってる」

 なんだ、なんだ? それ、最近発掘された遺物。僕だって知らないよ。


 手に取ったのは丸い球体に細長い筒がつけられ、魔力が抜けた魔石が筒の中央に収まっている物。錆びた金属のような、煤けた石のような千年の歴史を感じさせる物。


 ふふふと笑ったコウタはふわりと金の粒子を渦に巻き、魔石に黄色の輝きを取り戻させた。


「わぁ、えっ? 本当に?」


 人差し指で小さな唇を押さえ、シィと告げたコウタ。丸い球体に向かって小さく声を出す。


「ふふふふ、兄さん(さんさん) だぁい好き(すきすきすきすき)」


 僕の透き通った紅茶色の瞳が漆黒に染められた。わずかな息さえ漏らすのが勿体無い。


 コウタが持つ遺物から可愛い声が、大好きと言う言葉が幾重にも反響し、僕を、大気を震えさせる。

 無意識に過ぎる1秒1秒が途方もなく愛おしく、それが僕自身に跳ね返ってくるようで。


 ああ、君ってなんて凄い生き物なんだ。可愛くて愛しくて、ただ愛されるだけにそこにいるようで。

 かけがえのない僕の宝物。



 きゃあと興奮する悲鳴にも似た声に現実に引き戻された。


「ねぇ、これ本? 凄い! 触ってもいい?」

「今度は何? コウタ、本が珍しいの?いいよ、触って。どうせ読めやしないんだから」


 何に興味を惹かれたのか、さっぱり分からないけれど、嬉しそうに大切そうにページをめくる。


 はははは、眉毛と眉毛がくっつきそうだよ。口をへの字に歪めて難しそうな顔をしている。君にぴったりの本は屋根裏の物置部屋だね。明日、持って来なくっちゃ。


 小さな手を取り、パタリと本を閉じさせると、もっと見たいと慌て出した。

 ねぇねぇ、君は本来の目的を忘れちゃったのかな?


 いつまでも君と遊んでいたいけど、寝不足になると不機嫌になるからね。この前は無意識にスプーンが飛んだんだから。


 ベットに腰掛け、トントンと隣を叩けば、少し後ろに下がったコウタが勢いよくベットに飛び乗ってくる。うん、君が腰掛けるには少し高かったか……。次は抱っこだなと頭を撫でる。


 二人でソラのベットを整えると、ソラはピピと鳴いて丸くうずくまった。指先でそっとソラを撫でるコウタを、僕もそっと撫でる。可愛い顔がこんなに近い。あぁ、愛おしいなぁ。


 ランタンの灯りを消して布団に潜り込むと、早くも目が溶けている。待って、待って、もうちょっとこの時間を楽しもうよ。

 今日は何が楽しかった? 君の目が輝いたのはどんな時?


 うふふ、下がる瞼を押し戻そうとする姿がいじらしくて、勿体無いけど、そっと手を添え、瞼に味方する。

 ふにゃりと不機嫌そうな顔が一瞬。ふふふと微笑みながらすやすやと立てる寝息が今日の君の成果なんだね。



 今日は月明かりが照らす明るい夜だ。寒い中、兄さんたちは野営をしているのだろう。しんと静かな闇が空気を冷やし、離れた彼に思いを馳せる。


 うん、僕もコウタがいてくれてよかった。


 月が消え、真っ暗だったら……。

 風がうなり窓が軋んだら……。


 遠くにいた時は思い出すことはないのに、近くにいるってわかっているのに、心配って気持ちは不思議と心を弱くする。


 ツンと頬を突いても、くしゅくしゅと髪を撫でても、ぐりぐりと腹をつまんでも、君はバンザイの姿勢で微動だにしない。


 この小さな身体に、たくさんの哀しみとたくさんの後悔とたくさんの優しさが詰まってる。そして、僕たちの愛をたっぷり吸収して大きくなるんだね。


 僕もまだまだ大きくなるよ。

 父上みたいに。兄さんみたいに。


 だから、ゆっくり大きくなっておくれよ。

 僕が追いつかれないように。


 そして僕にも護らせておくれよ。



 いつの間にか、コウタの寝息と僕の寝息が重なって、シンフォニーを奏でているようだ。きらきらと輝く粒子がコウタから溢れて心地いい。


 コウタがキャキャと笑った時のよう。

 一緒にブランコで揺れている時のよう。

 

 気持ちいい……温かい……干したての布団に包まれたような……お日様に抱かれたような……。





「これが寝落ちってやつか……?」

「うふふ、クラちゃんたら。大きくなってもまだまだ子供ね」

「何言ってんだよ。とっくに成人させたろう?」

「いいのよ、子供で。いつまでも護っていたいじゃない」

「……そうだな」


 二人は、はだけた布団をそっと直し、パタンと扉を閉める。




「習性なんだよ。強いのが来たら起きるでしょ。いつまでも子供扱いだなぁ」

 目覚めたクライスは、ふふと笑うと満たされた顔で眠る弟をそっと見つめた。






 

読んでくださり、ありがとうございます!


コウタが見つけた遺物。さて、なんでしょう?!

物語は謎解きではありませんが・・・。

クライスとコウタのイチャイチャ姿、大好きです!


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