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042 狩り


 アイファ兄さんに言われた通り、魔力操作に挑戦だ。


「では、身体の奥にある温かなものを感じましょう。目を閉じて、心を穏やかにして、集中ですよ」


 裏庭の真ん中で、オレはあぐらを組んで、執事さんの言葉に耳を傾ける。


 温かいもの、温かいもの……。


 思い出すのは山での暮らし。

 小さな囲炉裏に鍋がかかっていて、はしゃぐ母様に呆れる父様。アックスさんはいつも何かを食べていて、熊爺はお酒を呑んでいて……。


 ソラに包まれて眠るのも温かい。

 羽と羽の隙間にズズッと潜れる場所があって、ソラの身体に入り込めるんだ。


 そうだ、温かいのはホットミルク。

 ソラの羽に潜り込んでホットミルクを飲んだとき、うっかり溢しちゃったんだ。ソラがビックリして思い切り羽をばたつかせたら嵐になっちゃって……。


 違った。


 今はホットミルクだ。

 あぁ、やっぱりベリーの蜜漬けがいいな。濃いピンクをくるくる混ぜると薄い淡いピンクになって、甘い匂いがして……、甘い……、甘い……。



「コホン、コウタ様。集中は難しいようですね」


 執事さんの咳払いとクスクスと笑っているメイドさん達にハッとする。


 しまった!


 じゅるると垂れたよだれを拭いて、慌てて目を閉じ直した。


「あははは、コウタって賢いと思ったけど、忍耐力はお子様だったねぇ」


「違うよ! し、集中しようとしたから、色々考えちゃって……」


「それで、よだれが出ちゃったんだ? あははは、無理しなくっていいんじゃない? だって顔が……、表情がね、コロコロ変わって、面白いったらないよ。アイファ兄さんがいなくて正解だ。」


 珍しくクライス兄さんに揶揄われて、オレはちょっとムッとしている。だって、何もしないのに集中なんて難しいよ。



「クライス兄さんは魔力、ないの?」

 兄さんはひょいとオレを抱き上げて、ブランコに座ると、ゆっくり漕ぐようにして話した。


「うーん、生きてる者は人でも魔物でも、多少は魔力があるんだよ。ただ、それを放出できるほどあるかっていうと、僕には難しいかな。アイファ兄さんや父上なら、自分の飲み水くらいなら捻り出せるけどね」


 冷たい風がおでこを撫でて、兄さんとオレのサラサラな髪が、一本一本バラバラに解けて風に溶けていく。


「コウタはさ、しょっちゅう不思議なことを起こしてるけど、その時、何か感じる物はないの?」


 兄さんの質問に、空を見上げて考える。


「えーと、お願いするとか、こうなるといいなとか、ちょっと考えるけど……」

 

「その時に、力の流れとか、こう、何かが溢れるとか、変化はないのかな?」


「どうかなぁ? キラキラが溢れてるっていうのは聞いたけど、分かんない」

 すると兄さんが驚いたような顔をした。


「誰に聞いたの?」


「馬さんとか牛さん……」


 オレの顔の横でぷうと吹き出す兄さんに、じとりととした目を送りたいけれど、残念。 今、オレは兄さんの腕の中だった。


 オレは兄さんに降りるサインを出して、よっと飛び降り、風下で待つ執事さんの方に走って行った。

 勢いをつけてぴょんと飛びかかったのに、こともなげに抱き止められてそっと下ろされた。



「魔力を感じるのは誰だって時間がかかるものですよ。ゆっくりやりましょう。コウタ様は普段のまま、そうですね、何気なく使う魔法の中から力を感じる方が早いかもしれませんね。ですが、くれぐれも館の者以外がいる所ではなさらないように」


 オレはこっくり頷いて、館の中に戻ることにした。だって心がホットミルクを求めてるから!


 サロンで休憩をしていると、仕事に飽きたディック様が小さな弓のセットを携えて入ってきた。


「コウタ、ちょっと狩りに行くか?」


「行く!! 行くよ! 狩り? 本当に!!」

 即答だ。喜びの花吹雪。どこから湧いたのか薄い花びらがひらひらと舞い、すっと消える。


 額を押さえる兄さんと執事さんを横目にディック様はワハハと笑って嬉しそうだ。


 執事さんに仕事をしていないことを責められつつ、ちっとも懲りていないディック様。でも、サーシャ様がかっこいいズボン姿で颯爽と表れたからお小言はおしまい。


「サーシャ様、素敵!! どうしたの?」

「うふふ。ほら、コウちゃん、アイファ達のこと心配していたでしょ? 不安がなくなる訳じゃないけど、似たような経験を積めば、少しは気が紛れるんじゃないかと思って……。でも、狩りよ。命のやり取りだから怖いわよ。それでもいい?」


「うん。大丈夫! オレ、慣れてはいないけど、小さな魔物を狩って大雑把だけど解体したことはあるよ。だって、一人になったとき、ご飯が作れないと困るでしょ? ーーーーわぷっ?!!!」


 オレは大丈夫だよって伝えたのに、サーシャ様は突然オレを抱きしめて肺の空気を一気に萎ませた。


 慌てたクライス兄さんに助け出されなかったら大変だったよ。執事さんもメイドさんも目元を押さえていた。オレはもう大丈夫だけど、みんな、オレのことを心配してくれている。山の話はしないほうがいいのかな……。



 オレ達は街道から少し外れた荒野に狩りに来た。ディック様がオレを抱っこして馬を操る。サーシャ様は少し前を行くよ。


 狙いはリトルスース。荒野を好む首が長い小さな豚だ。小さいって言ってもオレくらいの大きさだって! 岩に擬態するから見つけるのが難しいけれど、警戒心は薄くて比較的近くまで行けるから初心者向け。でも皮膚は硬いから狙いの正確さが大事だ。


 急所は長い首の付け根。そこだけはスッと矢が入るらしい。


 実戦の前に弓の準備だ。オレは弓に矢をつがえて引いてみる。弓が大きくて引くだけでも大変だ。ディック様が何度か調整してくれたけど、オレ一人では難しい。だから支えてもらうことにしたんだ。


 荒野の岩場で馬を降り、スースを探す。サーシャ様の手招きで場所を確認してーーーー今だ!


 ヒュン!! パチッ   ポトリ


 残念、折角当たったのに急所から外れ、矢が地面に落ちる。瞬時に隠れていたサーシャ様が飛びかかり、剣で薙ぎ払った。


「驚いた……。本当に弓が使えるんだな。アイファより筋がいいぞ。」


 矢が外れたのにディック様は褒めてくれた。ガシガシと髪を撫でる手は重くてあったかい。


 でも狩りは数センチのミスで命取りだから、オレはまだまだだ。


 もう1頭ーーーー行くよ。


 ヒュン!!  パチッ  ポトリ


 オレの矢が外れると反撃を防ぐためにサーシャ様の剣が走る。早くて美しい、無駄を削ぎ落とした剣。魔法は纏ってないけれど、母様の剣と似ているかも。



 次こそ

ーーーー息を潜めて急所を見つめる。

 矢がオレの呼吸に応え、温かい風が吹くかのようにオレの周囲から粉粒が纏いつく。これ…………これが魔素?!


 ヒュン!  シュタ!!

ーーーーーービギギギ


 痺れるような軽い稲妻にドサリとスースが倒れた。首元には矢が刺さっている。

 サーシャ様が振り返った。

「今の……魔法?」

 ディック様も目を大きく開いて頷く。


「お前って奴は、何をしてもマトモにならんな。だが、すげぇぞ。自分を誇れ!その血に感謝だな」

 わしゃわしゃと頭を撫でられ、驚いたままのオレをぎゅっと抱きしめたディック様。


「俺たち、ヤバイのを育てている気がするが……、子供っちゃこんなもんだな。ガハハハハハ」


「そうね! 凄いわ! 初手柄ね! 今日はご馳走よ」


 サーシャ様の馬に、狩ったリトルスースを括りつけ、オレたちは館に帰る。


 今日はリトルスースのステーキだ。ディック様の代わりに仕事に精を出したクライス兄さんと執事さんもとっても驚いて、沢山褒めてくれた。アイファ兄さんたちには塩漬けにして残しておいて貰おう。


 アイファ兄さん、今度はみんなで一緒に狩りに行こうね!

 




 


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